生活人コラム
INO.VOL.15 景気回復への一提言【井上 透】--2003.7.1
[執筆者]
井上 透
[紹 介]
ブリヂストン健康管理センター勤務の産業医。大学講師。医学博士。
企業の健康管理センタ−に所属して、社員の肉体的および精神的な方面まで含めた総合的な健康管理の仕事をされています。
小泉政権の「アメリカのイラク攻撃指示表明」した国際外交判断は正しかったと思いますが、景気対策に関しては失政を続けていると思います。この2−3ヶ月のSARS問題の影響でアジア全体の景気低迷が避けられそうにもありません。
私は医師であると同時に民間の企業人でもあります。企業人の立場で今の経済政策について提言をしたいと思います。
不況に対する最大のカンフル剤は大規模減税ですが、一般的には、ただ減税をすれば税収が減るので、財政赤字の拡大が懸念されます。いまや財政赤字は686兆円と過去最悪の水準です。所得税・法人税の減税をして、消費税などの増税で賄うという議論もあります。しかしそれが民間の消費意欲をなくしてしまい、負のサイクルを引き起こす可能性もあり、消費税増税にも簡単に踏み切れません。
もしもこの国の政策を民間企業の場合にあてはめて想定するならば、人員・コスト削減をするのが当たり前だと思います。つまり、官公庁にあてはめれば、役所の削減・公務員のリストラがそれにあたります。
最近は全国各地で市町村合併が進んでいます。表向きには無駄を省き業務を効率化するという大義名分があるのかもしれません。これが我々企業人にとっては部門の合併は人員削減につながります。
それに比べると公務員の方達には、突然の解雇はないという身の安泰からでしょうか、人員削減の緊張感が我々企業人に比べると足りないのが奇異に映ります。国家公務員については省庁再編に伴う行政のスリム化でここ10年間で25%を減らす事になっています。ところが、その多くは独立行政法人の職員にふりかえるだけで実質的な人件費削減にはなりません。
現在日本の国家公務員数は約110万でその要する人件費は7.6兆円に相当します。もしもこの公務員の半分55万人を民営化企業に移行できたと仮定すれば、公務員人件費:3.8兆円の歳出カットの節約ができます。その移行民間人は2.2兆円の所得を生み出しますし、さらに所得税納税額2200億円が増えることになります。公務員の数が減れば許認可をはじめとする規制緩和の行政改革も促進せざるをえなくなり、民間企業活動もより自由度が増して繁栄するはずです。
一方日本でベンチャー企業が育たない理由には、実績のない企業には銀行が融資しないという実状があります。それに加えて税制の問題があります。例えば苦労して年間1億円の利益を出しても、今の税制だと半分近くを税金に取られ、配当金、役員賞与などに使えば、残り4000万円しか残りません。
もしも累進課税制度を全廃して、所得税一律5%あるいは10%にしたと仮定します。現在の累進課税精度では所得税歳入は15.8兆円です。GDPに税率をかけた場合の雇用者報酬で計算すれば、所得税一律5%ならば14兆円、所得税一律10%ならば28兆円の歳入が期待できます。つまり一律10%減税で財政歳入は十分に安定することになります。
税金の計算処理が簡単になり、会社の経理業務が軽減し節税対策への無駄な労力も減ります。またこれは高額所得者にとっては大きな減税にあたるので、勤労意欲は向上して、さらには富裕層の消費意欲も高まっていき、それが全個人消費を喚起する起爆剤となるでしょう。努力して働く者がより豊かになれるという公平な世界が出現します。(歴史の鉄則:渡部 昇一著:PHP研究所刊:参照)
経済学者ハイエクは累進課税制度について、「最大の成功者が稼ぎうるはずの所得にきびしい制限を加え、それにより、比較的豊かでない人々の羨望を満たす事」と批判しています。つまりこの背景には「金持ちは許さない」という嫉妬心を合理化する考え方があります。努力した人もしない人も同じ結果に扱う社会主義的発想が間違いである事は、ソ連・北朝鮮などの社会主義国家の崩壊によって、すでに歴史が証明しています。あの共産主義革命を唱えたマルクスとエンゲルスが累進課税制度に熱心だったのです。
以上、述べたように、「官公庁のリストラ」と「大規模減税」という2つの政策がもしも実現できれば、民間企業の利益の蓄積が容易になって経営も安定します。ベンチャー企業も育ち雇用も拡大し、関連中小企業も活発化していくでしょう。
大胆な変革構想なので、いろんな抵抗勢力もありすぐに実現は困難でしょうが、できればこのような仮想危機感を官公庁やお役所の方達は抱いて常に業務内容を考え直す習慣づけを身につけていただきたいものです。
我々民間人の血税を流用しているのだから、無駄をなくそうというコスト意識を高めていただきたいと思います。公務員の本来の使命とは、健全な社会の発展・繁栄に寄与する「尊い公僕」です。自分の立場の安住や既得権への執着を第1優先にする発想は捨て去って欲しいと願います。
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