生活人コラム



 INO.VOL.26 肥満と血液ドロドロについて【井上 透】--2005.9.1

 [執筆者]
 井上 透
 [紹 介]
 ブリヂストン健康管理センター勤務の産業医。大学講師。医学博士。
 企業の健康管理センタ−に所属して、社員の肉体的および精神的な方面まで含めた総合的な健康管理の仕事をされています。




<メタボリック症候群ーりんご型肥満>

 会社では毎年2回の検診をしますが、例年の傾向として、春の検診時の体重は前回の秋の時と比べて大幅に増えている人が多いのです。

 そこで今年の検診では、お腹が明らかに出っ張っていると思われる人に限って、私の診察時に直接腹囲(臍周り)を測定してみました。

 体調は良いから大丈夫だと言われながらも、数値を聞いて驚愕し戸惑う人が続出したのです。生活習慣病の管理に関しては、自覚症状は全くあてになりません。

 忘年会や新年会をきっかけに食べ過ぎの習慣に歯止めのきかなくなった人もいました。寒期は運動がおっくうになって秋まで続けていた屋外でのウオーキングが中断した人もいました。肥ってしまった理由を自己責任とはとらえずに、行事や気候のせいにして健康習慣の継続を放棄する心理が読み取れます。

 良い習慣を自然に会得するには、外なる誘惑に安易に惑わされない不屈の意志の継続を要します。


 最近、メタボリック症候群という生活習慣に起因する病態が注目されています。

 臍周囲の長さが、男性の場合は85cm以上、女性の場合は90cm以上を認めれば、りんご型肥満と判定されます。

 この条件を満たせば、内臓に脂肪がたまりやすい体質で、さらに高血圧・高脂血症・糖尿病などを合併すれば、いっそう動脈硬化が進み、脳卒中や心筋梗塞になりやすいので要注意だと言われています。

 腹囲が大きくて暑苦しい方は、これをきっかけに努力され、次の検診では「涼しいお腹」をご披露していただきたいものです。


<血液の粘調性の誤解>

 「血液サラサラ、ドロドロ」という言葉が流行しています。健康番組を通じて、多くの国民が関心を持っています。 ところがこれには大きな誤解があります。

 血液の流れを実際に見ることはできませんが、毛細血管のような微細な血管を人工的に作り自分の血液が流れる様子を観察できる装置が開発されました。血液流動性測定装置(Micro-Channel-array-Flow-Analyzer:MC-FAN)です。細長いダイヤ型のシリコンを6μmごとに並べて毛細血管と同じ太さの通路を作成します。

 ここに血液100μlを流し、顕微鏡で2000倍に拡大してモニター画面に映し出します。


 一般には、「サラサラ血液」とは水のような流動性の良い液体で、「ドロドロ血液」とは油っこいコレステロールや中性脂肪が溶け込んだ粘調度の高い血液だと思っている人が多いのです。ところが、実際はそうではありません。

 「ドロドロ血液」とは、血液の成分である赤血球・白血球・血小板が、なんらかのきっかけで流れにくい状況をおこしているのです。この流れにくくなるのは、いくつかの複合的要因がからんでいます。

 第1は赤血球です。赤血球の直径は8μmで、6μmの毛細血管よりも大きいのです。このままでは毛細血管を通り抜けないので、形を薄っぺらに変える性質があります。これは、赤血球のもつ「変形能」と呼ばれています。高血糖や高コレステロール状態でこの機能は低下するのです。

 第2は白血球です。ストレスが高じると白血球の粘着性が亢進し、血管壁に付着し、血液が流れにくくなります。

 第3は血小板です。過度な飲酒や糖分の取り過ぎが、血小板の凝集能や粘着性を高めてしまいます。血液が固まった「かさぶた」状態ができあがるには血小板の機能の異常亢進がからんでいるのです。


 この3つの閉塞機序の誘引を避けるためにも、常日頃から、低カロリー・低糖・低脂肪食と節酒に加えてストレスコントロールが重要なのです。

 また、喫煙は、微細血管を収縮させるので、「ドロドロ血液」の血管への流入と重なると血管の閉塞(梗塞)をおこしやすくなります。

 運動をすれば、血液流動性が増し、微細循環が促進され、血液成分のひっかかりの機会も減ります。

 以上の理由により、「ドロドロ血液」である人でほど脳梗塞や心筋梗塞予防のためにも、禁煙と適度な運動がいかに大切であるかがわかるでしょう。


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