仕事人コラム



 ONO.VOL.1 ホワイトカラーの能力開発

 [執筆者]
 小野紘昭
 [紹 介]
 民間の教育コンサルティング企業を経て、現在、産業能率短期大学教授。
 企業の人材開発および教育訓練全般の仕事をされており、それらに関する論文等を多数執筆しておられます。



 NO.1 企業人の意識の変化と企業の人材育成方針の変化 96.6.17

(日本型人事制度の変革)

 これまで日本企業は、日本型人事制度により組織と個人の関係を規定してきました。
 経営環境が変化していく中で、日本型人事制度が欧米型に変わることはないでしょうが、欧米型とも従来の日本型とも異なる新しい人事制度を探る時期を迎えています。

 第一の変革は、雇用の安定と流動化のバランスが変化しつつあることに関係しています。
 従来の日本型人事制度は、終身雇用制度の名の下に、雇用を企業内に抱え込む傾向がありました。しかし、一部の市場性の高い専門職では雇用の流動化が見られるとともに、反対に専門性の低い労働力はパートやアルバイトなどの外部労働力に依存する傾向が強まっています。企業にとって不可欠な中核社員は従来通り長期雇用により企業内技能を形成し、一部の専門職や専任職は流動化することになりましょう。

 第二の変革は、評価の仕組みが変わりつつあるという点です。
 多くの企業で、すでに年功序列的な賃金・処遇から能力主義への転換がはかられ、年俸制の導入なども進んでいます。処遇と評価はコインの裏表の関係にあることから、今後は業績評価、成果評価のウェイトが大きくなることが予想されます。

 第三の変革は、企業人サイドからも企業サイドからもスペシャリティを求める傾向が高まってきていることです。
 問題はスペシャリストの内容ですが、弁護士や公認会計士などの高度な専門職は、市場性の高い専門職であり、企業と専門職の市場契約関係に依存する部分が大きい。企業内の多くのスペシャリストは、市場性が低い企業内専門職とも呼べる専門職であると見られています。
 市場性の低い企業内専門職は、所属する企業内において価値があるもので、それ故に、企業サイドとしては企業内中核社員としての認識と処遇が求められます。

 第四の変革は、ミドル層の再活性化です。
 日本企業のミドル層は、従来、組織内の上下・横の組織内「連結ピン」の役割を持っていましたが、今後は管理職、専門職、専任職に分化するものと見られます。従来、日本企業のキャリア・パスとしてはゼネラリスト・コースだけが認知され、専門職や専任職のコースは極めて例外でした。今後、企業にはキャリア・パスの多様化が求められ、個人には自己責任型のキャリア形成を早い時期から選択することが求められつつあります。

 第五の変革は、人事制度のみならず組織構造そのものの変革です。
 従来の日本型組織はピラミッド構造の固定的な組織が主流でした。しかし環境変革期の組織は、より柔軟なチーム型組織であったり、バーチャル組織とも呼べる柔らかい組織形態が構想されています。組織構造の柔軟性は仕事のやり方にも大きな影響を与えることになります。

(ホワイトカラーをめぐる厳しい環境)

 日本企業の雇用をめぐる問題は、中高年・ミドル・ホワイトカラー層に集約的に現われてきています。
 従来から、日本のホワイトカラーの生産性が製造業の生産現場の生産性の高さや欧米諸国のそれと比較して、決して高いものではないことが指摘されていました。また、人件費コストの上昇は、企業の人員構成の中高年齢化の進展に伴い、経営の圧迫要因となっています。さらに、従来の日本企業の活力の中心的役割を担ってきたミドルの役割に変化も見られます。

