生活人コラム



 INO.VOL.17 免疫力について【井上 透】

 [執筆者]
 井上 透
 [紹 介]
 ブリヂストン健康管理センター勤務の産業医。大学講師。医学博士。
 企業の健康管理センタ−に所属して、社員の肉体的および精神的な方面まで含めた総合的な健康管理の仕事をされています。




 NO.1 「免疫力」の紹介--2003.10.2

 免疫とは、病気から免れることであり、一度ある病原菌に感染するとその病気に対する抵抗力がついて、次からは罹患しにくくなることです。 最近では「自己」と「非自己」を認識し、「非自己」である異物を除去する能力だという説明もされています。

 免疫機能とは、外界から生体に侵入した異物・細菌・ウイルスなどや体内で変異した細胞を「非自己」と認識して傷害・除去する機能です。

 ただ、食物は異物であるのに摂取してもアレルギー反応がおきないことや、腸内に住みついている善玉の常在菌(ビフィズス菌など)との共存・共生は、生命維持・免疫力増強の上で欠く事はできません。つまり、異物・細菌・ウイルスを全て排除する攻撃的働きだけではありません。一部の異物・細菌・ウイルスに対しては、寛容にして共存する巧妙な調節機能が望まれます。

 また、本当は「自己」の細胞なのに「非自己」と誤って認識し、自分を責める「自己免疫疾患」も問題となります。

 この免疫機構を探求して認知するほどに、我々が心得るべき人間としての生き方・心象風景が病気予防に大きく関わっているとの意を強くしました。

 自律神経系や内分泌系とともに内部環境を一定に維持する(ホメオスターシス)ために不可欠です。花粉症やアトピーなどのアレルギー、自己免疫疾患、臓器移植の際の拒絶反応のような不都合な反応をおこす場合もあります。


 我々の免疫機能には、大きく分けて「自然免疫」と「獲得免疫」の2つがあります。

 「獲得免疫」とは、感染のくりかえしで抵抗力がついてくるもので、刺激を受けた抗原に特異的に反応します。免疫反応に携わる細胞がリンパ球(T細胞、B細胞)などで、その担当分子が抗体やサイトカインにあたります。

 「自然免疫」とは、広く浅くすべての抗原に効果があり、感染の繰り返しでは変化しません。よって、SARSなどの未知の感染症に対する抵抗力はこの「自然免疫」にかかっています。細菌を食べてしまうのは貪食細胞(マクロファージ)です。ウイルスや体内で発生した癌細胞を破壊するのがNK細胞(ナチュラルキラー)です。これはリンパ球のひとつで血液中を巡回しています。「自然免疫」の担当分子がリゾチーム・タンパク・補体・インターフェロンです。

 つまり風邪やSARSウイルスに打ち勝つには、このナチュラルキラー細胞機能を高めるのが大事なのです。



 NO.2 運動と免疫力の関係--2003.10.2

1. 運動とナチュラルキラー細胞

 一口に免疫と言っても、免疫は働きの異なる機能を持つ多くの物質により構成されています。中でも運動に対して明らか反応するものとしてナチュラルキラー細胞(NK細胞)があげられます。

2. 運動強度とナチュラルキラー細胞活性

 運動強度に応じてナチュラルキラー細胞活性は高まり、運動をやめると活性は低下します。問題なのは、無酸素作業閾値(AT)を越えるような高い強度の運動後や、2時間以上の運動後には顕著な低下がみられるということです。この時期には免疫力が抑制され、感染の危険性が逆に高くなります。
 普通、活性低下は運動後6時間から24時間で元に戻りますが、時には1週間以上も戻らない例もあります。

(注)無酸素作業閾値(AT:Anaerobic Threshold)

 運動強度が最大の50-60%に達すると、有酸素代謝だけで産生されるATPだけでは所要エネルギー不足になり、無酸素代謝が始まります。 この無酸素代謝が始まる運動強度がATです。

 個人差があります。有酸素代謝はエネルギー産生効率が良くて、無酸素代謝の20倍あります。また有酸素代謝は体内の脂肪酸が主要エネルギーとして消費されるので、肥満・高脂血症・動脈硬化の予防効果が期待できます。一方、無酸素代謝では疲労物質である乳酸を発生させます。よって免疫力を高めるには、この有酸素運動が推奨されます。

3. 継続した運動習慣とチュラルキラー細胞活性

 一方、継続した運動習慣を持つ人の安静時のナチュラルキラー細胞活性は、標準より高いことが示されています。つまり、1回の運動ではデメリットをもたらす運動条件でも、習慣化することによってより大きな免疫能力獲得することができるのです。

