国際人コラム
〜YUN.VOL.1 日常の日韓発見キーワード〜
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[執筆者]
尹 泰淑(ユン・テスク)
[紹 介]
1965年、韓国生まれ。
韓国の大学(日本文学科)を卒業後、1990年に来日。主婦。地方都市に住み、有志を対象に小規模な韓国語講座の講師や韓国料理の紹介をしたりされています。
家庭シリーズ NO.1[お掃除、お料理、ゴミ捨て、スリッパ] 98.6.1
1. お掃除 『ふく』と『みがく』
お家の中の毎日のお仕事にお掃除があります。お掃除のやり方にもお国柄が表れていて大変おもしろいものです。
日本の古いお家やお寺などに行くと、木肌がピカピカに光っているお家の床を見ることがあります。最近の新しいお家は新建材を使ったり絨毯が敷いてあったりのお家が多いのであまり見ないのですが、田舎などに行くとよく見かけます。
普段は特に気にもしないで見過ごしていましたが、ふとしたことからどうもそれは拭き掃除のやり方のせいではないかと気がつきました。
韓国と日本では部屋の造り方が違います。オンドル部屋とたたみ部屋です。
オンドル部屋は、特殊な厚手の紙の表面にニスのようなものを塗って床を仕上げます。だから表面はツルツルしています。ちょうど板張りの部屋と同じで、お掃除も拭き掃除が中心になります。
雑巾で拭き掃除をするのは同じですが、注意して見ていると、韓国人と日本人は雑巾の絞り方がかなり違います。韓国人の絞り方は日本人の絞り方に比べずいぶんとゆるいことに気づきます。おまけに絞る時の両手のひねり方まで反対です。
ひねり方はどうでもいいのですが、韓国では、ゆるめに絞った雑巾でほこりや汚れなどを軽く拭き取ることが拭き掃除の目的です。
ゆるめに絞って少しくらい床に水気が残っても、オンドルはもともと床暖房ですからすぐに水気はなくなります。床には表面処理がしてありますから普通の汚れは簡単に落ちるし、その後いくら磨いても変わらないからそれで充分です。
日本人は雑巾を固く絞ります。拭き掃除の目的が、ほこりや汚れを拭き取るということはもちろんですが、木肌を磨くということにもう一つのねらいがあるようです。ゴシゴシと力を入れて拭き掃除をするのが良い拭き掃除です。水気が多すぎてベチョベチョにしていたら木が腐ってしまうということもあるかも知れません。
固く絞った雑巾でせっせと磨き込むので、古いものほどピカピカに光ってきます。
日本人には、もともとのものの持つ風合いを大切にしながら磨きあげるという発想があるようです。
磨きあげるという発想は、何もお家の床だけでなくいろいろなところで見られます。
お庭の造り方にも良く表れています。最近になってガーデニングが流行し始めましたから西洋的な庭づくりのお家も増えてきたようですが、日本のお家に行くと松の木や大きな石や池をあちこちに配置したお庭を見ます。
お友達に聞いてみたら、そんな日本庭園は自然を模倣してデザインするもののようです。自然の風景が自分のところにあるかのようにお庭を造り込むのが好みです。敷地の広さに限りがありますから広いお庭があったり小じんまりとしたお庭もあったりですが、おおかたが似たような発想の全体観が感じられます。
自然のありのままを象徴的に磨きあげているかのようです。
私は庭造りのことは良く知りませんが、韓国では、規則正しく配置した人工的で合理的な造形のお庭が多いような気がします。全体のデザインにはあまり関心がなさそうで、自分が好きな花や木をわりと無頓着に植えて、自分の好みで、自分が楽しむためのお庭が多いようです。
韓国人には、もともとのものを(自分にとって)納得のいくように造りかえるという発想があるようです。
こんな発想の違いはお料理にも良く表れています。
2. お料理 『つくる』と『いかす』
最近はテレビで料理関係の番組が多く、世界中の料理食べ歩きのようなものもあり、韓国料理も日本でだいぶ普及してきました。
ちょっと前まで韓国料理といえば焼き肉だけのような感じでしたが、このごろはいろんなお料理が日本でも紹介されるようになりました。キムチは日本人にもけっこう人気があるようでうれしくなります。お料理好きの私は楽しみです。
