生活人コラム
INO.VOL.20 中高年の肥満対策【井上 透】
[執筆者]
井上 透
[紹 介]
ブリヂストン健康管理センター勤務の産業医。大学講師。医学博士。
企業の健康管理センタ−に所属して、社員の肉体的および精神的な方面まで含めた総合的な健康管理の仕事をされています。
NO.1 食事編の1--2004.4.5
★なぜ、中高年の肥満が怖いのか
ここ20年間の年齢階級別の肥満者の割合を見ると、30−40代を過ぎた中高年男性の肥満者が増えています。2001年の統計では30−60代の男性の3人に1人が肥満症です。肥満症の判定は日本人ではBMIが男性は25以上、女性は30以上が該当します。
たとえ現在自覚症状もなくて健康障害を感じていないとしても、この世代に多いタイプの肥満として、手足は細くて見かけは太っていないのに腹部を中心に出っ張った「リンゴ型肥満」が多いのが問題となっています。これは臍周りの長さが男性は85cm以上、女性は90cm以上の場合が相当します。
「リンゴ型肥満」の人にエックス線断層撮影(腹部CT検査)を施行すると、腹腔内に内臓脂肪の蓄積を認めます。これは、エネルギー過剰摂取の結果だと言えます。
内臓脂肪が多すぎると、血糖を調節するインスリンというホルモンの働きが悪くなり、糖尿病が悪化しやすくなります。 さらに脂質代謝にも異常をきたし、血液のコレステロールや中性脂肪が高くなり、高脂血症になります。
また、体の脂肪組織が多いと全身にたくさんの血液を送るようになり、抵抗が増して高血圧になります。これらの糖尿病・高脂血症・高血圧などが合併するほど血管の動脈硬化が急速に進行し、血管がつまりやすくなります。そのために脳梗塞・心筋梗塞などの命にかかわる病気になりやすいのです。
さらには運動不足の肥満の男性は前立腺ガン・大腸ガンになりやすく、肥満の女性には子宮ガン・乳ガンになりやすいという疫学調査もあります。また、肥満者は胆石・睡眠時無呼吸症候群・痛風などの発病にも関与しています。
★そもそも、なぜ中高年は肥満になりやすい?(食事の観点から)
1970年代の脂肪摂取割合が20%を超えた時期が日本の高度成長時代にあたり、この頃から肥満者が急速に増加しています。脂肪摂取過多の嗜好に加えて、朝の欠食・早食い・まとめ食い・夜間多食などの中高年男性の食習慣の乱れも影響しています。
さらに、中高年になると基礎代謝(安静状態で生命維持に必要なエネルギー)が生理的に減少してきます。10代後半のピーク時の基礎代謝が1610kcal/日なのが、50代では1350kcal/日になります。体が最低限必要としているエネルギーが約300kcal/日減の省エネ型になるのです。
若い時と同じ食事のカロリー摂取では、運動しない限り余分なエネルギーは体脂肪に置き換えられます。運動による消費カロリーはスポーツ選手でもない限り、比較的良く運動する一般人でも、多くて200−300kcal/日ぐらいしかありません。
このことからも、50代の人がそこそこ運動をしたとしても、食事制限ができなければ、体重を減らすのは困難であるのがわかります。
<食事療法の基本>
食べ過ぎて摂取エネルギーが過剰になると、それが貯蔵エネルギーに置き換わって体脂肪になります。
個別の適正摂取カロリー量(年齢・身長・体重・生活活動度から算出)を基準として、炭水化物からの摂取カロリーが約6割、蛋白質は多めに、脂肪分は控えめに、野菜を多めにとって、食物繊維やビタミンをバランス良くとる、というのを大まかな目安としてください。
好き嫌いを減らして栄養のバランスを考えるのは中道思想に通じます。
甘い菓子や果物などの間食は摂取直後の血糖値が急激に高くなり、脂肪組織内で中性脂肪の合成が促進され肥満体質となります。それに比べてごはんやパンなどのでんぷん質は消化に時間がかかり、血糖の上昇も緩やかで満腹感が得られやすいのです。ですから、炭水化物はできるだけごはんやパンで取る方が良いのです。
