生活人コラム



 INO.VOL.30 睡眠障害と病気【井上 透】--2006.4.3

 [執筆者]
 井上 透
 [紹 介]
 ブリヂストン健康管理センター勤務の産業医。大学講師。医学博士。
 企業の健康管理センタ−に所属して、社員の肉体的および精神的な方面まで含めた総合的な健康管理の仕事をされています。




 毎日の生活の1/3から1/4の時間を費やして、私たちは睡眠をとります。

 この睡眠をいかに充実させたものにするかで、覚醒時の気分や集中力の高まりは変わりますし、有意義な人生勝者の鍵を握っているのは過言ではないでしょう。


 眠くなるメカニズムとして2つがあります。

 1つは脳や身体の疲労に伴って蓄積される睡眠物質です。

 1つは昼間活動し夜は眠るという時間的周期に伴う体内時計です。

 昼夜のわからないところで生活すると1日1時間ずつ就寝時刻が遅くなるという実験結果から、本来、人間の体内時計は25時間周期だと認定されています。

 しかし、朝起床時に太陽光を浴びると、脳からメラトニンという睡眠誘発物質が増えてきてやや早めに眠気を感じるようになるため、体内リズムが24時間周期に調節されています。

 ですから、目覚めたらなるべく窓を開けて明るい光の中で動き始めるのが良いでしょう。

 睡眠不足はが長引くと、注意力や集中力が低下して作業能率が低下し事故の危険も高まります。体内時計のリズムの乱れは、ホルモンバランスや体温の生理的な日内変動に狂いを生じさせます。


 不眠には次の4つのタイプがあります。
入眠障害: 寝床についても寝付くのに30−60分以上かかる状態です。

 周囲の騒音や不安や緊張がきっかけになります。高齢者の中には寝床につくと、足先やふくろはぎを虫がはうような感覚で眠れない「むずむず脚症候群」で悩んでいる人もいて、薬物治療の対象になります。

中途覚醒: 寝つけても夜中に何度も目が覚めてその後寝付けない状態です。

 前立腺肥大による夜間の頻尿、ストレス・飲酒が原因になります。

早朝覚醒: 早朝に目が覚めて、その後の眠りが浅いか眠れない状態です。

 加齢に伴う生理的な変化もあります。うつ病の場合もこのような傾向にあります。

熟眠障害: 睡眠時間は十分なのに、浅い眠りで熟睡感がない状態です。

 ストレスの関与が大きいです。「睡眠時無呼吸症候群」の場合は、いびきが中断した無呼吸の度に睡眠が中断して慢性の寝不足になります。そのために昼間の強い眠気をきたします。


 また最近は、不眠と、うつ病・高血圧・糖尿病・その他生活習慣病との関連も指摘されています。

 若い頃に不眠症の人は、そうでない人に比べて、30年後にうつ病になる危険が2−3倍高いという研究報告もあります。

 また、糖尿病患者さんには不眠症の患者が多いし、不眠のストレスのため交感神経が活発になり血圧が高くなりやすいとも言われています。

 最近循環器領域で問題になっている、早朝高血圧患者さんも、その背景には睡眠障害があるケースも多く、早朝の6時から9時の時間帯に脳卒中や心臓病発作をきたす患者さんが多いのも関連がありそうです。


 睡眠薬については、昔は自殺目的でも使われていたこともあり、常用は危険だとのイメージがあります。

 昔は、脳の呼吸や血圧調節中枢にも作用する「バルビツール酸系の睡眠薬」が主流であり、大量服薬では、呼吸や血圧を低下させ命を落とすほどの危険に陥ることもありました。

 しかし、現在主流の「ベンゾジアゼピン系の睡眠剤」の場合は、光や音刺激を脳に伝達する経路に対して、生理的な範囲で脳の神経を休めるように作用するので安全性は高まっています。

 もちろん、常用量を越えて摂取すれば、翌日の眠気・ふらつき・記憶障害・筋肉の脱力感を覚えることもありますが、大量服薬でも直接命にかかわる副作用は発現しません。耐性ができることもないので、服薬量が増えたり、中断すると体が震える禁断症状が出ることもありません。

 ただ、「この薬がないと眠れない」という心理的依存が出る人もいますので、自己判断で薬を増減したり止めたりしないように、主治医の指示のもとでの適量服薬が望まれます。


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