お料理についてもおもしろい違いがあります。
韓国では『おいしい』ということを『マシッタ』と言います。反対に『まずい』は『マドォプタ』。『マシッタ』と『マドォプタ』を直訳すると『味がある』と『味がない』という意味になります。でも、おいしいとかまずいという風に訳すのが普通の感覚ですね。
日本語の『おいしい』とか『まずい』とかいったニュアンスをそのまま言い表す適当な言葉は韓国語には見あたりません。日本人からみたら何となくしっくりこない表現ですね。
ところで、韓国料理にもたくさんのメニューがありますが、普段、家庭で食べるお料理はトウガラシとニンニクとゴマ油で味付けしたものが多くなります。
日本と同じようにいろんなお野菜やお肉を使って炒めたり煮たりしてお料理を造りますが、香辛料としてはトウガラシとニンニクをふんだんに使い、炒めたりする時はゴマ油を使います。どの家庭でもトウガラシの粉とニンニクをすり潰したものを大量に常備しています。
果物やお菓子などは別ですが、ことお料理について言えば、韓国人にとって味があるというのはトウガラシとニンニクの味があるか(強いか)どうかである、と言ってもまんざらおかしくもないようです。ですから、韓国のお料理はどのくらいトウガラシとニンニクを加減して味の強さを造るかに気を遣います。
韓国人からトウガラシとニンニクをとってしまったら、たちまち栄養失調になってしまうかも知れませんね。
日本のお料理はたいていが薄味です。
ご近所のお友達の中に健康に気を使う方がいて、その方のお料理は特に薄味です。ときどきお料理をご馳走になりますが、味がついているのかついていないのか分からなくなることもあるほどです。ご馳走になるお料理はたいていが手の込んだ見事なお料理なのでありがたくご馳走になるのですが、はじめはちょっと戸惑ってしまいました。
日本のお料理には、醤油味とか薄味とか言ったことのうしろに、素材の持ち味を生かすということに特長があるようです。素材が本来持っている微妙な風味をそこなわないように、如何にして味をつけるかが大切なのでしょう。隠し味なんていうめんどうなものまであります。懐石料理などはその典型かも知れません。
私は韓国からお友達が来て外食する時は純和風料理はご馳走しないことにしています。
はじめは、せっかく訪ねてきてくれたお返しにとそんな所でご馳走したこともありますが、お友達はいともあっさりと『マドォプタ』と言って一口食べただけで残すことが多いのです。何だか拍子抜けしたりもったいない気持ちになるばかりで、わざわざ高い懐石料理などをご馳走するのは考えものです。ファミリーレストランのような所で、おなかいっぱいにご馳走した方が本当はよほど喜こばれますから。
お料理のことでもう一つお話ししておきたいのが、盛りつけの仕方です。
韓国ではお料理を大皿にたっぷりと盛ります。食べる時にはそれぞれが大皿から好きなだけとって食べます。日本のように小さくてかわいい小皿がそれぞれの人ごとにたくさん出てくるようなことはまずありません。そんなチマチマしたものばかり出されても、韓国人は食べた気にもならないのです。刺身の食べ方などは豪快という言い方がまさにピッタリです。
またひとつキーワードが思い浮かびました。
韓国人はひとまとめにたっぷりした感じを好み、日本人は細かく小分けしたがるという点です。日本にも鍋料理があり、みんなで鍋を囲んで料理をつっつき合いながらワイワイ食べるということも多いのですが、韓国ではほとんどのお料理がこんな鍋料理と同じ食べ方です。毎日が鍋料理のように楽しい食事風景です。
この違いをもっと端的に示しているのが家庭のゴミ出しです。
3. ゴミ捨て 『ひとまとめ』と『区分』
ゴミ問題は環境保全のための世界共通の課題ですが、日本と韓国ではそのことについてもお国柄の違いがあってたいそう興味深いものです。
もう7、8年ほど前の話ですが、私は日本に来る以前はソウル郊外の大きなアパート団地に住んでいました。
韓国のアパートは十数階建てのアパートが数百棟単位で並んでいます。そんな巨大な団地が大都市の郊外のあちこちにあります。内部の造りは日本のマンションと同じようなものですが、日本のように大きなマンションがポツンポツンとある情景は韓国ではそんなには見ることがありません。