4. 免疫力を高める運動は人それぞれで違います

 以上のことから、中高年者は、虚血性心疾患をはじめとする循環器系の傷害予防も考えて、ウオーキングやジョギング等の有酸素運動を習慣化することをすすめます。また、成長期や青年期では身体的に問題がなければむしろ積極的に強い運動をして、免疫機能向上と総合的体力を身につけることをすすめます。

 いずれにしても、いきなり息が切れるような強度の高い運動をすることは好ましくありません。また、スポーツに熱中していると気づかないうちにオーバートレーニングになることも多いので、必ず適度な回復期(クーリングダウン)をとるとように心がけて下さい。

5. 楽しく運動をしないと免疫力は高まらない

 運動をする際に気をつけてほしいことがもうひとつあります。それは楽しみながら運動をするということです。

 ナチュラルキラー細胞には、β-エンドルフィンというホルモンのレセプターがあります。β-エンドルフィンは脳内から出るホルモンで、楽しいとか気持ちがいいという感情を抱いた時にたくさん分泌されます。このβ-エンドルフィンがナチュラルキラー細胞に結合すると細胞活性が増加します。

 つまり、意図的に楽しみながらする運動では免疫機能が増加するということです。逆にストレスの高い状態で行えば免疫力は抑制されます。押しつけられて嫌々する運動はむしろマイナスとなるので避けるべきです。



 NO.3 急性運動の効果--2003.10.2

 急性運動(一過性の運動)によって、神経活動、ホルモン分泌、体温、血液量の変化が生じます。これらの変化は免疫機能に影響を与えます。(影響は運動の種類、時間、強度によって異なります)

○運動による免疫機能の増加と低下の例

免疫機能を増加させる例 →「軽度な運動の継続」。ウォーキング、ジョギングなどで風邪をひかなくなります。

免疫機能を低下させる例 →「強度の高い長時間の運動」。子供が遠足や運動会の後に熱を出す、マラソン大会の後に上気道感染がおこる。

 運動にはその強度の軽重により、免疫機能を増強する作用と抑制する作用という相反する影響があります。(すべての人にとってウォーキングやジョギングが軽度な運動で、マラソンが強度の高い運動であるはとは限りません。無酸素性作業閾値を測定する必要があります。)厳密には、循環器専門病院で運動負荷テストを施行して個別能力チェックをしないとわかりません。



 NO.4 慢性運動の効果--2003.11.4

 研究報告が急性運動の効果に比べ少ないが、高齢化社会を迎え今後の研究活動が期待されます。
○運動習慣の有無と免疫機能

 一般的な場合、持久的なトレーニングをしている群を運動習慣がない対照群と比較すると、トレーニング群では白血球やリンパ球濃度が低い。安静時のNK細胞の濃度が高く、活性度も高い。

 トレーニング強度の違いで比較すると、強度が高いと安静時のNK細胞活性はさらに高くなり、細胞あたりの活性も増大する。安静時の好中球濃度は低値を示す場合がある。

 好中球の機能では、活性酸素産生能が高強度の競技的トレーニングを行っている者やトレーニング強度を上げた場合に抑制される傾向にあります。(プロサッカー選手、エリート自転車選手、クロスカントリースキー選手など)

 リンパ球機能では増殖反応に関してあまり差がないという報告が多い。サイトカイン産生能に関しては、変わらないもしくは低下しているという報告がある。


 NO.5 高齢者の運動--2003.11.4

 免疫機能は加齢によって変化します。
○加齢による主な変化

 T細胞数、B細胞数、リンパ球増殖能、IL-2産生能とレセプター数減少。
 NK細胞活性、好中球機能などの自然免疫、IFN-γ産生能が変わらず。
 NK細胞数、炎症性のサイトカイン、血清IgAやIgGのような抗体が増加。

 持久的なトレーニングをしている群を運動習慣がない対照群と比較すると、トレーニング群ではリンパ球増殖能とNK細胞活性が高いという報告がある。これは、リンパ球分画濃度には差がないので個々の細胞活性が高くなっているからだと考えられる。この結果を若年者と比較すると、リンパ球増殖機能は低いがNK細胞活性には差がみられない。

 結論的に、運動には加齢による免疫機能低下を抑制する動きがあるようです。



 NO.6 トレーニングの効果--2003.11.4

 これまでに報告されている研究報告があります。
<NK細胞>

 中程度のトレーニングでは安静時のNK細胞活性は増加し、高強度ではNK細胞数の低下が見られることが多い。マウスの実験でも自発的運動は脾臓NK細胞の機能を高めるとの報告が多い。