脂っこい料理は、動物性・植物性にかかわらずカロリーが高いので取り過ぎないようにしましょう。動脈硬化予防の観点からは、「オリーブ油」が悪玉コレステロールを低下させ抗酸化物質も含まれているので推奨されます。魚油もお勧めです。
アルコールは、高カロリーな上に食欲亢進と自制心低下作用があります。おつまみは、減塩・低カロリー・高蛋白が理想です。外食では洋食や中華料理よりも和食の定食料理が望まれます。
減量は、急激にすると反動もあり健康障害をきたし、元に戻ることがあります。月に1−2kgぐらいずつの長期持久戦型減量のほうが成功した後も維持しやすいのです。
食事療法には料理を作る家族の支援が欠かせません。家族全員の共同プロジェクトとして、家庭料理の見直しから始めていきたいものです。ご主人の食習慣の問題点を把握して、年齢や検診結果に合わせた食材や調理法を研究してください。
これが家族全員の健康を増進させ、良き食習慣を青少年時代から培うこともできるので、次世代に継承できる健康遺産にもなります。
NO.2 食事編の2--2004.5.1
早食い・朝食抜き・寝る前の過食・間食好き・だらだら食い・やけ食いなどの誤った食習慣が、肥る原因となっているケースが多いのです。自分を客観視するために、食事日記をつけて摂食パターンを把握して、無意識におこる食行動を防止する対策を立てたいものです。
摂食を促すきっかけ行動を、前段階で修正することで、肥満に陥りやすい行動連鎖を断ち切ることも可能です。「食べよう」という行動と両立できない活動に努めて、気分転換をはかる方法もあります。食生活における予習型人生の確立をめざしてください。以下がその13の質問チェック表です。
<肥りやすい食習慣チェック>
「質問項目 → 思いと行動の修正案 」という形でまとめました。
1)
甘い菓子・果物・ジュースなどの間食が多い。
→ 食後のデザートとして食べる。1日に必要な食事は3食ですべてまかなうようにする。菓子・スナック・カップ面などの買い置きはしない。
2)
毎晩大量のアルコールを飲む。
→ 酒を大量に買い置きしない。1日飲酒目標量としてビール一缶だけしか冷蔵庫に入れない。ビールをやめてウーロン茶にする。飲酒制限。
3)
腹一杯食べないと満足できない。
→ 前もって食べる目標量をイメージしておく。野菜を増やす。食事の前にウーロン茶2杯を飲んだり、食事30分前に飴玉をしゃぶって満腹中枢を刺激する。食事日記をつけて正確に摂取量を把握する。
4)
食べ残しはもったいないし、申し訳ないと思う。
→ 多人数での大皿料理は避ける。残飯がでないように家族の献立量管理も重要。
5)
濃い味付けや塩辛いものを好む。
→ 食卓にしょうゆ・塩などの調味料を置かない。味付けが強いと食欲が亢進されるので、家族のうす味調理も重要。
6)
脂っこい肉・フライ・揚げ物などを多く食べる。
→ おかずの質をもっとあっさりした野菜・海藻・魚中心の和定食家庭料理メニューに。家族の調理次第で、同じ食材でも油分は減らせる。栄養のバランス感覚を身につける。
7)
体に良いと言われる食品にこだわるとそればかりを食べ過ぎてしまう。
→ 自分の体質にあった栄養のバランス感覚を保持するのが、健康な食生活の王道です。健康食品に傾倒しすぎないように。過ぎたるは及ばざるが如し。
8)
飲酒しながら外食する機会が多い。
→ 酔って食事量がわからなくなる前に、何をどれくらい食べる予定かを考える。おつまみには枝豆・豆腐料理・魚料理・野菜入り鍋物が望ましい。飲酒後のラーメンは体脂肪の元になる。
9)
テレビ・新聞・読書をしながら無意識に食べ続ける事が多い。
→ 身の周りに食べ物を置かない。視界から食物がなくなるようにする。食事時間にけじめをつける。適量を食べ終えれば速やかに食卓をかたづけて離れる。外出する。
10)
食事時刻が不規則で夜遅く食べることが多い。
→ 夜9時以後の食事は控える。飲み終わってからの深夜帰宅後の食事はやめる。がまんできないなら、不足しがちな豆製品・野菜を軽く食べる。