 昨年私どもが実施した企業人アンケート調査からも、ホワイトカラーの生産性を上げるための諸施策が企業人自身も「効果がある」と考えており、その必要性に対する認識が強いようです。中でも、ホワイトカラーの生産性向上のため、「情報システムの推進」、「小さな本社」、「専門職制度の確立」は、極めて効果があるものと考えられているようでした。
 特に、情報化の推進は仕事のやり方やミドル層の役割などにも大きな影響を与えることになります。従来、日本のホワイトカラー、特にミドル層は、上と下、事業部門間などの企業内で人的ネットワークを持ち、情報の結び目として情報が集中していました。しかし、新しい情報ネットワークの進展、例えば電子メールなどによって、企業内の人的ネットワークの必要性が弱まり、その結果ミドルの情報の独占も崩れつつあるといえます。
 加えて、従来、個人と仕事の関係が曖昧であった日本のホワイトカラー層は、情報化の進展に伴い、ホワイトカラーの専門性や仕事の中身を明確化する必要性に迫られています。従来の組織間や上下の「連結ピン」の役割は、情報システム自身が果たすことになるので、ホワイトカラーの仕事の内容、すなわち専門性が問われることになり、情報技術の獲得に遅れがちと見られてているミドル層の情報化教育の必要性は一層高まるものと考えられます。

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 NO.2 求められるミドル管理者 96.7.3

 前回、企業人アンケート調査のことについてお話しましたが、今回はそのことについてもう少し詳しくお話ておきたいと思います。

 これは、私どもが毎年実施している調査で、昨年度は「ミドルの育成」という調査テーマで実施しました。企業の人事担当責任者を対象にアンケート形式で調査し、全部で353名からの回答を得ることが出来ました。
 詳細は別の機会にゆずるとしまして、ポイントだけをお話しすることにします。

(管理者の要件)

 現在求められているミドル管理者は、不況に直面して出口を模索する日本企業の窮状を反映して、新たな価値創造や戦略思考ができたり、合理化・コスト削減や利益の増加を通じて企業の業績向上に直接貢献できる管理者です。
 業績に敏感になっている反面、全ての管理者に求められる要件としては、企業のビジョンや事業の発展方向を部下に明確に伝えることが最も期待されています。

 人事責任者に、部下をもつミドル管理者として求められているタイプに順位をつけてもらったところ、最も得点が高かったのは、「新たな価値を創造して、部門や会社の利益向上に貢献できる管理者」でした。続いて、「全社的な観点から戦略思考ができる管理者」、「部下の管理などの基本的な役割が完璧にできる管理者」の順でした。
 「連絡や調整にたけた管理者」や単に「部下を強力なリーダーシップで引っ張っていく」だけの管理者はあまり求められていないようでした。
 「部下の仕事やキャリアへの希望を吸い上げ、その実現に努める管理者」、「部下に権限を委譲して、育てようとする管理者」はともに得点が低く、部下の個を尊重した管理・育成に関連する項目は優先度が低くなっていました。
 また、「部下の能力・キャリア形成に関して明確な方向づけができる管理者」の得点も意外に低く、管理者の役割の中で、部下の能力やキャリア形成の直接のリード役としての役割はあまり重視されていないようでした。

 「全ての管理者に求められる」要件としては、「会社のビジョンや事業の発展方向を部下に伝える管理者」(60.1%)が最も多く、「業務の合理化やコスト削減に敏感でそれが実践できる管理者」(57.2%)、「新たな価値を創造して、部門や会社の利益向上に貢献できる管理者」(51.8%)が、それに続いていました。
 「連絡や調整にたけた管理者」は一部では求められていましたが、今やその機能の重要度は低下してきており、「今とくに求められない」という回答が15.9%もあったことが注目されます。

 求められる管理者のタイプとしては順位が低かった「部下の仕事やキャリアへの希望を聞き、その実現に努める管理者」や「部下の能力・キャリア形成に関して明確な方向づけができる」、「権限を委譲しそれを支援する管理者」は、「多くの管理者」および「全ての管理者」に求められる要件として高い比率を示していました。