<好中球><リンパ球>

 安静時のリンパ球濃度はトレーニングによって変化しないと考えられる。貪食作用や活性酸素産生能などの好中球機能、リンパ球の増殖反応およびIgA、IgG、IgMなどの血清免疫グロブリン濃度は、中程度のトレーニングでは増加するが高強度では減少するとの報告が多い。

<単球><マクロファージ>

 トレーニングによって数の変化はないが、走化性、接着性、傷害活性、食機能なは亢進すると報告されている。


 NO.7 オーバートレーニングの影響--2003.11.4

 これまでに報告されている研究報告があります。
○末梢血における白血球濃度の減少が報告されている。白血球の分画ではNK細胞や単球濃度が減少し、NKT細胞濃度は増加する。T細胞やB細胞濃度への影響は少ない。唾液中のIgA濃度を減少させる。IgA濃度は高強度の運動を数日継続すると低下する。オーバートレーニングを起こした者はグルタミンの血中レベルが低下している。

○グルタミンは体内では最も豊富なアミノ酸で、筋で産生され血中に放出される。また、免疫細胞のエネルギー源でもあり、特にリンパ球やマクロファージによる取り込みが大きい。

○グルタミン濃度の低下は免疫機能を低下させる可能性がある。グルタミンのレベル低下は、オーバートレーニングにおいて、その徴候がみられる間は継続して低下することが報告されている。

○グルタミン濃度がオーバートレーニングの生理的指標と成り得るかを検討する研究が現在進行中。(現時点ではグルタミン濃度低下と感染率増加をリンクさせる報告はない)

 以上のことから、一般的には軽度ないし中程度のトレーニングは免疫機能を亢進し、高強度では免疫機能抑制の傾向にあると言えます。



 NO.8 具体的な運動処方--2003.11.4

○お薦めの有酸素運動

 ウォーキング、サイクリング、水泳、エアロビクス。

○至適運動量のめやす

 自覚症状として、汗がうっすら出る程度で、いつまでも継続できそうで、充実感に満ちあふれているレベル。

 1回の運動時間: 10分以上の継続
 1日の合計運動時間: 30-60分
 1週間の運動回数: 3-4日以上

 運動時間帯: 昼食後1-2時間から夕方の間が理想的。あるいは夕食後1-2時間。

 早朝の強いトレーニングや飲酒直後の運動は避けましょう。


 NO.9 免疫と運動のまとめ--2003.11.4

 運動能力は怠ればすぐに退化するし、逆に急に荷重をかけすぎて無理をすると故障をきたします。スポーツ選手はその時点での体調を把握して、中道的といえる適度なトレーニングメニューを常に模索しています。

 運動不足の人が運動を始める時、最初は苦しい日々が続きますが、それに耐えて訓練を重ねていくことで徐々に体力は増進し、疲れにくい体質へと変貌します。

 スポーツ競技者は、自分の肉体の限界をめざして身体を鞭打つので、苦しみは長く続きますが、粘り強い精神力の鍛練にもなりますし、他人との競争にによる切磋琢磨の精神も培えられます。しかしこのようなアスリートの激しい運動トレーニングは、健康面から見ると中年期以後は適当とは言えません。

 過度の運動による筋骨格系の故障や活性酸素の身体への障害などのマイナス面も無視できません。運動を職業にしない人に適した運動メニューを各人個別に考えたいものです。


 運動は、しなくてもいけないし、やりすぎても免疫力を低下させます。「中道からの発展」を旨として、自分にあった至適運動量を体得し、定期的に維持・継続していくことで免疫力が高まり、健康生活に近づいていきます。

 生活習慣病を考える時に、完璧主義で無休で無理をして働きすぎるのもいけないし、怠惰な生産性のない快楽生活に溺れるのもいけません。このような苦楽の中道にはずれた生活がいけないのです。

 本来の「健康」とは、「中道」の思想に含まれる位置付けの概念だと感じます。健康食品に頼った安易な光明思想にとらわれず、智恵を介在して中道生活を維持しつづけるのが健康増進につながります。



 NO.10 愛と親密さが免疫力に与える影響--2003.12.1

 強い緊張や悲しみに出会うとNK細胞の数が減ってくることが分かっています。

 アメリカのある大学の実験によると、友人・家族・仕事との社会的絆(愛と親密さ)の弱い人は風邪を発病しやすいことがわかりました。絶えず口論している夫婦は免疫機能の指標が大幅に低下していた実験結果もあります。また、マザーテレサの活動映画を見せたグループと感動の少ない映画を見せたグループを比較すると、前者の方が抗体の目立った増強が見られたそうです。

 同じ環境に置かれている者でも、自分の感じ方や他者との関係で自分をどう見るかが大きな影響力を持ち、各人の不信や猜疑のレベルによって免疫力は変わってくるのを証明し科学的根拠で説明しています。心のあり方と免疫機能の関係を示す興味深い発表です。