11)
朝食抜きなので、昼・夜の食事量が多い。
→ 朝食時間を確保するため、早寝早起きにする。摂取カロリーは朝食:昼食:夕食=3:3:4が目安。
12)
食事時間が短く早食いだ。
→ ゆっくり噛んで食べて満腹感を味わう。食事の最初に充分に水分を取って、野菜などの線維分から食べ始める。ゆとりと余裕のある食事時間の確保。
13)
ストレスを感じると食べて解消しようとする。
→ 運動・趣味・音楽・入浴などの他に没頭できる行動をおこして代替する。ストレス管理と心の平静維持。
<チェック表の解説と活用法>
誤った食習慣に最大の影響を及ぼすのが「貪欲」という心の毒です。その他の様々な肥満の原因となる偏った食習慣は若い頃から長い年数をかけて当たり前だと思いながら出来上がってきたものなので、もとに戻すには時間がかかります。
最終的な理想目標を強くイメージする事も大切ですが、全チェック項目をいっきに改善しようとする完璧主義では3日坊主になります。より良き人生をめざす長距離ランナーなのだと心得てください。
まず自分の問題点を客観的に把握してください。そして「できるだけーーーしよう」ぐらいのつもりで自分にとって比較的に達成できそうな小目標を2−3個選び、自分なりの数値目標を設定し、勇気を持って第一歩を踏み出してください。
毎日努力目標の達成度を表に書き出し、1週間ごとに達成率を割り出し反省しましょう。達成目標が習慣化し自信がつけば、次の新たな目標を設定しましょう。
時には失敗やスランプはあるでしょうが、その時は冷静に思いと行動の誤りを自己分析し、反省を重ねて、中道からの発展を旨としてください。良き食習慣をじっくり固めていこうという粘り強い忍耐力を発揮してください。
小目標が達成できなかったら、目標内容を変更して次週に再挑戦するぐらいの柔軟な思考であせらずあきらめず堅実に努力・精進していきましょう。
NO.3 運動編の1--2004.9.2
★なぜ、中高年の肥満が怖いのか(運動の観点から)
最近の肥満研究で注目されているのが「身体活動能力」です。これは、いかに活発に動いて活動的な生活を送る事ができるかという能力です。
米国の疫学調査では、肥満者で身体活動能力が低い人ほど、極端に死亡率が高いことがわかっています。中高年になっての高度肥満で運動しない人は、致命的な生活習慣病をきたす体質作りをしていると断言できます。
ここで、自分は肥りやすい体質だからしょうがないと諦めている人に朗報があります。さらにこの研究の結果から、超肥満者でも活発に動ける能力の高い人は、標準体重で身体能力の低い人に比べても、死亡率がずーと低いことがわかりました。
食事制限で減量できないからといって悲観することはありません。運動習慣をつけて活発に動けるように肉体改造すれば、減量できなくても健康は維持できるのです。逆に、食事制限で標準体重までの減量に成功したとしても、怠惰な生活をおくっているだけならば健康にはなれません。
体重が減っても体脂肪が多い「隠れ肥満」ならば生活習慣病になる危険は高いのです。このような「隠れ肥満者」こそ運動療法が重要になりますし、標準体重の人でも「運動」は健康維持のために欠かせない事を本研究では証明しています。
★そもそも、なぜ中高年は肥満になりやすい?(運動の観点から)
車通勤で歩行の機会が少ない人や、机上での業務の多い人は運動不足になりがちです。情報産業・伝達システムが進歩したおかげで、パソコンにかじりついたままで指示伝達を遂行できる業務も増えており、事務所内でも体を動かす頻度がさらに少なくなってきています。
このように、現代社会の抱える運動の機会が少ない勤務形態と多忙で余暇に運動を取り入れる余裕のないことが運動不足を助長する誘因のひとつになっています。
日本でのこの40年間の成人の平均食事摂取カロリーの推移は2000kcal/日 前後とあまり変わってはいません。にもかかわらず中高年肥満者が増えている大きな理由のひとつは、運動不足による消費エネルギーの低下が大きく関わっているからです。