 「新規事業などにあたる企業家型管理者」(61.2%)や「革新を引き起こすような管理者」(39.9%)は、多くの管理者ではなく「管理者の一部に求められている」要件でした。
 多くの管理者に求められているのは、むしろ部門の目標達成や部下とのコミュニケーションといった基本的なことがしっかりとできることであり、今のところすべての管理者が革新志向の管理者になる必要はないという考えがみてとれます。

(これからの管理者像)

 「専門性をもったゼネラリスト」が人材開発の基本モデルになっています。
 全体としてはゼネラリトの育成が中心であり、専門性の教育やスペシャリストの育成は個人まかせという姿勢が強く、教育体系づくりなどはまだまだ未整備のようです。
 スペシャリストの転職についてはまだ十分に見方が定まっておらず、「やむをえない」という考えがある反面、それを積極的に推進すべきではないという意見が多くなっています。

 人材のモデルとしては「専門性をもったゼネラリスト」(肯定的回答58.3%)がまだ主となっていました。そのため現実には、ゼネラリストの育成が人材開発の柱になっており、専門性を高める教育は制度的に整備されているとは言えないようです。
 「専門性を高めスペシャリストを育成すること」が人材開発の中心にはなっておらず(62.6%)、専門性を高める教育が「制度的に若い時から開始する」ようにもなっていませんでした(63.4%)。
 専門性教育の方針としても、「自己啓発が基本であり、会社はそれを支援する」(56.6%)という姿勢が強く、専門性向上は個人の意欲や努力が原点になるという考えの方が多いようです。

 専門性を身につけた人材の流動化については、「転職はやむをえない」(47.9%)という考えが最も多いが、否定的回答(35.4%)や「わからない」(16.7%)という回答もあり、この問題については意見がまだ定まっていないと言えます。
 また、人材の流動化への準備は、「本人が個人で行い、会社は支援する必要はない」という考えには反対の方が多く(54.1%)、将来「転職してもやむを得ない」に対しても賛成という意見が約半数に達していたことは(47.9%)、終身雇用制度が揺らぎつつあることの証左でしょう。

 企業規模によっても専門性やスペシャリストに対する考え方が異なっています。
 規模の小さい企業ほど、「自己啓発が専門性を高める教育の基本」という考えを支持する率が高く、大企業はそれを否定する回答が相対的に高くなっていました。
 大企業では会社の教育体系の中に専門性を高める教育が組込まれていることが考えられます。
 「スペシャリストの育成が人材開発の柱」になっているかについては規模に関わりなく全般的に低く、本格的にスペシャリストを育てていく人材開発の体制にはなっていないことがわかります。

 「人材の流動化を促進すべきか」ついては、500人以下の規模の企業では流動化を肯定する回答が多く、スペシャリストの人材不足がこの結果に反映されていると考えられます。
 大企業では流動化に賛成する意見もある一定割合を占めていましたが、5000人以上の規模の企業をみると、人材の流動化に反対する回答が半数を越えていました。
 このような結果がみられるのは、小規模企業とは反対の立場で、自社で育成した高い専門性をもつ人材が流出することには抵抗を覚えるからだと思われます。

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 NO.3「'96人材開発白書」から企業と企業人の意識ギャップを読む 96.8.5

 私どもでは毎年、企業の人事・人材開発責任者と一般の社員に対して、 アンケート調査を実施しております。
 この度、その結果を「'96人材開発白書」としてまとめましたので、そのポイントをお知らせしたいと思います。そこから、今後ホワイトカラーがどのように能力開発をしていけば良いのかを、探っていきたいと思います。

(1.人事管理の方向性に対するギャップ)

 人事管理や人材開発に関して、企業(人事・人材開発責任者)と企業人は基本的には同じ考え方をもっています。しかし、内容を比較してみると、企業と企業人では同じ意見でもそれぞれ主張の度合いが異なっていることがわかります。

 企業は、人事考課では業績・成果や会社への貢献度を重視すべき、という考えが企業人よりもかなり強いようです。
 企業人は、仕事やキャリアコースを自分たちが主体的に選択することや、社外でも通用する専門能力などを、企業よりも強く求めています。