まあそれはどうでもいいことですが、おもしろいのはそこでのゴミ出しのやり方です。
その頃は、韓国では、家庭のゴミはひとまとめにして出していました。
大きなアパートには各階にダスターシュートがあって、適当な袋などに入れてゴミをそこに落とします。落としたゴミは専門に作業をする係りの別の人がいて細かく分類してくれます。韓国人にはもとを細かく分けておくという発想はあまりないようです。それが必要なら後から分ければいいという考え方です。
日本に来てからは地方都市の小規模なマンション住まいですが、日本に来た当初はゴミ出しの違いにちょっと面食らってしまいました。自分で分けてゴミを出すからです。
最近は私の住んでいる地方都市でもゴミ出しに一段とうるさくなってきました。ビンは色違いごとに出さないと回収してもらえませんし、紙も新聞紙や広告紙やダンボール紙に分けておかなければなりません。さらに、牛乳パックなどはまた別のやり方が決められています。はじめに細かく分けておく必要に迫られます。
注目したいのは、特に最近のように細かく分けてゴミを出す面倒くさいことを特別な混乱もなく整然と実行していることです。韓国人にはなかなか出来ないことだろうと感心してしまいます。
韓国でも3、4年前頃からゴミの従量制のような制度が実施され、以前のようにゴミを不用意に捨てることはできなくなったようです。日本と同じような分別収集ですが、うまく徹底できない様子でちょっと心配になります。
このように、目標は似たものですが途中の手順はかなり違ってしまいます。
区分しておくということは、はじめに同じ種類の仲間にまとめるということです。区分したものは同じ格好でまとまっていないと落ちつかないのが日本人だと言うことができるかも知れません。区分することが得意だと言っても良さそうです。
一方、ひとまとめにしておくということは、とりあえずゴチャ混ぜになっていることですから、違いをあらかじめ承知していると見ることもできます。とりあえずは一緒にしておくことで落ちつくのが韓国人だと思っても良さそうです。
こんなことを話していると頭の中までゴチャゴチャになりそうですから、このことについては別のシリーズで別のキーワードを使ってお話しすることにします。ちょっとだけお話ししておきますと、ビビンパプ(混合)とカツドン(融合)の違いを考えてみると理解しやすいと思います。
この『ひとまとめ』と『区分』という視点の違いが他のことに対してもことごとく作用しますから、いろんな行き違い発生するのは当然の成りゆきです。
4. スリッパ 『いま』と『つぎ』
急におかしなキーワードを出しましたが、スリッパと言うのはトイレのスリッパのことです。
韓国のお家のトイレは西洋式です。お風呂とトイレが一緒になったあれです。ビジネスホテルタイプの造り方ですね。もちろん昔は違いましたが、新しく建てるお家ではほとんどがそんな様式になっています。
西洋式の造りですがその部屋にはスリッパが備えてあります。スリッパと言うよりもほんとうは木製の『つっかけ』です。お風呂と一緒になっていますから、水があるのでどうしても必要です。
日本のお家はほとんどがトイレとお風呂を別々の部屋にした造りになっています。
最近のマンションではフローリングの部屋が人気ですから、部屋の中でスリッパを履く習慣の人も増えているようです。そんなお家でもほとんどがトイレのスリッパはトイレ専用に別のものが備えてあります。衛生上からそうするのでしょうが、おもしろいのはそのスリッパの揃え方です。
日本では、多くのお家で、入った時に履きやすいようにスリッパが揃えてあります。出る時にそのようにして出るからです。
どこでも躾にきびしい家庭とそうでもない家庭があって、日本人のお家でも乱雑にしているところももちろんありますが、この揃え方は韓国ではあまり見られないものです。韓国の家庭では日本以上にこどもの躾を厳しくしますから、当然スリッパを揃えたりもしますが、次に入った時に履きやすいように揃える発想の人はあまりいないようです。きちんと並べるくらいのものです。
日本の揃え方は、次にトイレに入る時にはたいへん楽になりますが、一方、韓国の揃え方は出る時にはだいぶ気分が楽ですね。次に起きるかもしれない状況をより意識するか、ともかく今を強く意識するかという視点の違いがあります。
