仕事人コラム



 INO.VOL.5 仕事のメンタルヘルス
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 [執筆者]
 井上 透
 [紹 介]
 ブリヂストン健康管理センター勤務の産業医。大学講師。医学博士。
 企業の健康管理センタ−に所属して、社員の肉体的および精神的な方面まで含めた総合的な健康管理の仕事をされています。



 NO.21 生活環境 99.11.1

 人類をはじめさまざまな動植物がこの地球の表面で長きにわたって営みを続けています。しかし私達はこの事実を当り前の事として振り返るでもなく、毎日の自分の生活にあくせく追われる事に熱中しています。
 地球上のあらゆる生物は温帯地域では夏は暑くても40度、冬は寒くても0度程度の平均気温の中で水や空気にも恵まれて生活しています。この快適環境を享受し続けて生活ができるということは、奇蹟とも言える現象の上に成り立っていることがわかります。

 私達の生きていくためのエネルギーの源は太陽の熱エネルギーです。
 現在の太陽が発する総エネルギー量から換算すると、太陽と地球の距離が、95%未満に近づけば地球表面は灼熱の世界、103%以上離れれば極寒の世界となり生物は住めなくなるそうです。しかも地球が自転しているおかげで昼だけの灼熱の地域や夜だけの極寒の地域が生ずるに至らず、地球上の熱分布のバランスが保たれているのです。また地軸と太陽円周の公転面との角度が一定に保たれているからこそ南極と北極の氷は溶けず、日本の様な温帯地域では毎年似たような春夏秋冬の気候に恵まれての生活が可能となっています。
 さらには、地球の表面にあるオゾン層のおかげで宇宙から来る有害な紫外線や電離放射線の量も減弱された形で地球表面に降り注いでおり、植物の光合成のおかげで一定濃度の酸素が維持され、我々は、ひどい健康障害に至らず生きていけるのです。

 このような快適な生活環境が提供されているのは、とても偶然の産物だとは思えません。このような一定の周期律・恒常性が保たれているのは奇蹟であり、宇宙を存在あらしめる定理・公理の実在を確信させます。人類を含めてすべての生命を育み庇護してくれる大宇宙の愛あふれる意志を感じます。この意志の存在を古来から人類は神と崇めていたのです。

 近年の人類の大量消費に伴うエネルギーの排泄過剰によって地球温暖化・大気汚染・オゾン層破壊などの環境被害は深刻で、生命の存続も危惧されるようになりました。地球に対して私達は直接語りかけても、言葉は返ってきませんが、近年ひどくなっている異常気象・天変地異という形での警告が発されているようで、地球自体がまるで生き物のように思えます。
 人類が栄枯盛衰の歴史を繰り返し、人間関係の軋轢で悩みもがき苦しんだり、事業が成功して喜んだり、倒産の憂き目に合って悲しんだりなど......その営みに夢中になっている人々に対して、たとえその人達が生かされている事に気づかなくても、生命活動の環境を無償で提供してくれる大宇宙の神秘に感動するのはたやすいことです。

 このようなマクロの視点に思いが至った時に、私達が日常の雑事に悩んでいる出来事はとるに足りない小さな問題だと思えるものです。
 時にはこのような考えに浸って独り静かに瞑想してみてください。『自分は生きているのではなくて生かされているのだ。』『大切な物はすでに与えられているのだ。』と。

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 NO.22 援助、影響力増強法 99.12.1

<援助>

 発展途上国への援助に関して「水不足で悩んでいる国に水を与える事と井戸の堀り方を教える事とどちらが大切で価値あるか?」という議論があります。単に水を与えるだけの援助だといつまでたっても送り続けなくてはいけません。しかし井戸の堀り方を教えれば、教えられた側が自分達で水を手に入れる事ができ、いずれ将来は自立でき援助は必要なくなります。
 戦争の被災者に物資を提供するボランテイアの方がいます。それはもちろん応急処置として大事な事ですが、物を与えるだけよりも農業や工業の方法などの知識・技術援助の方がもっと重要だと思います。

 例えばインドには貧困・病気などいろんな悲惨な状況が数多くありますが、マザーテレサが行ったような活動を続けていったとしても根底から真にインドを救う事はできません。
 本当にインドを発展させ救うためには、自分達の国が未来に向けてどの方向に発展すれば良いかが分かる先見性のある人を数多く育てるのが大切です。そのためにしっかりした政治・経済システムや技術などの知識を多くの人々に伝授する方法をもっと考える事です。多くの人々の悩みや苦しみが分かるほどに、工夫して知恵をしぼって施す事が効果的な救済となります。この事は個人・団体間の助け合いの時も同様に当てはまります。