人体の全消費エネルギーのうちわけは、基礎代謝(生命維持のエネルギー)が約60−70%で、運動そのものによる活動代謝が約30−40%に相当します。中高年の運動不足は、この活動代謝の低下だけに留まらず、基礎代謝の生理的低下を助長させてしまうのも大きいのです(食事編で説明済み)。
余分なエネルギーは体脂肪貯蔵の方向へ代謝を傾けます。運動をしないで食事制限だけで体重を減らすのでは、1−2ヶ月後には頭打ちになります。この理由は、筋肉や骨までやせおとろえて基礎代謝が低下し、やせにくい「省エネ体質」になるからです。
一方、筋骨に運動刺激を与えることで基礎代謝量が増えてくると、余分なエネルギーは残らず代謝され、体脂肪のつきにくい体質になります。定期的運動が継続できると、安静時の消費エネルギーレベルも高くなります。食事療法の効果を保証するために、運動の効用は大きいのです。
肥満解消のためには「食事」と「運動」の摂生は同時併行しなければいけない両輪だと言えます。この両方で努力した人ほど、長期的に見ても体重は減りやすく、再度肥ることは少ないのです。
<運動療法の基本>
長らく体を動かさなかった人が運動を開始するにあたっては、注意点があります。まず運動負荷試験をして、運動能力・運動許容量のメデイカルチェック判定が望ましいのです。高血圧・心臓病や肺疾患や膝の障害などが発見されれば、適切な運動メニューも変わってくるからです。
メデイカルチェックで問題ない人の場合、まず有酸素運動から始めて下さい。有酸素運動とは体の酸素が不足しない状態で長く続けられる全身運動です。個人の運動能力に合わせて、ランニングやテニスやエアロビクスのような激しいものから、ゆったりとした歩行・水中歩行まであります。
減量のためには、理想は週に5−6日、最低でも週に3日以上の頻度が望まれます。個人差がありますが、40−50代の場合の最適運動強度は、運動直後の脈拍数100−110/分程度で十分です。
運動能力に自信のない人は、できるだけ長時間(最低30分/日、こまぎれも可)の軽い運動から入っていってください。歩行運動の場合は、できるだけ速歩で、まずは1日1万歩をめざし、体調に合わせて徐々に歩数を増やしていきましょう。
[注]
1日1万歩の根拠
: 健康日本21より
海外の文献から週当たり2000kcal(1日当たり約300kcal)以上のエネルギー消費に相当する身体活動が推奨されている。
歩行時のエネルギー消費量を求めるためのアメリカスポーツ医学協会が提示する式を用いて、体重60kgの者が、時速4km(分速70m)、歩幅70cm、で10分歩く(700m、1000歩)場合を計算すると、消費エネルギーは30kcalとなる。つまり1日当たり300kcalのエネルギー消費は、1万歩に相当する。
運動能力が高くて、長い運動時間が確保できない人の場合は、比較的少ない回数で短時間でできる強めの運動が好ましい場合もあります。年齢・運動能力・生活スタイル・性格に合わせた定期継続できる運動メニューを模索して下さい。
高度肥満で膝などの下半身に不安のある人は、水泳や軽めの自転車こぎなどが安心です。それでも不安がある場合は筋力トレーニング中心で始めていくのも良いでしょう。最近は、膝や足の障害がある人でもできる「椅子に座ってできるエアロビクス」もあります。
有酸素運動と併行して、ジムなどでの筋力トレーニングを重ねて筋肉を鍛えていけば、基礎代謝が高まり、さらに効率的に体脂肪の燃焼が進みます。ジムに行く余裕がない人や、全身運動もできない人は、部屋でのダンベル体操がお勧めです。
特に肥満者は筋肉がたるんでいる場合も多いので、柔軟体操・ストレッチを有酸素運動の前後に取り入れてください。これが運動中の怪我予防と運動後の筋肉痛予防につながります。