一事が万事こんな他愛もない日常行動レベルの違いに驚いてしまいます。
例えば、布団の片づけ方にしても、普通の韓国人は敷き布団の上に掛け布団を重ねて片づけますが、多くの日本人は布団を敷いた状態で上から順番に押入に片づける人が多いようです。次に布団を敷くときに便利です。
一つ一つは些細なことで、大変さや便利さにそれほどの大差もないので何でもないのですが、そんなことも積み重なれば気分的にはだいぶ違ってきます。何でこんなことくらいしないのかとか、どうしてこうやってくれないのかと言った具合です。
いやはやお国柄とはほんとにおもしろいですね。
このコラムでは、むずかしい議論は横に置いといて、こんなちょっとしたことの違いについて感じるままに少しずつお話しさせてもらうことにしました。ちょっとしたことの積み重ねがそれぞれの文化の基盤になっており、そんなことを理解しておくのが何よりも大切だと思うからです。
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家庭シリーズ NO.2[お風呂、お産、家族、お買いもの] 98.7.1
5. お風呂 『第一目的』と『気分』
トイレのつぎだからというわけでもありませんが、こんどはお風呂です。
お風呂についての違いも興味深いことばかりです。私は毎日お風呂に入る習慣はなかったのですが、日本に来てからはやはり毎日入る習慣が身についてしまいました。お風呂に入らないと何となく気持ちよく寝ることが出来ません。
韓国のお風呂は西洋式で最近ではたいていのお家にそのような西洋式のお風呂が備わっていると前回お話ししましたが、風呂場はあっても物置代わりに使っている家庭がほとんどです。日本より湿気が少ないとかそんなこともあり、韓国人は毎日お風呂に入る習慣の人は多くはありません。シャワーは良く使いますが、浴槽にゆったり浸かるという人が少ないのです。
ここまで聞いて、韓国人がきれい好きではないと誤解されては困ってしまいます。
韓国人は、お風呂に入る回数は少ないものの、大変きれい好きな面を持っています。子どもが学校や遊びから帰ったら『足を洗いなさい』と言うのがどこの母親も口癖です。子どもはたいてい靴下を履いているのに手ではなく足を洗わせるのも何かおかしい気もしますが、そのくらいにきれい好きだということも知っておいて欲しいのです。
韓国には日本では少なくなった銭湯がまだたくさんあり、自分のお家のお風呂が普及してきてもけっこう繁盛しています。韓国人も本来はお風呂好きだと言えます。ただし、お風呂好きのニュアンスがちょっと違います。最近、日本の中年女性をはじめ若い女性の間でもけっこうな人気になった『韓国式アカスリツアー』を思い起こせば良く理解できると思います。
韓国人には、体の汚れを落とすのがお風呂に入る第一の目的なのです。お風呂では体の隅々まで実に熱心に洗います。わき目もふらずに洗うという言い方がそれほど大げさではありません。その様子を見れば、日本人にはちょっと奇異に写るのではないかと思います。
つぎに日本人のお風呂の入り方を見てみましょう。
もちろんお風呂ですから体も洗います。しかしお湯にゆっくりと浸かるのが多くの日本人の好みです。一日の疲れを心身ともに洗い流すというか、リラックスのためというか、お風呂に入って気分が良くなることが大切なのです。
温泉の違いを見れば良くわかります。
韓国にも温泉がありますが、韓国の温泉は銭湯の延長線で、お湯の成分が温泉だという程度の違いしかありませんが、日本の温泉はそれこそ千差万別です。
私がまず驚いたのは露天風呂です。
韓国に露天風呂があるのかどうか知りませんが、ともかく私は韓国で露天風呂に入ったことはなくて日本に来て初めて入りました。今では気分がいいのですっかり好きになりましたが、なにしろ野外にありますからはじめは不安で仕方がありませんでした。
露天風呂は、いい景色を見ながら気分良くお湯に浸かるものだと言う気がします。そこで体をゴシゴシ洗う気にはなれないものです。
つぎに驚いたのが男女混浴のお風呂です。