<影響力増強法>

 仕事をしている人を観察すると、素質があるにもかかわらずそれが成果に結び付かない人もいれば、それほど素質があるとは思えないのに努力を重ねて立派になっていく人もいます。
 後者のタイプの一般的な特徴は、自分の仕事の実績を打ち立てるにあたって、自己の最大の長所を徹底的に延ばしていく所から出発します。そしてその努力の方向性として確実に多くの人にとって役立つ所を目標として見据えています。

 オールマイテイーな合格点を取ることが受験合格の秘訣ですが、平均的な実績でアピールするだけでは弱くて、世間一般の人達から注目され一定の評価を得るには不十分です。最初にある一つの領域で傑出した個性を発揮して誰もが認める一流の評価を勝ち取らなければいけません。
 そのためには自分の才能・特技を分析して一流になれる素質を発見する事です。素質は自分の関心領域に眠っている場合が多い事をヒントとしてください。

 目標が定まればまず基礎を固めて一つの領域に絞り、その分野で実績を上げるまではそれ以外の分野に関わるのはできるだけ我慢し、一級の腕前で他人の追随を許さないと評価されてから次の分野にとりかかることです。ある分野で不動の評価を確立すれば、周囲の人があなたの専門領域ではない事についても、聞く耳を持って一目を置かれるようになり、あなたの言動の影響力は倍加します。

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 NO.23 情報収集、ヒントの効用 2000.1.4

<情報収集>

 自分の苦手分野を克服するには、まずその分野に関心を持つ事から始めます。
 関心を持って情報を集めようとする時、身近でもっとも速く時事情報を手に入れるにはテレビ・ラジオ・新聞などが役立ちます。インターネットもテーマを決めて情報収集するにはとても有用ですが、情報量が多すぎて自分の欲しい情報を抽出する作業に手間取る事もあり、またその情報の発信は誰でも気軽にできるため正確性・信頼性に欠けるケースもあり注意が必要です。その中でも個人名を明記した情報は、その個人に責任がかかる分まだ信頼がおけます。

 自分なりのオリジナルで高次な視点を得るためにはこれだけでも不十分です。ある程度の知識の蓄積・勉強が必要です。
 その分野の本を数多く読むうちに新聞記事やテレビのキャスターの発言の嘘や間違いが分かってきます。大事だと思う分野を重点的に勉強し、8割の労力で自分の専門分野を勉強し、残り2割の労力で苦手分野の情報を集めるのが良いでしょう。ある分野の本を100冊読めばその分野での専門的な話ができるようになります。

 また、賢い友人を活用して情報を仕入れるのも有用です。
 独りだと1年以上も勉強しなければ分からない事が、耳学問だと1〜2分で済む事もあります。そんな賢い友人を持つためには、あなたが多くの人から好かれる良い人にならなければいけません。賢い人から、この人となら付き合っても良いなと思われるように自分を磨いて仲良しの関係を構築しておくべきです。
 人との出会いは無限にあり、賢い人は探せばいくらでもいます。この分野の問題はこの人に尋ねれば大丈夫という付き合いを数多く持ちたいものです。

<ヒントの効用>

 チームで連携して仕事をこなしていく上では役割分担が必要不可欠です。
 上司の立場であるなら、自分が頑張るだけでなく、他人にも仕事を分け与え、さらにその人を育てる事も平行して配慮しなければいけません。上司が部下に仕事を与えなければ部下は伸びません。仕事を与えている事はその人を苦しめているのではなくて育てているのです。
 上司は、常々「どうすれば部下が自分で判断できるように成長させる事ができるか?」を考える必要があります。例えば部下から相談を受けた時に「ああしなさい。」「こうしなさい。」と具体的な解答をすぐに教えるのではなく、「この点はどう思うか?」「このような考え方を利用してもっと工夫できないか?」という鍵となるヒントを与えて自分で考えさせる事が、その部下を本当に育てていく事となります。