 NO.11 仏光物理学と免疫力--2003.12.1

 この世の中には様々な価値観を抱いた人々が玉石混交しています。

 他人との接触には、まず相手の価値観の正確な認識が必要です。善悪の価値基準の物差しを道徳・宗教などから再認識して、相手の悪言動に対しては叱咤・指導の姿勢が必要なこともあります。しかし相手の全てが悪の塊とみなして己に猜疑心が高じれば、人間関係の破綻をきたし、愛の交流は途絶えてしまいます。

 どんな人にも仏性があると認め信じる心がけも同時に望まれます。たとえ、相手の言動が奇異に映ったとしても、個性の違いによる衝突の中には共存・共栄できる部分もあります。その可能性を探って模索しようとする調整活動も要ります。

 ここで宗教の世界で示されている大宇宙を支配する「仏光物理学」を紹介します。

第1テーゼ

 「仏の光は親和的性質を持ったものに出会うと増幅され、排他的性質を持ったものに出会うとそれを避けて通る」

第2テーゼ

 「仏の光は、その凝集・拡散というプロセスによって創造と破壊を行なう」

第3テーゼ

 「仏の光は周波性を持ち、高周波は高周波と通じ、低周波は低周波と合う、伝達の意識を込めた念波も、同波長のものしか通じ合わない」

 排他的想念が強くなると仏光真理学の第1テーゼにあるように、仏の光との親和性を失い、己の心に仏の光が射さなくなり、免疫力が衰えて病気をきたします。

 また、他人を責めるマイナス想念は仏光真理学の第3テーゼにあてはめると、相手がそれに同通する低周波と合った場合には、感受され、多くの人々に伝播していきます。

 仏光真理学の第2テーゼにあるように、その波動を自責の念として強く受け止めた人は、病念を作り肉体的にも病気になります。肉体にできた癌も、この病念が現象化した創造物です。

 例えば、SARSウイルス感染の流行に対して、民衆が猜疑や恐怖のマイナス想念を発する事で集団感染の広がりを助長させてしまう理由もここにあります。また、失敗・挫折をくりかえしている自分に対して、それを責める気持ちが強くなり内向きに、自己卑下・自己不信の思いが強くなれば、自己破滅型の人生・病気を患うことになります。これも、仏光真理学の第2テーゼにあてはまります。

 仏光真理学の法則を理解して、この法則に合わせたプラスの想念を発し続けることで、免疫力は維持でき、病から身を守るのは可能だと信じます。



 NO.12 免疫力チェックシート--2003.12.1

 最後に免疫力維持に向けて、我々が具体的に実践できる努力目標として心身を含めた生活習慣全般のチェックシート(20問)を作成してみました。該当する項目があれば、どのように改めていけば良いかを考えてみましょう。

1.心と身体の症状

□やる気がおきなくて、なにをするのも面倒だ。

□気分が晴れず、不安・ゆううつ・イライラ感がある。

□全身脱力感・疲労感を覚える。


2.食事・嗜好

□食べ物の好き嫌いがある。

□外食メニューがいつも偏っている。

□野菜・魚・肉・乳製品の摂取量が減った。

□大量飲酒あるいは喫煙が毎日欠かせない。


3.睡眠・休養

□熟睡できず、起床時の爽快感がない。

□疲れる前に休む習慣がない。

□心身をリフレッシュできる休憩場と時間を確保できていない。

□自己流の気分転換法や休養法がない。


4.運動・紫外線

□ほとんど運動せず、毎日1万歩も歩かない。

□体がきつくても激しい運動に夢中になることがある。

□軽く汗を流す運動を楽しいとは思えない。

□長時間、日光にあたり紫外線対策をとっていない。


5.職場・住環境ストレス

□仕事の量が多く、残業しなければ終わらない。

□仕事が楽しくなく、働きがいがない。

□人間関係がうまくいかず悩んでいる。

□最近、自分の事故や事件、肉親の病・死・別居などの悲しい出来事があった。

□職場・家の騒音・照明・温度・換気などに快適でない点がある。


 レベルA:チェック項目が0-5の人.....かなり免疫力が保たれています。現状を維持しておきましょう。


 レベルB:チェック項目が6-10の人.....ストレスはありますが、まだかろうじて免疫力が守られています。


 レベルC:チェック項目が11-15の人.....要注意です。生活習慣の見直し・改善が望まれます。


 レベルD:チェック項目が15-20の人.....疾病予備軍です。このままだと大病の危険があります。専門家にも相談して健康への大きな意識改革が必要です。


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