私も一度入ったことがあります。入り口が男女別々になっていたので安心して入ってみたのですが、先の方は露天風呂になっていてどうも男女が一緒の同じお風呂のようでした。以前に妹が遊びに来たときに、近くの温泉に連れて行ってそんな話をしながら入ってみないとすすめたら、本気になって怒りだしたのでびっくりしてしまいました。
私は少しずつお風呂の入り方の違いにも慣れていたのですが、見ず知らずの異性と一緒にお風呂に入るなどは、韓国では天地がひっくり返るほどにおかしなことなのです。その後、妹のご機嫌をとるのにたいへんな目にあってしまいました。
日本人はお風呂ひとつにしてもいろいろな効果を求めますが、韓国人は、お風呂の第一番目の目的である体を洗うということが何により大切なのです。
6. お産 『役割分担』と『総合ケア』
女性にとって子どもを産むというのはうれしい出来事でもあり、また大変な仕事です。
最近は、日本に限らず韓国でも子どもをたくさん持ちたがる人は減ってきましたが、私は二人の子どもに恵まれました。一人目は韓国の大きな総合病院で産み、二人目は日本の小さな産婦人科の専門病院で産みました。
まず産んだ順に韓国からお話しします。
私が最初に子どもを産んだのは、ソウル市内でも特に産婦人科が評判の大きな総合病院でした。産まれる前日くらいに入院したのですが、初めての出産だったので実の母がずっと付き添ってくれました。主人はお仕事などもありますから産まれるときだけ付き添ってくれました。
付き添うと言っても、一時ブームになったように分娩室に一緒に入るということではありませんが、後で主人に聞いたその時の様子などをお話しします。
いよいよ産まれそうだと母に連絡を受けた主人は、急いで病院に来てくれました。そして、分娩室の前で母と一緒にそわそわしながら待っていると、次々に妊婦の人が出てきたそうです。大きな病院ですから何人もの妊婦が分娩室にいます。私より後に分娩室に入った人がたて続けに麻酔にかかったような様子で出てくるものだから、気になった主人は母に聞いたそうです。母も気になるから看護婦さんに聞いてみたら、その人達は帝王切開で出産した人だったらしいのです。
当時、韓国では帝王切開で出産することがちょっとした流行のような雰囲気がありました。苦痛も少なくて安全に産めるといった考え方もあり、割と安易に帝王切開で産む人もいたようです。そんな話を知人に聞いたりしていた主人はちょっと心配していたようです。
自然が何よりだといつも言っている主人は心配になって、私も帝王切開で産むのかと母に聞いたそうです。母もそんなことは思いもよらないので、そんなことはないと応えたそうです。それを聞いて安心したそうです。結果は、初めての出産でちょっと時間がかかったものの自然分娩で元気な子どもを産むことが出来ました。
韓国では、出産後、特に母子ともに異常がなければ3日で退院するのが普通です。もう少し体力が回復するまで入院していた方がいいと主人が言うので、主治医の先生にそう言ってみたところ、たいへん順調で問題もないのにどうして入院していたいのか、家に帰った方が落ちつくだろうと逆に説得されてしまいました。
出産後3日と言えば普通に歩くのは困難なのですが、考えてみれば出産は大変な仕事ではありますが病気ではなくごく自然なことですから、異常がなければ退院してお家でゆっくりした方が落ちつくというのも当然ですね。
退院してお家に帰ると、実家の母が2カ月近く付ききりで居て世話をしてくれました。洗濯をしたり食事の世話をしながら、いろいろと赤ちゃんの育児についても教えてくれます。女性の大役をよくやってくれたという意味もあるようです。毎日わかめスープを食べさせられるのには参ったと主人が言っていました。
私の場合は実家の母がしてくれましたが、家庭の都合では姑さんにお願いすることも多いようです。会社勤めをしている女性が少ないので可能なのかも知れませんが、病院の役割と家庭の役割が完全に分かれています。
二人目の子どもは日本で産みました。
韓国の病院と日本の病院とはかなり勝手が違います。韓国では大きな総合病院で日本では小さな専門病院ということの違いもあるし、病院としての方針の違いがあるかも知れませんが、どうもそれだけではなさそうです。