 意見が分かれているのは、職場で仕事を進める上での方向性です。
 企業人は職場での和や協調性を重視するのに対して、企業は個人の能力を活用・発揮する方を重視しています。
 人事施策の項目を従来の考えに近いものと、今後の考えに近いものに分けてランク別してもらったところ、人事考課で「業績・成果を重視すべき」という考えや、処遇では「会社への貢献度を重視すべき」という考え方は、企業からも企業人からも支持されていました。
 しかし、企業の方が「業績・成果の重視」(平均値3.71)、「会社への貢献度」(3.85)をはるかに強く支持していることがわかりました(5に近いほど強くそう思っている)。

 「仕事やキャリアの選択での社員の主体的選択の重視」や「教育は社外で通用する専門能力の向上」に関しては、企業、企業人ともに支持していますが、これらについては企業人の方がそれぞれ2.13、2.42と、企業より高い数値を示していました(1に近いほど強くそう思っている)。

 一方、職場では企業人が「チームプレーや協調性」といった集団志向性が強いのに対して、企業は個人能力の活用・発揮といった個人志向性の方が強く、ここでは意見が分かれています。

(2.キャリア志向に対するギャップ)

 キャリア志向に対しては、企業(人事・人材開発責任者)と企業人の間では大きなギャップがみられます。

 企業の考えの中には、社員は管理職志向が強く、転職よりも社内でのキャリア形成を目指しているという従来型のキャリア観が根強く残っています。
 しかし、企業人のほうはむしろスペシャリスト志向で、自分のキャリア実現のためには特定の会社にキャリアを限定することはない、という考えが半数を占めていました。
 キャリアに対するこのような認識のズレは、今後の人材開発や人事管理体系の修正・再構築において見逃せない問題であり、重要なポイントとなりましょう。

 企業人は「管理職よりスペシャリスト志向が強い」という見方に対して、企業の7割以上が否定的な回答を寄せており、「転職を視野に入れた社員の増加」を否定する人も7割を超えていました。
 調査のサンプルとして、回答した企業と企業人が必ずしも同一の会社ではないという問題を考慮しても、企業人と企業とでは明らかに異なったキャリア観をもっているといえましょう。

 企業人は「スペシャリスト志向」が強く(53.9%)、それも会社にこだわらずスペシャリストを目指す人が全サンプルの4割近くにのぼっていました。にもかかわらず、企業は自己啓発に力を入れる社員の増加を認めながらも、社員に対しては「将来のキャリアに明確な目標がない」(68.5%) とみなしています。
 これらの値は、社員のキャリア志向の実態が人事サイドで十分に汲み取られていないことを示唆するものではないでしょうか。

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 NO.4「'96人材開発白書」から企業と企業人の意識ギャップを読む
    その2 96.9.7


(1.若手社員に高いキャリア不安)

 目まぐるしく変化する現代では、これまで培ってきた能力が将来は通用しなくなるのではないか、という不安も高まってきます。

 こうしたキャリア不安をもつ人は管理職や専門職よりも一般社員に多く、6割以上の人が不安感を抱いている点は注目に値します。
 変化への対応力というものを考えると、ミドルの不安感が想像できそうです。しかし、実際には若手社員のほうが不安感が強く、勤続年数が長くなるにつれてキャリア不安を感じる人は少なくなっています。
 有能感の結果を考え合わせると、やはり自分の能力に自信を持てないことが、若手社員のキャリア不安につながっているのでしょう。

 このことは、終身雇用制の神話が崩れそうな中で、長期的なキャリアの継続に対する不安感とも受け取れます(年齢別にみた有能感・キャリアへの不安感については、第4章第7項を参照)。
 職種別では、研究開発職・技術職でキャリア不安が強い。技術革新が早く、技術の陳腐化が想像以上に進んでいるなかで、技術系の人たちがその対応に苦慮する姿が浮かんでくるような結果です。

