好奇心コラム



 YOS.VOL.3 アメリカ・ウォッチング臨時増刊(イラク空爆の可能性) 98.2.17

 [執筆者]
 吉崎達彦
 [紹 介]
 1960年、富山市生まれ。
 一橋大学社会学部卒業後、企業PR誌編集長、シンクタンク研究員、経済団体職員などを歴任。現在は大手商社の調査部に勤務。



 イラク情勢が風雲急を告げてきました。米国による空爆があるか、あるとしたらい つかが気になるところです。「アメリカ・ウォッチング」としては、臨時増刊を出し て文字どおりアメリカの出方を占ってみることにしました。

 結論からいえば、2月17日現在、イラクへの空爆実施の可能性は6割以上と見ます。実施時期は2月の最終週から3月冒頭にかけてがもっとも濃厚。アメリカの目標はフセイン政権の無力化です。フセインを追い払って無難な政権ができれば満点、フセイン が生き残っても武力を失ってカダフィ程度の存在になればそれもよし、という考えでしょう。

 以下、「国内」「軍事」「外交」の3点を点検してみます。

1)国内事情

・アメリカ国内世論は、「フセインさえ取り除けばイラクは安定する」と単純に見ている。議会とホワイトハウスも、意図的に「フセインが元凶」と喧伝している。ノリエガ将軍と同じで、かつてはフセインを利用していた手前、叩けば埃が出るという後ろめたさも手伝っているのかも。産業界もイラクでビジネスを再開したいので空爆を支持。

・ただしオリンピック開催中(2月22日まで)は、動きにくい。空爆中にアメリカ人選手が金メダルをとったら、テレビはどっちを中継するか悩ましいことになる。世論の支持がなければ空爆は継続できないので、この要素はけっして無視できない。

・石油価格は先安感が強いので、米国民は湾岸戦争のときのように、「中東の石油が入ってこなくなる!」という恐怖はさほど感じなくていい。アメリカは南米やアフリカからの原油輸入を増やし、中東依存度を着実に下げている。景気は絶好調で米ドルは堅調であり、空爆による経済的なリスクは非常に小さいといえる。

2)軍事的背景

・配備完了まであとしばらくかかる。来日中のリチャード・アーミテージ元米国防次官補が、「オリンピック期間中はまだ準備ができない」と語ったらしい。十分な準備が整わない限り攻撃をしないのは米軍の伝統ゆえ、この間の軍事行動は考えにくい。「十分な準備」には、派兵総数2万5千人分に毎日届けるアイスクリームの補給まで含まれる。サウジの基地もぜひ使いたいと考え、説得に時間をかけるだろう。

・一方、準備がピークに達したら、その状態を維持するのは至難となるので「早いとこ空爆したい」という気持ちになるだろう。気候が暑くなると、ハイテク機器に異常が出る危険性を勘案しなければならなくなるので、決断をあまり先に伸ばすこともできない。地上軍の派遣がないことを前提とすれば、空爆は相当な規模になるだろう。しかし空爆のみであれば、米軍の犠牲はきわめて小さくて済むことは立証済みである。

・湾岸戦争以来、国防省はミサイルの精度、攻撃効果を飛躍的に高める技術開発を推進。今回使用される攻撃ミサイルは、GPS(ナビゲーション・システムと同じ)利用で誤差を高度に矯正し、目標に当たっても一度地中に潜ってから、高熱を発しながら爆発するという新型。地下兵器貯蔵庫の破壊用どころか、地下司令室にいるフセイン暗殺まで狙えるだろう。軍として、実戦で使用してみたいという誘惑は当然あるはず。

3)外交上の要素

・仏、ロ、中は空爆実施反対の姿勢を変えないだろう。空爆を支持しているのは予想通り英、加、豪のアングロサクソンの国々。ドイツと日本は裏方で支持に回ることになろう。アラブ諸国の支持が少ないのが問題だが、それが爆撃中止の理由になるとは思われない。

・米国としては、国連安保理の同意は不要と割り切れば、一通りの挨拶は済んでいるのでいつ実施しても不都合はない。「国連の許可なしで攻撃していいのか」と言われたら、「イラクのわがままをこれ以上見逃すと、安保理の地位低下がはなはだしくなる。そっちの方が問題だ」とやり返せば良い。

・イラク現政府が査察の全面受け入れをするとは考えにくい。アメリカの方も、94年の対北朝鮮妥協のような方向転換は望み薄。北朝鮮核疑惑の際は、アメリカに準備ができておらず、日本や中国の協力も当てにできなかったため、外交努力による和解を多とした。今回はアメリカ側に外交による和解を目指す理由がない。

 ・・・といったところが、当コラム「アメリカ・ウォッチング」の見解です。(もちろん筆者は、外交努力による解決を祈るものであることは言うまでもありません。念 のため)。

 かなり断定的な物言いをしてしまいましたから、大外れになるとちょっと恥ずかしいところですが、この手の問題における「アメリカの出方」を考える上で、参考になる見方ではないかと思いましたので、あえて書いてみた次第です。
(筆者への直通の電子メールは、ここ

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