お腹の脂肪をとるために腹筋運動に励む人もいますが、このような局所運動は筋肉がひきしまるだけで、除脂肪の効果は期待できません。腹筋運動では腹筋を鍛えることはできますが、長時間続けられないので脂肪燃焼には到らないのです。
またエステサロンでしている部分痩せは、ほとんどが痩せたい部分の組織の圧迫によるへこみと水分の追い出し効果です。確かに汗をかいて水分を減らせば見かけは一時的に細くなりますが、脂肪は全く減っていないので、すぐに元に戻ります。それよりは全身運動やダンベル体操でエネルギーを消費させた方がお腹の脂肪を減らすには有効です。
有酸素運動を中心に運動計画を立てて、その前後に柔軟体操・ストレッチを取り入れ、合間に筋力トレーニングを重ねていく。さらに、日常生活での活動量を増やす。これが運動療法の要諦です。
NO.4 運動編の2--2004.10.1
<運動療法の意義>
100Kcal相当の運動は歩行では30分なのに、100Kcal相当の食事はカステラ一切れにしかすぎません。このように、運動で消費できるエネルギーは意外と少ないのに食事ではたやすく高カロリーを摂取できます。
また、1万歩の消費エネルギーは300Kcalなのに比べると、脂肪細胞1kgの貯蔵エネルギーは7000Kcalに相当します。活動エネルギーだけで脂肪を燃やすのがいかに大変かがわかります。
運動の効用は、活動エネルギーにより消費量を増やす事以上に筋肉がやせ衰えて基礎代謝が減っていくのを防止する点が大きいのです。運動の積み重ねで骨格筋が鍛えられて基礎代謝が増えるほど、脂肪も燃えやすくなり、食事療法と併行すれば、美しく健康的にさらには効率的にやせることができます。
<食事療法と運動療法の併用:初期の注意点>
食事のカロリー制限と激しい運動を同時に始めると、最初は空腹感に耐えられず挫折することも多いのです。最初は食事療法だけで開始し、慣れてきてから軽い運動を付け加え、徐々に運動量を増やしていく方がうまくいきます。
<動的運動には、有酸素運動と無酸素運動の2種類がある>
☆無酸素運動(アネロビクス)
1)
運動の種類
短距離走・重量挙げ・すもう・砲丸投げ・綱引きなど。
2)
特徴
息苦しくて長時間は続けられない運動。静的運動のものもある。骨格筋は酸素不足のままだと糖代謝が中心となる。血圧は高くなる。体の脂肪はストレートには燃えず、筋肉に疲労物質の乳酸が溜まる。
肥満の人(膝への負担)・高齢者・血圧の高い人等には勧められない。
3)
効用
骨・筋力を鍛え基礎代謝も亢進させ、競技能力を向上させる。瞬発力も高める。
☆有酸素運動(エアロビクス)
1)
運動の種類
ウオーキング・ジョギング・水中歩行・自転車踏みなど。
2)
特徴
息苦しさも感じず無理なく長続きできる運動です。全身の骨格筋が十分な酸素に満たされ、脂肪が燃えやすくなる。
3)
効用
生活習慣病予防の観点からは、血液循環が良くなるので血圧が下がる。インスリンの働きが良くなり、血糖の上昇が抑えられる。体脂肪が減り高脂血症も改善する → 動脈硬化の進行を抑制する効果がある。
体力づくりの観点からは、心肺機能の向上、足腰を鍛えての腰痛予防、骨を丈夫にしての骨折予防効果がある。
<どうして体脂肪を燃やして減らすには有酸素運動が最初に推奨されるのか?>
骨格筋には全身にくまなく分布している2種類の筋肉があります。
ひとつは白筋(別名:速筋)で、短時間に大きな力を出す激しい運動で働きます。主に糖が代謝されて瞬発力の源になります。もうひとつは赤筋(別名:遅筋)で、長時間に弱い力を出すゆったりした運動で働きます。主に脂肪が代謝されて持久力の源になります。
この赤筋は、特に臀部・大腿部・下腿部に多く分布し、しかも十分な酸素がなければ脂肪燃焼には至りません。運動開始直後の骨格筋は酸素不足なので糖代謝が中心となります。歩き始めて20分ぐらいから全身への酸素の行き渡りが安定し、 赤筋による脂肪エネルギーの消費が活発になります。