 「今後の自社事業や環境の変化を考えた際に、自分の能力に将来的に不安を感ずる程度」を示すキャリア不安をみてみると、一般社員の6割を超える人(61.9%) が不安があると答えています。
 管理職や専門職では不安感は低くなり、不安がないという人が半数を上回っています。
 職種別にみると、研究開発職、技術職で、やはり6割を超える人が不安を感じています。事務職の人も58.9%が不安を感じていると答えています。
 比較的不安感が低いのは企画職であり、約 54%の人が不安がないと答えています。

 勤続年数の違いがキャリア不安にどう影響しているかをみると、やはり勤続年数の短い人でキャリア不安が高くなっています。
 勤続年数が長くなるにつれて不安感は少なくなってくるのに対し、3年未満の若手社員では、3人のうち2人が不安を抱いていることになります。

(2.自信の源は現在の仕事とキャリアプラン)

 自分を有能だと感じている人は、そのキャリアや能力の形成に対する考え方に特徴があります。
 有能感をもつ人は、現在の仕事をしっかり遂行することを重視すると共に、自分のキャリア・ビジョンやプランの形成、会社の事業計画と自分のキャリアのすり合わせといった、将来のキャリア構想を明確に定めようとする傾向があります。
 有能感をあまり感じていない人は、時間を見つけて自己啓発にあてたり、様々な教育の機会を探そうとしており、能力の基盤づくりを志向しています。

 今後も自分の能力や経験に自信を持ち続けるために必要な点として、有能感の高い人は「自分でしっかりとしたキャリアプランをつくること」(平均値3.45)、「適正なローテーション、異動」(3.31)、および「現在の仕事をしっかりやること」(3.21)をあげています。
 担当する仕事をこなして能力の発揮や伸長を継続すること、会社の事業計画などを考慮しながらキャリアビジョンやプランをつくることを重要と考えていることがわかります。

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 NO.5「'96人材開発白書」から企業と企業人の意識ギャップを読む
    その3 96.10.4


(1.キャリアに対する心理構造)

 人はよく「キャリアがある」と口にし、それを誇ったり、そのために悩んだり、また充実感や不満足感を味わったりします。
 様々な意識がキャリアに対する思いの中には潜んでいますが、いったいどのような心理的要因があるのでしょうか。

 キャリアに関する心理の設問を統計的に分析したところ、次の3つの因子(要因)が抽出されました。
 (1)「有能感」
 (2)「キャリア不安」
 (3)「仕事での成長感」

 新たな挑戦への原動力となる「有能感」に関わる意識、能力に不安を感じる「キャリア不安」に関わる意識、そして仕事を通じて成長していることが実感できる「仕事での成長感」の意識。
 この3つの心理的要因が、ある時は単独で、ある時は絡み合いながら、企業人のキャリアに対する意識を形づくっているようです。

 仕事の経験やキャリアに関する質問項目を因子分析にかけた結果、第1因子として抽出されたのは「有能感」でした。
 第1因子を構成する項目をみると、有能感は現在の仕事に対する自信だけでなく、関連事業や新規事業などの未知の分野の仕事でもやり遂げる自信を含んでいることがわかりました。
 この有能感がチャレンジ精神や学習意欲の心理的原動力です。

 第2因子である「キャリア不安」は、経営環境や事業・組織構造の変化の中で、自分の能力に対する不安の表明と受け取れるものです。
 将来に対する不安だけでなく、社内で習得した自分の知識や能力は他社では通用しないのではないかという不安、また自分の適職や今後目指すキャリアがわからないという不安も含んでいます。

 「仕事での成長感」という第3因子の項目からは、仕事に打ち込み、それをうまくやり遂げることにより達成感を得ることで成長を実感できると理解されます。
 また、職場や会社の運営に自分の意見が反映される際に、自分の影響力の大きさからも自分の成長ぶりは実感できることがわかりました。