 悩み事の相談を受ける時も同様です。
 相手の問題をすべて解決してあげようと熱中して、気がつくとその悩みに1ヵ月以上どっぷり付き合う人もいますが、賢明ではありません。そのために自分自身の仕事も遅れ、周囲の人にさらに迷惑をかけることがあります。相手の悩みに深くつきあい過ぎず、その人が立ち治れるためのヒントを与えて自力で解決できるように導く事が大切です。
 これが、相手に自分のエネルギーを吸い込まれすぎないようにして、さらにその人をレベルアップする事になります。相手は簡単なアドバイスを参考に自力で解決しようと一生懸命努力していきます。そのうちに悩みは消えていき、自分で克服し達成したという経験が新たな自信としてその人の心に勲章として刻まれます。

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 NO.24 完璧主義、協力 2000.2.1

<完璧主義>

 好調に仕事をこなし夢中になっているうちに、いつのまにか深いスランプに陥る事があります。今まで体力・気力・知力が限界に達する手前まで無理に働きすぎて、その結果として体が発した警告サインとも言えるでしょう。

 スランプの兆候を感じたら、まず今後1ヵ月先までのスケジュールを洗い直してみましょう。
 現在の体調からすると危ないと思えたら、事前に適度な休みを入れる事です。休みを入れられる勇気があるかどうかで長期的な実績が左右されます。もちろん、時には不眠・不休で働かなければいけない事があったとしても、良い仕事を長く続けていくためには適度な休憩が必要だからです。休みを入れた分は別の日に取り返せば良いと割り切りましょう。

 一般的に、何もかも自分でやろうとする責任感が強い完璧主義タイプがひどいスランプに陥りやすいのです。
 完璧主義者は「自分でなければこの仕事はできない。」と思いこんでいますが、実際には「人を使うのが下手なだけ」あるいは「他人の仕事を奪っているだけ」あるいは「人に頼む知恵が足りないだけ」の場合があります。こんな人が休みをとれば他の課員は何をすれば良いかがわからず、部署全体が右往左往します。他の人に迷惑がかからないようにバックアップシステムを作っておく事が、部署・会社全体のためになります。

 完璧主義の人は時々仕事の合間に自問自答してみてください。「これは自分にしかできない事か?」「これは自分がしなくてはいけない事か?」「他の人に任されないか?」人に任せられる勇気を断行する事で、あなたの仕事はもっと発展していきます。

<協力>

 仕事には部下や他の社員から協力を仰がなければ前に進まないケースがあります。協力を求める事も必要ですが、ここで注意するべきは、その動機の中に利己的な要素がないかどうかの点検です。

 例えば、上司が部下を使って仕事をする時に、会社のためにも部下のためにもなるのであれば良いのですが、上司が手柄を独り占めにしたいがために部下に命令する場合は問題があります。
 認識力ある上司が部下を伸ばして導いていくための協力依頼は肯定されて良いものですが、利己的な理由で他人をねじ曲げるのは間違っています。仕事の結果が単なる上司の自己満足で終わり、任された部下が何の意味もない無駄な労力を与えられただけであれば問題です。その仕事を通じて、部下が何らかの貴重な経験・技術・物資を手に入れる事ができ、会社の繁栄・社会への貢献ができれば筋が通っています。

 指導者として部下を育て導く時に、相手に発展のための変化を要請している場合と、自分の都合や利益のために相手を利用している場合をはっきり区別しなくてはいけません。「自分のためだけに仕事をしていないか?」「周囲の人達の事を考えているか?」常に自分を点検することです。

 今回の二つの論考は両極端なケースに対する戒めです。この二つの考え方を頭に入れてうまく融合し状況に応じて中道を歩みたいものです。

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 NO.25 悲しみの効用、苦しみの効用 2000.3.1

<悲しみの効用>

 挫折・失敗を味わった人には「人格を練る」という効用があります。

 深い悲しみを味わった経験のある人には二つの効用があります。
 第1は、謙虚さを知るようになります。高慢な鼻柱を折られてプライドが傷ついた時、悲しみを通して謙虚さを学べます。

 第2には、他人に優しくなれることです。環境に恵まれ順調に生きてこれた人は、他人を指導する時にどうしても厳しくなりがちです。言葉も荒く「どうしてこんな事ができないのか?」とついつい相手を責めたてます。
 しかし深い悲しみを実体験すると人を許せる範囲が広がります。深い悲しみを味わった人は「人間が悲しむ姿とはどんなものか」が切々に実感できます。人と接する時の優しいまなざしや相手が成長するまで我慢してじっと待ってあげられる気持ちは、大きな悲しみを通過した人に特有の資質です。

