生活人コラム



 INO.VOL.1 上手な病院のかかり方

 [執筆者]
 井上 透
 [紹 介]
 ブリジストン健康管理センター勤務の産業医。大学講師。医学博士。
 4月からは、西日本新聞の『健康と福祉』欄で『産業医のメモ』を担当されています(毎週木曜日の朝刊)。



 NO.1 ホームドクターのすすめ 96.6.1

 最近は医療の高度化・業務の増大に伴い医者の間でも専門化・分業化が進んできています。
 臨床医にはそれぞれ得意分野がありますが、その得意分野を大切にしながら大きく二つのタイプに別れていく流れがあります。ひとつは一般医(Generalist)であり、もうひとつは専門医 (Specialist)です。
 主に前者は開業医で、後者は大学病院・総合病院に勤める勤務医に相当します。ただし、開業医でも、眼科・耳鼻科その他の特殊診療科を標榜している所は専門医に近く、本当の一般医に近いのは内科医です。

 病気もいろんな種類があり、ありふれた病気の時は一般開業医が診た方が効率的であり、経済的負担も少なくて済みます。しかし、特殊な珍しい病気の中には開業医が抱え込むと治療にも限界があるため、専門医に診てもらった方がきちんとした管理・治療ができるケースもあります。
 また、カゼのように一時的に悪化して治癒する病気と、高血圧症・糖尿病などのように、一生つき合わなくてはいけない慢性病でも、病院のかかり方は違ってきます。
 さらには、病院受診で数多くの検査がなされても、それが本当に必要な手厚い高度診療なのか?過剰診療なのか?の区別は、一般の人にはわからず、医者の良識に任されています。

 皆さんは、知人や親戚の評判だけを頼りにして病院選びをすることもあるでしょうが、以上のような認識を持っているでしょうか?その地域特有の事情に詳しいのは、やはり医療機関に携わる者です。
 健康なうちから、身近に気軽に相談のできるホームドクター(内科一般医)を持つべきです。

 良い医療が成立するための前提条件として、医者と患者の間の信頼関係があります。
 最初は担当医の診療を素直に信じていたのに、自分が思っていたほど病状が良くならない時や、他病院にかかって病状が改善したという評判を伝え聞いた時に、もっと良い医療を求めて病院めぐりが始まります。
 病気には、治癒は望めず、コントロールしかできないものがあります。しかし、自分が不治の病であるとは受け入れ難く、担当医に内緒で他病院に受診します。

 医者は、新しい患者を診る時に、必ず、過去の受診歴を調べます。特に、慢性病であるほど、過去の経過を知ることが大事です。
 結局、前医への問い合わせから発覚し、不信感を持たれます。病院めぐりをする患者は、医者からは要注意の眼で見られるので、結局、満足のいく医療は受けれません。
 原則的に、他病院受診時は、前医の紹介状持参が賢明です。
 この時に、患者さんの転院の希望は、本人の病識不足のため誤った判断であることもあります。まず、担当医との対話を重ね、十分に説明を受けてからその是非を検討するのが信頼関係維持のためにも大切です。

 良い医者の条件には、二つのものさしがあります。
 第一は、高度医療技術を持ち、腕が良いかどうかです。長年のかかりつけ医の中には、あなたの今までの病歴と体質を熟知しているのは良いのですが、新しい医療を受け入れず、昔の診療形態にこだわっている先生もいます。常に勉強をして、新しい医学を学んでいるかどうかです。
 第二は、誠意があり、親身にあなたの相談を聞いてくれ、質問しやすいかどうかの相性の問題です。ただし、外来が多すぎて患者さんと十分に会話ができない忙しい先生もいます。
 専門病院に状況に応じて快く紹介してくれる、人格的に優れたホームドクターを選びましょう。

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 NO.2 医者とのつきあい方 96.7.1

 昔は、診療科名を見ただけでも、自分が受診するのにふさわしい病院かどうかがわかっていました。しかし、今では、医療の専門化・細分化のために、必ずしも各自の納得できる医療が享受できるとは限らなくなりました。

 これは、従来の医療法にある医療機関の広告規制のために、患者さんに必要な情報が入りにくかったこともあります。
 平成4年の医療法改正で、予約診療の有無・紹介の状況・休日診療の状況・駐車場の有無・往診の有無などの広告が認可されています。電話帳のタウンページにもそんな広告が増えてきました。
 休日診療している病院や、診療時間を遅くまで設定している病院も増えてきています。時間外診療にならず、勤務の時間を調整しなくても良いことがあり、たいへん便利です。

 病院の性格・特殊技術・利便性・快適性を知る事に、もっと興味を持っても良いのではないでしょうか。
 これからは、患者が医療をお任せする時代から、受診に必要な医療情報を求めてよりふさわしい病院を選択する時代になってくるでしょう。

 検査や治療を受ける時に不安や疑問点があれば遠慮なく質問しましょう。
 医師には療養方法等の指導義務があります。もしも質問に抵抗があるならば、まだ信頼関係はできていないということです。医療行為前の意義と目的の説明、さらに、後の結果の説明を受ける事は、医師と患者の信頼関係を維持するためにも大切です。
 また、できるだけ末永く健康で病状の悪化なく生きるのが大事ですが、さらには、いかにその患者にとって生きがいの多い人生を歩める手助けができるだろうかという誠意を担当医から感じとれたなら、良い医者だといえるでしょう。