(2.管理職、専門職に高い有能感)

 企業人の多くは自分自身に自信をもっている、という結果が出ました。
 自分の能力への自信の程度を表す「有能感」は、全般的に高い値を示しています。しかし、職務内容をみてみると差が出ており、管理職や専門職の人は強い自信をもっていますが、それに比べると一般社員では自信のある人が少なくなっています。

 勤続年数はどのように関わっているのでしょうか。
 長く勤めている人ほど、自信があるという回答が多いのです。会社に長く勤務することによって能力を高め、自分に自信をつけていくという、従来からの終身雇用制の中での日本型の能力形成パターンがここには表れています。
 また、転職経験のある人は自分の能力に対する自信が高い。転職する人のほうが自分の能力を市場性のある有力な武器と考え、自信をもっていると想像できます。

 「現在の仕事をうまく遂行する上での自分の能力への自信」の程度を示す「有能感」をみると、専門職の人が最も高く、88.1% の人が現在の自分の能力に自信があると回答しています。管理職の 86.2%がそれに次いで高い。一般社員では自信がないという人が約4分の1を占めており、自信があると回答した人の割合は、4つの社員層の中でも最も低い 75.1%となっています。

 一般社員の有能感が相対的に低いという傾向は、勤続年数の結果とも一致します。
 勤続年数が5年未満の人たちで、自信有りという回答は最も低い。しかし、勤続年数が5年を超えてからは自信は高まってくる傾向がみられ、勤続年数と有能感は、正の関数関係にあることがわかります。

 転職経験に関しては、経験のある人の 86.4%が自信ありと答えており、経験がなくて自信のある人の 77.4%を上回っています。

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 NO.6「'96人材開発白書」から企業と企業人の意識ギャップを読む
    その4 96.11.7


(1.年功制からの脱皮を中高年社員も支持する)

 終身雇用、年功制といった日本的な制度から脱皮するには、若手社員だけでなく40歳、50歳代の社員も賛成しています。業績・成果重視の人事考課は中高年にも支持されているのである。
 特徴的なのは若手社員の考え方で、仕事やキャリアでは自分たちの主体的な選択を主張する一方、処遇では生活を維持する面を重視すべきと、といった個人主義的な面をのぞかせています。

 全体的に「人事考課では業績・成果を重視すべき」という意見が支持されているが、その度合いは、若手社員よりも30歳代後半や、40歳代後半で高くなっていいます。
 結果を重視した考課という最近の新たな人事管理の方向が、中高年社員にも支持されていることは注目に値します。

 「生活の維持よりも会社への貢献度を重視した処遇」も同様であるが、20歳代の若手社員は、どちらかというと生活維持の面を重視した処遇を望んでおり、まだ会社に十分貢献できない点を意識して回答していいます。

 「仕事やキャリアコースの選択では社員の主体的選択を重視すべき」という考えが年齢を越えて支配的であるが、主体的選択を最も望んでいるのは、やはり20歳代の若手社員である。人事管理の将来については「能力・成果を重視する人事管理に変わるべき」という意見にどの年齢層でも賛成が多いのです。

(2.仕事への意欲は高いが、キャリア形成は不満)

 今、多くの企業では従来の日本型人事・教育制度の見直しが行われています。
 変化する経営環境、リストラの実施。こうした状況は、企業人、とくにこれまでの企業の中核であったホワイトカラー、中高年や管理職にとってはかなり厳しいはずです。
 そう考えると、企業人には仕事への不安や自信喪失感があるものと予想されます。

 しかし、現実には企業人は、現在の仕事だけでなく、関連事業や新規事業もやり遂げる自信があり、仕事を通じて自己実現する満足感や成長しているという実感をもっています。
 このような企業人は、かつての「猛烈サラリーマン」と似て非なるものです。
 今や、仕事の意味は生活の確保や出世への欲求ではなく、自己実現への欲求です。仕事を通して自己実現を目指す、新しい企業人の姿が浮き彫りになっているといえるでしょう。

