生活人コラム
INO.VOL.27 高齢者の事故予防...身体と知能と心に関して...労災予防のこころがけ...かくしゃく老人【井上 透】
--2005.11.8
[執筆者]
井上 透
[紹 介]
ブリヂストン健康管理センター勤務の産業医。大学講師。医学博士。
企業の健康管理センタ−に所属して、社員の肉体的および精神的な方面まで含めた総合的な健康管理の仕事をされています。
高齢者の事故発生には心身の5つの主な原因が単独あるいは複合的にからんでいる事が多いのです。
1)筋力の衰え
2)バランス能力の衰え
3)視力の衰え(感覚機能の衰え)
4)知能(脳)の衰え
5)ベテラン特有の心理(思考の偏り)
<高齢者の転倒の原因>
1. 足腰の筋力の低下
普段の歩行速度が低下している人ほど転倒しやすい。すり足歩行で足が十分に上がらなくなる。→1−2cmの段差でつまずく。
(対策)
床面の段差や出っ張りをなるべくなくし、コードの除去や異物の清掃に心がけ。滑りにくい床面の材質を考える。膝の伸展力の低下を維持するためにも歩行で筋力を鍛える。
2. 視力の低下
白内障などで視力が低下すると小さな障害物が見えにくくなる。
(対策)
床面の異物や出っ張りを除き、歩行機会の多い通路はなるべく明るくする。
3. 体のバランス維持能力の低下
筋肉の協調反応性の低下と平衡機能の低下の両方が影響する。
開眼での片足立ちが何秒できるか?(60秒以上なら合格)
閉眼での片足立ちが何秒できるか?(30秒以上できる高齢者は1%未満)
(対策)
水中歩行、高齢でもできる趣味のスポーツ(テニス・エアロビクス・ダンスなど)。
<脳の老化>
1. 流動性知能は低下する
素早い情報処理能力の衰え、短期的記銘力の低下。
2. 結晶性知能は鍛えれば衰えにくい
社会的知能・文化的知能・言葉の深い意味で思考する能力・総合的判断力。脳の可塑性:経験や知識を得てどこまでも発達できる能力は高齢でも保たれる。
脳の神経細胞は加齢とともに減少しても、神経細胞の間を結ぶ神経回路のネットワークの数や機能向上は努力すれば維持される。
<認知症(旧名称:ボケ・痴呆症)をきたす生活と心の誤り>
1. 悪い生活習慣
喫煙、知的訓練の怠り、運動不足。
(対処法)
散歩、水中歩行、読書習慣(週に1冊)。知的生活(語学・計算・俳句)脳―目―足をバランス良く鍛える。
2. 性格傾向
心労・悩み事が多すぎる、生きがいの喪失。
(対処法)
同じ問題に固執しない。物事の明るい面を見つめる。熱中できる気分転換の趣味を持つ。
<労災者の心理>
―ベテラン者が事故に遭遇する直前の心の傾向性―
長年の経験を通じて培ってきた技術―匠の技はすばらしいのだけれど、マニュアルや昔から決められた手順ですることに慣れてしまう。熟練者の驕り(おごり)は次に挙げるような思考の落とし穴に陥っていることがあります。思い当たる節はないでしょうか?
1. 業務内容が同じなら深く考えずに反射的にうまくこなせても、いつもと異なる条件(機械の故障などのトラブル)が加わると 柔軟な対応ができなくなる。(業務内容の進化・流動化に合わせていけなくなる。)
2. 自分はいままでこのやり方でうまくこなしてきたという過大な自己評価・慢心。自分は大丈夫だという根拠ない驕りと危険行動に対する鈍麻(仮想現実)が、慎重さを欠いた態度・注意力散漫をきたし脇の甘くなる行動につながる。
3. 加齢と共にじっくり考えて決めるのは得意でも、即断即決の思考・判断が遅れる。効率重視の業務への姿勢が高じすぎると、時間がないことによる焦りを生じる。焦る気持ちは冷静に自己を客観視できず、感情のままに突っ走ってしまう。焦って失敗すれば、それを修復しようとさらに焦りの悪循環に陥る。
4. ある程度、仕事に慣れてくると(通常のマニュアル通りにこなせるようになると)もっと楽をして大きな成果をあげてやろうとする。決められた作業を簡略化するなかで、良く転べば「改善」だが、危険行動を伴い逸脱する手段をとれば「労災」になる。そこまで分別できているのか?
5. 若い時のつもりでこのくらいはできるという思いや気持ちで動き出すと、その思いの通りに体がついていけなくて戸惑い・被災する。
ー対応策としての思考革命ー
焦らないで心に余裕を持って対応する。トラブルの時に平静心を保つ。そのためには深呼吸をして間を保つ。
第3者の目で自分を見つめる(自己の客観視)。複眼的思考(多角的な視点で物事を考えて対応する)⇔短絡思考。
あらゆる場面を想定して自分の行動指針をイメージしておく。
<かくしゃく老人
(高齢になっても若い人の介護やお世話にならず自立した生き方のできている老人)
>
ー「かきくけこ」主義ー
「か」
・・感動・・はしが転んでも笑う、自然現象への感動、ニュートンは木からリンゴが落ちることで重力を発見した(普段見逃している何気ない出来事に素直に感動できる感性を失わないこと)。
「き」
・・興味(好奇心)・・精神的創造的趣味(俳句・絵・花つくり)、物事を見て考える、偶然の出来事はない、見逃さず深く考える。
「く」
・・工夫・・生活にアクセント、マンネリ化を打ち破る「そんなこと年をとったのでできない」→この思考の蓄積とともに脳が萎縮していく。原因に縁が加わり結果が出現(大宇宙の法則)、万物に偶然はないという見方数多くの情報の深い意味を推理する習慣、チャレンジ精神を絶やさない。テレビ(受け身)よりも読書(思考できる余裕)の方が有用。
「け」
・・健康・・体に良い事に前向きに取り組む、悪い習慣を避ける。
「こ」
・・恋・・すてきな異性に心ときめくような若々しさを失わない事。
ー老後の心得4ヶ条:体の自由が利かなくなってもできる心の修業ー
1.
執着を去る
財産・地位はあの世に持って帰れない。現役に執着した老人が若者の活躍の場を奪っている。遺言状を書くことで身も心も軽くなりスッキリする。今日死ぬと仮定して、心にひっかかる物・人間関係があれば和解清算する。
3.
知的排泄力を高める
昔の経験や知識が邪魔して新しい事を覚えられない。物事を白紙に戻して見つめる。変人にみえる若い人もユニークだととらえる。
3.
和顔愛語
(柔和な顔、優しい言葉)毎日鏡で顔の表情をチェック。眉間にしわを寄せ厳しい表情になってませんか?言葉で他人を傷つけてませんか?
4.
謙虚と感謝
「ありがとう」という言葉、周りの人をほめたりねぎらってあげる。自分は「生きている」のではなくて多くの人々や神仏のおかげで「生かされている」「余生を多くの人々のために恩返ししようとする」、この考え方が幸福感の源です。
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