 もしもあなたが他人を許せない気持ちが極めて強い場合、もしかしたら自分はまだ本当に大きな挫折と悲しみを経験していないのではないか?と振り返って考えてみても良いでしょう。

<苦しみの効用>

 苦しみには人格を鍛え魂の足腰を強くする効用があります。
 苦しみを通過した人は心の許容範囲が広がります。種々の苦しみがその人の器を大きくする上で役立ちます。大きな挫折や失敗を経験すると次第にネクラになる一面もありますが、それを通り抜けた人にはいぶし銀の独特な雰囲気があります。そんな人は、他人の感情のひだが手触りでわかるので見方・接し方に許しを含んだ姿勢が生じます。

 誰の心にも、触れられると痛い傷口があります。失敗の経験者にはその傷口を責められる痛さが良くわかるのですが、失敗の経験がない人は他人の心の傷口を見つけると平気でその部分を言葉や行為で傷つけるのです。
 中には相手に決定的なダメージを与える所までやりたくなる人もいます。他人の欠点を責めるとすっきりする人もいますが、このような喜びは最低レベルです。

 他人を責める言葉がどんどん出る人は、まだ自分が十分に練れておらず本当の苦しみを味わった事のない人です。自分の傷口を深くえぐられた経験のある人は他人の傷口を攻撃する事はできず、本当の優しさが生まれてきます。
 鋭く裁きの眼でギラギラしている人に対しては「欠点を指摘されて怒られそうだ。」と皆が思い近寄って来ません。しかし優しい雰囲気が漂っていると人々が自然と集まって来ます。他人への感化を考える前にまず自分の内なる井戸を掘ることです。自然にあふれる優しい雰囲気でもって多くの人に良き影響を発揮したいものです。

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 NO.26 自己愛人間 2000.4.1

 自分で食物を得る事のできない赤ん坊や幼児などや独立した経済力を持たない少年少女達が両親に依存して、愛情を求めるのは当り前の事です。しかしそれは成長して大人になると脱皮しなくてはいけないことです。
 少年時代までは当然だった考え方や習慣を捨て去ってこそ、人間は自立し大人になっていくのです。ところが、この人生観のイノベーション(革新)に失敗して『大人子供』のままで実社会に出た時にさまざまな悲喜劇を繰り返します。

 自分の欲求通りの愛情が受けられない不満から、いろんな人に嫉妬したり、悪口を言ったり、人をだまして不幸に陥れたり、排撃したりします。そのあげく体調が悪くなり、夜も眠れず病気になり、仕事や家庭生活にも失敗し、人生の敗残者となります。
 少年期〜青年期に多くの愛情をそそがれるのに慣れた人間は、なんらかのきっかけで強く自立しようと自覚しないかぎり、他人に愛情を注ぐ側に立つのは困難です。

 この脱皮のために必要なのは、過去の自分と決別し、社会の中での責任感・使命感の自覚です。
 そのきっかけとして就職・結婚・出産などの生活にまつわる環境変化や、昇進して部下を持つ指導的立場に置かれるなどの職場環境変化があげられます。立場が上がって養われる者や部下が増えるにつれて「人から何をしてもらうかでなく、人に対して何ができるかを考えよう。人から施されることを目的とするのではなく、人への施し・育てる事を目的とする人生を歩もう。」と、人生観の転回する時期がおとづれることもあります。これが『不幸人間』が『幸福人間』へと変身する瞬間です。

 「他人の心は自分の思いどおりに変えられないが、自分の心は頑張ればどのようにも変えられる。そこに限りない自助努力の道が開け、その道を歩む過程で成長していく幸福感を味わえる。」という喜びが湧いてきます。「自分の心をコントロールして他の人々のために生きよう。」という決意は、周りの人を幸福にするだけでなく、結果的に自分をも幸福にします。人は自己愛人間よりも、その人の側に寄ると反射光で自分を照らしてくれそうな人に好意を抱くのです。
 人を愛し生かし育てるためには相手を縛りすぎないことです。相手の方の個性や才能を自由にのびのびと発揮させられる手助けをすることが、本当の意味でその人を愛していることになります。

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 NO.27 心と頭脳 2000.5.1

 心は、喜怒哀楽をつかさどると同時に、意志の作用を通じて頭脳を中心とする知的活動に多大な影響を及ぼします。頭脳を通じての仕事は人生の成果と関係しており、その人がどの程度に重要度を持った影響力の強い人間であるかが推定されます。