 多くの企業人が、現在の仕事で「自分の能力に自信がある」と答えています(「どちらかというと」を含めると8割)。
 こうした有能感は現在の仕事だけでなく「多少関連のある新しい仕事」や「新規事業」においても同じように保っています。
 関連事業について、はっきり自信があると答えた人は 28.7%と高い値を示しています。
 自分が習得してきた能力や知識が「将来的に通用しなくなる」という予想は半数以上の人が否定し、「自分にふさわしい仕事やキャリアの志向性がわからない」という不安も少ないようです。この自信が自分に対する満足感を生み、「成長している実感」を感じている人が7割近くいます。

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 NO.7 これからの企業人は、どのように自分のキャリアをつくれば良いのか
     96.12.7



(どのような「仕事」に就くか、どのように「仕事」をするかが大切)

 調査データによると、企業人の能力は、実際の仕事を通してつくられるものであると考えているふしがあります。
 自分にふさわしい仕事を経験し、目標達成に向けて努力し、上司や仲間など周囲の人と関わることによって、能力を自分のものとし、成長したという実感を得ることが大切だととらえているようです。

 仕事は、有能感(自分が有能であるという実感)に影響を与えている最大の要素です。教育や転勤やローテーションなど企業が「与える」ものも、本人のキャリア・ニーズにマッチしていないと、必ずしも企業人の成長や自信に結びつくとはかぎらないようです。
 企業人の価値観も多様化しており、肩書きよりも「仕事」そのものに生きがいを見出そうとする人が増えてきているのも事実でしよう。

 それは、有能感の形成に最も効果のあったのは、「適切な仕事を経験したこと」と答えた人が圧倒的に多いことからもわかります。
 キャリア形成に「とても効果があった」人は36.1%おり、ほとんどの人が仕事を通じてのキャリアづくりを実感しています。また、実際に仕事を成功させるためにした「自分の努力」も非常に強い自信につながっています。

 このように実感できるのは自分ひとりが出した結果ではなく、「上司の適切な指導・コーチング」や「社内外の人からの評価やフィードバック」によるところも大きく、この2項目はいずれも7割前後の人が肯定しています。
 周囲の人と関わりながら、自分の仕事ぶりを確実に把握し、アドバイスや評価を受けてキャリアに対して自信をつけていくことの大切さが浮かび上がっています。

(キャリア形成には、長期・短期の視点が大事)

 これからも自分の能力や経験に自信をもち続けるためには、企業人は何が必要と思っているかを考えてみましょう。
 重要なポイントとして、企業人は

(1)キャリアプランを立てること
(2)仕事を通してキャリアを形成すること
(3)自分で学習の機会をつくること

 の3点をあげています。

 つまり、まず自分のキャリアを見直し、将来のキャリアプランを自分でしっかり立てることです。
 先にどのように「仕事」に取り組むかが大切であると述べました。異動やローテーションも本人にとって「適正」なものであれば、現在の仕事をしっかりとこなし積極的に機会を活用しながら、受け身の学習ではなく、自分で学習する姿勢を持ちます。
 そこで、明確なキャリアビジョンと「仕事」を結び付け、そして自発的な学習意欲をもつことが大切だということがわかります。

 その中でも、最も大切なポイントは「将来のキャリア・ビジョンやプランづくり」です。ほとんどの企業人が重要とみなしており、47.1%の人が「とても重要」と答えています。
 まず、「長期的な視点」からキャリアづくりの計画を立てることが必要と考えています。さらに、「自分の能力・キャリアの見直し」(36.5%)や、「現在の仕事をしっかりやること」(33.8%)といった「短期的視点」で足元を固め、「自学自習」(33.8%)を実行していくことが、多くの企業人にとって将来へ自信をつなぐ道だと思っているようです。

 あなたも、新年にご自分のキャリアプランを立ててみてはいかがでしょうか。

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