 高血圧や糖尿病などの慢性病で薬を内服している場合は、原則的には一生涯続けないといけません。生活スタイルを改善し体質が変われば、減量・中止できるケースもありますが、何もせずに自然と良くなるのはまれです。
 慢性病の内服薬は、その名前と効能はいつでも示せるように記憶するか手帳にメモしていてください。担当医に直接尋ねるか、もしも忙しそうだったら薬剤師に窓口で教えてもらってください。
 別の病気で他の病院にかかった時に、現在内服中の薬がわからないと、担当医はたいへん困ります。薬物の中には、重複したり組み合わせによっては副作用がでることもあるからです。また、今までの薬の効果とその経過を見て治療方針を変更することもあります。
 薬は指導されたとおりに内服し、減量・中止したい時は必ず相談して下さい。担当医は、患者さんがそれらの薬をきちんと内服していると信じて、その時の血圧や血液検査の結果をもとに薬物を変更していきます。仮に、内服が不十分でもその状況を正直に申告しないと、誤った治療に陥ってしまいます。

 病院嫌いで、いきなり民間の特殊な薬・健康食品に手を出す人もいます。
 民間療法の中には確かに有効なものもありますが、過剰広告のものもあり、例えば、100人にひとりしか効果がないのに、その1症例が大げさに宣伝されることもあります。
 病院薬は、発売前に厚生省の指導のもとで大学病院で疫学的な治験調査を行い、ある程度の有効性と安全性が認められ許可されたものです。だから、確率的にも、まず最初に病院薬を試したほうが有利です。
 病院薬の効果が満足できない場合の民間薬の服用は本人の勝手だと思う人もいますが、副作用の問題もあり、事前に必ず担当医に相談をしてください。

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 NO.3 病気への心得と夏バテ 96.7.1

 患者さんの中には薬好きの人もいます。医師が診察後に、病状が軽いため生活指導だけで薬を出さない時、嫌な顔をする人もいます。
 中には、点滴好きの人もいます。
 外来診療で点滴が本当に必要な場合は、原則的には、嘔吐・下痢などの急性消化器疾患、ひどいカゼなどで飲食できない脱水状態の時、アルコール・薬物中毒の時ぐらいで、その他は特殊な治療の時に限られます。点滴・注射は最高の治療と信じている人もいますが、医学の進歩とともに、内服薬の中には注射以上に有効なものも増えてきました。
 患者さんから催促しないようにしましょう。

 病気には、その発症パターンとして、大まかにふた通りあります。
 第一は、まず、不快な症状とともに発現し、急激に増悪していくものです。この中には、一時的に悪化して急に改善回復するものと、そのまま悪化の一途をたどり不幸な転機をとるものがあります。
 第二は、自覚症状の全くないままに徐々に増悪していくものです。経過が緩やかなため、体が慣れてしまい、手遅れになるほど病状が進行しないと症状がでない場合もあります。
 第一のパターンでは、皆さんも迷わずにすぐに病院受診をするでしょうが、第二のパターンでは、放置しているケースも多いものです。実は、無症状で経過する病気ほど重症化すると治りにくいのです。しかし、逆に、早期に発見し、生活節制をして治療を施せば良くなるケースは数多くあります。健康診断でひっかかる病気は、この場合に相当します。

 自分の体に過信して、自覚的には調子が良いし、自分の体調は自分が一番わかっているから大丈夫と驕る(おごる)人が、実は危ないのです。健康管理者から病院受診を勧められたら素直に従うのが賢明です。

(夏バテ)

 暑さは、自然環境が生体に及ぼす最も強いストレスです。
 涼しい所でゆっくりするのが一番良いのですが、高温作業場で頑張っている方も大勢います。多量の発汗後の脱水状態では、血液の濃縮をきたし、脳梗塞を起こしやすくなります。
 高齢になるほど、実際は脱水状態なのに喉の渇きを自覚しなくなりますので、心がけてやや多めに水分をとる習慣をつけてください。ただし、冷たい飲み物を摂取しすぎると胃液が薄くなり、消化吸収能力の低下とともに下痢をきたします。水や炭酸飲料ばかりでなく、牛乳・ヨーグルト・野菜ジュースでも水分をとるようにしましょう。

 食欲の低下からさっぱりした物しかとらないので、糖分の割合が多くなり、蛋白質・脂質・ビタミン不足の偏食になりがちです。
 食欲増進のためにも、酢・香辛料・梅干し(ただし高血圧の人はほどほどに)を上手に使ってください。また、効率良く高カロリーを得るためにも、ビタミンB1を含む豚肉・うなぎなど(ただし高脂血症の人はほどほどに)をすすめます。

 さらに、紫外線にあたりすぎると免疫機能に異常をきたし、抵抗力が落ちてきます。過度の日光浴は禁物です。
 また、暑くて寝苦しい毎日が続くと、睡眠不足となり夏バテを誘発します。深酒で睡眠時間が短くならないように注意し、時には、快眠のため水枕やござの布団を試してみてください。

 食欲不振・脱力感・夏カゼの原因として冷房病が増えています。冷え症の人は循環が悪いので、手足の先だけを冷やすと全身の体温のアンバランスをひきおこします。
 長時間薄着のままで冷風を直接体に受けないようにして、冷房温度を27〜28℃に調整しましょう。
 暑い戸外と冷えた所の出入りによる温度差ストレスに注意しましょう。

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