 心がプラス思考で明るい考え方をする人は、仕事の成果が加わる事でますます評価が上がり社会にとって役に立つ有用な人間になりますが、心がマイナス思考で他人を害する思想を持つ人は頭が良いほど悪魔的なものへと影響力を増大させます。
 まず心を正し、その次に能力を高めていくのが基本です。この順番が大切なのです。そして能力が高まると人生の振幅が大きくなり、心の舵とりがさらに難しくなり、だからこそそれを乗り越えればさらに心が鍛えられる好循環となります。
 心を正しつつ自己啓発して能力を高めていくと高度な仕事ができるようになり、練度の上がった人間となります。さらに、仕事の過程で珠玉の知恵を得ることができます。

 知恵とは、人生を幸福にするための法則を体得したものであり、自らが苦しい体験を通して発見したものです。高度な知恵はそれ自体が独自の力を有し、数多くの人々を危機や絶望の淵から救い上げる力を有しています。
 知恵が高まると、怒るべきでない時に怒るのは愚かである事が分かると同時に、叱るべき時に叱る事の重要性も分かるようになります。こうして喜怒哀楽の感情に振り回されるのではなくて、自分の感情を第三者的視点で見つめてコントロールできる人間へと成長していきます。

 本当の知恵を獲得すれば、嫉妬心というのは「自分の興味関心のある領域で他人の活躍で自分が負けそうだと感じた時に抱く考え方である。」ことが良く分かります。
 その予防策は、嫉妬する対象の人を祝福し「自分もあの人のようになりたい。」と考えてその理想像を心の中で描くことです。そのような心的態度は相手の方と友好的に和解したいという雰囲気をかもしだし、相手からの理解と協力を得られるようになります。その結果、新しい知識・技能・経験をさらに享受することができます。しかも、相手に負けたという敗北感が原因となる自分の興味・関心分野から撤退するという挫折からも避けられます。

 以上、心を正すことを出発点として、強い意志によって頭脳を鍛え、豊かなすばらしい仕事をこなして知恵を得る、その知恵の力で心の暗黒化の危機を救い、心の器を大きくして魂の輝きをいっそう増していく。これこそが人生の幸福です。

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 NO.28 労働と仕事 2000.6.1

 学校の先生が文部省の指導要領通りのワンパターンの授業を一方通行で繰り返しているだけならば、それは『仕事』というよりも『労動』的側面が強いといえるでしょう。しかし先生が授業内容について毎回研究を重ね「生徒たち一人一人の能力をいかにして伸ばし高めるか。」を考え抜き、付加価値の高いものを盛り込んで教師活動をしているならば、本当の意味での『仕事』だと言えるでしょう。
 『仕事』には各人の創意工夫による新しい価値の創造が必要です。その人の精神的な生産活動が付加されることで、それ以前になかった有形・無形の創造物・システムを誕生させることです。そしてその行為は「人類の歴史・文化の発展に足跡を残し便益をもたらした。」と賞賛されるものだと思います。

 仕事には一人だけで行うものと他人と共同で行うものがあります。
 一人で行う仕事は職人的側面が強いですが、その評価は、日夜、本当に世のため人のため・社会への貢献を念じてどれだけ業務に没頭できるかで測られます。単に自己の生存の糧を得るためだけで働いているのなら労働だと見なせます。

 問題は多くの人と共同して働く組織的業務の場合です。
 組織の長は「各人の能力を引き出しながら組織全体の総力を高めるにはどうすれば良いか。」という課題テーマで知恵が発揮されなければいけません。時には一社員本人が気付いていない才能・個性を発掘したりあるいは長所・短所などまで見抜ける見識が求められます。豊富な知識と経験に加えて、それから抽出された知恵も必要です。
 そのためには、自分の事業の目標・目的を見据えて「事業目的の達成が組織全体の喜びをもたらし、社会や人類に奉仕するものだ。」という理念を全員で共有しなくては足並みがそろいません。なんらかのスローガンが有効かもしれません。組織の中では、その目標達成のために、部下を怠けさせるような甘えは許されず厳しい面もあります。部下のわがままを見逃す気の弱い善人になってもいけません。「各人が最高に自己発揮することによりチーム全体の成果を高め、住みよい社会づくりに貢献する。」という具体的で現実味を持った内容の理念が支配していくべきなのです。