韓国の病院では生まれた赤ちゃんは専用の部屋でお世話をしてくれるのですが、日本の病院では昼間はいつも自分の横に赤ちゃんを置いておくことが出来ました。聞いたところによると、夜も一緒にいることもできたようですが、母親の体を休めるために夜は専用の部屋に移すそうです。
日本の病院では1週間入院しているのが普通です。病院でゆっくりと静養しながら、少し自由に体が動かせるようになったら赤ちゃんの体の洗い方やその他育児の基本的なことなどを教えてもらいました。退院したら後は自分でやっていけるようにということでしょうか。
ご近所のお友達の様子を聞くと、退院した後はときどきお母さんに来てもらったりもするそうですが、なるべく自分でやるようにしている人が多いようです。でも、その分ご主人はたいへんだと思います。
韓国は赤ちゃんを無事にとりあげるということが病院にとって唯一ともいえる関心事ですが、日本の病院はいろいろな方面のケアをするということが関心事のようです。ひょっとしたら産婦人科病院の過当競争のせいでそんな方面のサービスまで充実させる必要に迫られてのことかも知れませんが、そればかりではありません。退院した後の違いにも興味深いものがあります。
7. 家族 『食口』と『血縁』
つぎに家族のことについてお話してみたいと思います。
日本も核家族化が進んでいますが、韓国でも同じように核家族化が進んでいます。
でも、その背景には少し違いがありそうです。韓国は大学も企業もいろんなものが極端に一極集中していますから、何をするにもソウルでなければという雰囲気があります。日本はそれほどではありません。そういうことを考えてみると、韓国では仕方なしに核家族化が進んでいるという側面があると思います。
韓国では特に何も意識しないで『お宅は何人ですか?』というふうに訊ねると、日本人が期待している応えとは違う応えが返ってきます。例えば『お宅は何人ですか?』と訊ねると、『うちは5人食口(シック)ですよ』という具合に応えが返ってきます。
多くの日本人はこんなときは家族の人数を意識しているのだと思いますが、韓国人は生活を共にしている者の人数だと認識します。
『食口』と漢字で書けば韓国語を知らない人でも何となく意味が理解できると思いますが、一緒にご飯を食べる人のことです。食口は必ずしも親子兄弟だけに限りません。家族同様の者が5人一緒に暮らしていますという意味です。もちろん韓国語にも『家族』ということばがありますが、『食口(シック)』ということばは日本の『家族』ということばにたいへん近いニュアンスがあります。
韓国人は家族の絆をことさら大切にします。ソウル市内にも同じ家系の人だけが集まった地域があるほどです。一つの町内が全て同じ家系の人でかたまっているというわけです。こんなことは日本では見られないことだと思います。
私は、『食口』というのも元はそんな関係のことを言っていたのではないか思っていますが、これは調べたことはないのであまり自信がありません。ともかく『食口』ということばは、韓国の家族関係の絆の強さを理解するときにかなり意味深いことばだと思います。直接の家族に限らず、家族同様の関係が特別に親密な関係であるということを暗示しています。
日本でも『同じ釜の飯を食う』と言うことがありますが、ちょっとニュアンスが違います。同じ釜の飯を食うということばからは同好の志であるというイメージを思い浮かべ、同じ仲間であるというくらいの意味だと思います。逆に、家族関係にある人のことを同じ釜の飯を食う関係とは言いません。
日本では家族の絆は私が考えていた以上に希薄なようです。
私の住んでいるのは田舎の地方都市ですが、日本では、田舎で職場がすぐ近くにあり別々に生活しないでもいい環境にあってもわざわざ別々に生活している人が目立ちます。別々に住むにしてもすぐ近くに住めば気が楽でその上いろいろと心強いのではないかと思いますが、むしろ離れたところに住みたがる傾向があります。
家族のことをたまたま血縁関係にあるだけかのように意識的に強調して話す人もいます。ちょっと大げさな気もしますが、家族は単に血縁関係にある者と言っても良さそうです。よその家族のことを根ほり葉ほり聞くのも気が引けるのでそんなに詳しく知っているわけではありませんが、ご近所のお友達がそれぞれの親や兄弟とつきあっている様子を見ていると何だかそんな気がしてきます。