以上の理由から、30−60分のウオーキングが推奨されるのです。あまりにも遅いブラブラ歩きでは赤筋での代謝が少なくなります。逆に、速歩すぎても酸欠状態に陥れば白筋での代謝が活発になり糖代謝に傾きます。
中道とも言える、普段よりやや速く少し汗ばむぐらいの歩行が赤筋が十分に働き、効率的に脂肪を燃焼できるのです。
有酸素運動に慣れてきたら、静的運動(筋力トレーニング)を組合せると筋肉の基礎代謝が亢進して、さらに脂肪が燃えて減っていきます。軽量のダンベル体操は有酸素運動と筋力トレーニングの両方の要素を兼ねています。十分に深呼吸をして体中を酸素で満たしながらするほど、脂肪燃焼させて効果的です。
<ウオーキングの基本>
1)
姿勢と歩き方
背筋を伸ばし、腹部は引き締めて腕を大きく振る。かかとから着地し、後ろ足のつま先で地面を蹴る。歩幅はやや広めに : (身長-100)cmの幅が理想。
2)
運動強度の例(年齢から個別に計算する)
カルボーネン式: 心拍数={(220-年齢)-安静時心拍数}×運動強度+安静時心拍数
(例: 40歳で安静時心拍数60拍/分の場合の50%HRの心拍数は {(220-40)-60}×0.5(50%)+60=120
簡易法では、(220−年齢)×0.4−0.6 ぐらいの脈拍数(心拍数)で、自覚的運動強度としてはうっすらと汗をかき、少しきついけど人と話ができる程度が適当です。
平均的な運動中の脈拍数(心拍数): 40-50代では概ね100-110/分で十分です。
3)
一般的なスピードの目安
80-100m/分(1分間に100−130歩)、つまり1秒間に2歩ぐらいのペース。
4)
ステップ
最初はゆっくりペースで、1日10分から開始。2−3日ごとに10分程度ずつ増加。10日-14日かけて、目標値3km(1日30-60分)。
5)
頻度
毎日が理想ですが、最低週に3回以上を目指して下さい。
歩き始めてすぐにきつく感じたらペースを落としてください。短時間の休憩も入れての10分間隔のとぎれながらの運動でも構いません。
食後すぐの運動は止め、30分以上経過してからにしてください。(食物の消化が悪くなるため)逆にひどい空腹状態での運動も好ましくはありません。(低血糖に陥るため)その時は前もってバナナ1本か電解質飲料を軽く飲んでください。
汗をかく時のこまめの水分の補給は大切ですが、糖分の多いジュースをとりすぎないように。水で薄めた電解質飲料ぐらいが望ましいでしょう。
ある種のアミノ酸は筋肉量を増やして基礎代謝を上げたり、体脂肪の分解を促進するものがあります。アミノ酸含有飲料も運動の際の水分補給に有効だと言えます。
また血圧の高い人は、起床直後の運動は控えてください。早朝の血圧上昇時の運動は、脳卒中・心筋梗塞の引き金になることもあるからです。
疲れがたまった時はトレーニングは控えて、適度な休養もとってください。そのかわり、休養期間中も日常生活での身体活動はなるべく怠らないようにした方が、疲労物質の乳酸が排泄しやすくなります。
<筋力トレーニング 静的運動>
1)
運動の種類
腕立て伏せ・腹筋運動・スクワット・重量のある器具使用のボデイビルなど。
2)
特徴
動きの少ない静的運動が多い。
3)
効用
筋肉を鍛えて基礎代謝を高めるので、間接的に体脂肪が燃えやすい体質を作る。骨折しにくい頑丈な骨つくり。
4)
方法
最大筋力の40−60%の強度で20−30回くり返す。翌日に筋肉痛が残る時は、運動強度・時間・回数を減らす。
<ストレッチング 伸展運動>
1)
運動の方法
四肢・体幹部の筋肉を伸ばす運動。運動の前後や寝る前が適当時期。自分の力だけで無理のない程度に筋肉を伸展させ、軽くつっぱった感じにする。
2)
特徴
運動を末永く続けていくための補助的役割。体脂肪は減らない。疲労物質の乳酸を処理する作用もあり。
3)
効用
体の柔軟性を高める。ウオーミングアップは運動中のケガ予防。クーリングダウンは運動後の筋肉痛予防。
NO.5 運動編の3--2004.11.1