例えば、韓国では、ほとんどどの家族でも、両親の誕生日とかお盆やお正月(韓国では陰暦でします)など、出来るだけ機会をつくっては兄弟全員が集まります。それぞれが子どもたちも全部引き連れて集まりいろんなことをしますから、よほど大きなお家でも寝る場所にも困るくらいになります。日本ではそんな機会も少ないし、集まっても大してにぎやかでもないように思います。
もしかしたら単純に煩わしいのが好きではないというだけかも知れませんが。
8. お買いもの 『大らか』と『堅実』
つぎはお買いもののお話です。
私はお買いものが大好きです。私にとってはお買いものはいい気分転換で、高価なものではありませんが気がついたら知らず知らずのうちに余計なものを買い集めてしまいます。女性に共通の習性で、これだけははじめから国境がないのかも知れません。
当たり前ですが、韓国にもデパートやスーパーがあります。
高級志向の一部ご婦人たちは何でもデパートで買ったりする傾向があるので、大都市のデパートなどはけっこうな賑わいぶりです。デパートに行くと高級品の勢揃いです。
韓国は一部の贅沢品的な家電製品やオーディオ製品などはびっくりするくらいに税金(関税など)が高いのですが、それでもそんな輸入製品売場は人気があります。特に日本製は特別な輸入制限(事務局注:6月28日に一部の輸入先多変化品目が緩和されました)もしていますが高い人気があります。こんな経済状態なので少しは様子が変わってきているかも知れませんが、ちょっとおかしな気もします。
一方、スーパーはあるのですがそれほど普及していません。
ほとんどの普通の庶民はたいていの日用品を市場で買うからだと思います。
韓国人の普段のお買いものは市場が中心です。市場は全国各地にあります。ソウルやプサンはもちろん、地方に行っても必ずそれなりの市場があります。市場に行くと日用品は何でも揃います。
市場に行くと何だかうきうきした気分になります。活気に乗せられるのか、ついついいろんなものを買い込んでしまいます。
おもしろいのは、市場の商品には正札(値札)がないことです。
いつも買っているのでだいたいの値段は買う方でわかっていますが、それでもたまには高い買い物をしてしまうこともあります。そんなお店はあとでお友達との井戸端会議のときにこてんぱんに悪口を言われますが、たいしたものを買うわけでもないし、ほんとうはそれほど気にもしない人が多いのです。
韓国人のお買いものは大らかということばがぴったりです。それだけに、計画的とは言えないし無駄遣いが多いのかも知れません。
日本での普段のお買いものはスーパーが中心です。
日本ではどんな田舎に行ってもそこそこのスーパーがあって不便なことはありません。私の住んでいるところでもすぐ近くに中規模のスーパーがありますし、車で10分くらいの範囲に大きな郊外型のディスカウントスーパーが4軒もあります。普段は近所のスーパーで買いますが、ちょっとしたものをまとめ買いするときは郊外のディスカウントスーパーへ行きます。
全部と言うわけではありませんが安いことに驚きます。ものによれば韓国よりも安く、何か不思議な感じがしてしまいます。
それから、お薦めは生協の宅配式の買い物です。
毎週一度、チラシ(カタログ)を見ながら専用の端末機に入力して電話機を使ってセンターに知らせると、決められた曜日にまとめて配達してくれます。とにかく便利です。こんなシステムは韓国にいた頃は経験したことがなかったので、ちょっとしたカルチャーショックでした。
ただし安いというわけにはいかないようです。
私はご近所の奥さんたちとよく井戸端会議をします。子どもの遊び友達のお母さんが中心の井戸端会議ですから話題は子どものことが多いのですが、たいていの方はスーパーの安売りについても侮りがたい情報通ばかりで大助かりです。
そんな普通の奥さんたちは、普段のお買いものでは1円を節約することに並々ならぬ情熱を傾けます。そのくせ一つか二つかは高価な装身具やバッグなどを持っています。
日本人はお買いものまで使い分け、堅実ということばがぴったりだと思います。計画的と言っていいかも知れませんね。
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