<運動不足度チェック>
12問「質問項目→指導・修正案」となります。
1)
小走りしたり階段を利用すると、動悸や息切れがする
→
長年の運動不足でかなり体力が低下している。
症状がひどい時は、心肺機能の低下も心配される。
メデイカルチェックも必要かもしれない。
2)
動作や歩行スピードが遅いとよく言われる
→
通勤時も努めて速歩をこころがける。
軽く汗がにじみ出るぐらいのペースで歩いてみる。
3)
通勤電車は座って寝ていく、あるいは自家用車で通勤している
→
通勤は敢えて立って吊革につかまり、つま先立ち運動や背筋のストレッチをする。
一駅前で降りて歩く。自転車通勤に切り換える。遠い駐車場に止めて歩く。
4)
階段はなるべく避けて、エスカレーターやエレベーターを利用する
→
2−3階の移動は階段を利用する。エスカレーターや動く歩道でもなるべく歩く。
5)
職場では机にかじりついたままで、立ち上がる事も少ない
→
仕事合間に座ったままで、上体の屈伸運動をする。
座る姿勢でお腹に力を入れて足の裏をわずかに浮かして静止させる筋肉トレーニングをする。
6)
体を動かすちょっとした作業はすぐ部下に頼む
→
事務所内をこまめに動く。お茶煎れやコピーとりは自分でする。女性社員から喜ばれる。
7)
昼休みは寝たり横になったりして、身体を休める事が多い
→
遠く離れた昼食店を選び、往復を歩く。昼休みは会社の周辺を散歩する。
8)
寝起きにストレッチ運動や体操をする習慣はない
→
就寝前の体操は筋肉の血行を良くして熟睡できる。
昼間の運動による筋肉痛・疲労を軽快させる。
9)
部屋でくつろぐ時は、生活必需品を手の届く所へに置いている
→
リモコンの遠隔操作は止める。ごみ箱・テイシュは離れた位置に置く。
食べ物や飲み物は手の届かない所に置く。
家の中をこまめに動く。家事の手伝いまですれば奥様も喜ぶ。
10)
休日は昼近くまで寝ていて、仕事の疲れが抜けない
→
基礎体力が低下している。休日こそ早起きして散歩に出かける。
11)
休日は外出せず、家でゴロゴロしていることが多い
→
外出する時もなるべく車は利用しない。部屋の拭き掃除をすれば奥様も喜ぶ。
12)
毎週決まった曜日と時間に、定期的に運動する予定は立てていない
→
スポーツクラブの会員になれば運動が習慣化され、スポーツ仲間も増える。
週間スケジュールに毎週必ず運動タイムを設定する。
<チェック表の解説と活用法>
1) 2) 10) は身体症状
2) 3) 4) は通勤
4) 5) 6) 7) は職場
8) 9) 10) は帰宅後
10) 11) は休日
12) は運動習慣
として分類してみました。運動不足に陥りやすい行動癖を実感していただくための質問表です。行動を変容させるヒントとして活用して下さい。食事日記と同様に、生活活動日記をつけてみると、自分の行動癖が浮き彫りになり客観視できます。
運動する時間の余裕がとれなくて足りない部分は、上記修正案にあるように日常動作と速歩でカバーしてください。「座る」よりも「立つ」、「乗る」より「歩く」習慣を増やしていきましょう。
職場でも電話中の膝の屈伸運動、椅子に座ったままの、足の裏を少し浮かせての筋力運動や上半身のストレッチ運動、 満員電車でつり皮につかまったままでの、つま先立ちかかとつけ運動など工夫すればできることはいくらでもあります。
まとまった運動は最低週3回以上が望ましいのですが、運動をしていなかった人の場合は週1−2回ぐらいから始めても効果がでます。後は体力の増え方に合わせて運動強度と頻度と時間を調整していき、疲れが長く残らないように休養の期間も適度にとりましょう。
運動はやりすぎても、やらなくてもいけません。食事療法と同様に「中道からの発展」を旨としてください。運動しようとする積極的な心がけは、発展的なプラス思考の人生観から反映されてくるのだと思います。
[
バックNOもくじへ
//
最前線クラブへ戻る
//
トップページへ戻る
]