 このような企業精神が体現されるためには、各チームの長の方々にある種の峻厳さ・威厳・高度な知力・理性的洞察力・危機管理能力・大胆さ・社会的責任感・公人としての自覚...などの資質が求められます。

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 NO.29 善人の注意点 2000.7.1

 困っている人がいるとすぐに助けてあげたいと思う人の中には、人が良すぎてだまされたり、世渡りが下手で自己犠牲的な失敗をくりかえす方もいます。相手の方がまだ人格的にも未熟な時に、良かれと思ってなにかをしてあげたとしても、してあげる事が度を越えると誤解を生み相手の方をうぬぼれさせてしまいます。自己認識・自己評価が他人の評価に比べて不当に増長・膨張した時は、組織や隣人からの厳しい反作用が始まります。
 当初はそこそこの評価があったにもかかわらず、ついには評価を大幅に変更せざるをえなくなります。すると相手が「話が違う。」と怒りだし、ついには不幸な転機を余儀なくさせられる事もあります。
 このような失敗を避けるためにも、他人への手助け・援助には知恵をもって施すのが大事です。相手の性格・能力、過去の生き方、価値観を十分に理解した上で指導するということです。

 『君子の交わりは淡き事水のごとし』という荘子の格言があります。これは、優れた人は相手と一定の距離をとりながら導いていくというものです。相手と適度な距離をとり、相手を自分の懐(ふところ)に入れないで浅い交わりを少しずつ続けながらお互いの理解を深め信頼関係を構築していく方法は、多くの人との交友関係を長く維持していく秘訣・知恵です。

 相手が、自分は珍重され重要な立場にあるのだと思いこむように誉め言葉を多用してばかりの管理監督者ならば、一時的には、理解者・賛同者・協力者が増えて仕事上のメリットも生じます。しかし相手を利用するための誉め言葉や心にもないお世辞を多用しすぎると、結局は相手に誤解を与え、自分は偉いんだという増上慢の錯覚に陥れ、結局最後は仕事能力の限界・ギャップに苦しみ、悲しい別れとなる事もあります。

 相手をミスリードしないように、このあたりを注意深く配慮した知恵ある指導が大切です。
 相手が間違いを犯したり取り返しのつかない失敗をしないように、心を鬼にして事前にタイムリーな厳しい指摘をしてあげる事も時には必要です。利己心をオブラートに包んだような光明的な指導では一時的なカンフル剤となりえても、最終的にその人を生かすところまでは至りません。難しい事ですが、厳しさと優しさを自由自在にブレンドした指導が理想として求められます。

 以下、人が良すぎる者が陥りやすい注意点を列挙してみました。

1)他人のエゴイズムや不当な欲求を増殖助長させる。

2)人を甘やかして堕落させる。

3)人を信用しすぎるためにだまされやすい。

4)悪人をかばいすぎて、社会秩序や倫理を破壊する。

5)人間関係のしがらみに翻弄され、業務の適材適所の配置分担や信賞必罰を貫ききれない。

6)人の感情やプライドへの配慮がいきとどきすぎて、善導のための一喝にためらいがある。

7)理性より感情に強く流されて自己犠牲的破滅型人生をおくりやすい。

8)自分を愛して利する事や自分の人生を大切にする事を軽視しやすい。

9)非道な悪を犯す者に対して忍耐という名目での防戦一方になりがちで、悪を正し粉砕するための知恵と勇気の伴った行動力が鈍る傾向がある。

10)他人の要望・願いに合わせすぎて、主体的な自己実現や信念の力が弱くなる。

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 NO.30 自由領域と傾聴 2000.8.1

 人間には自分の自由になる事とならない事があります。

 自分の自由になる事であれば努力して克服できる可能性もありますが、自由にならない事であればある程度割り切った方が賢明です。
 自分の自由領域にないものなら「そんなこともある」と割り切るしかありません。自分の自由にならない事は悩んでも仕方がないので、しばらく棚上げしておくべきです。自由にならない領域の問題を抱え込み思案に暮れたとして、その後の人生にどれほどの展開があるでしょうか?自由にならない部分は教訓を学んだ上でしばらく自己圏外に放置しておき、解決できようができまいが、あまり気にせずしょうがないと割り切る事です。
 ところが世の中の多くの人を見渡すと、自由にならない事で一生懸命に悩み、自分の努力で変えていける可能性のある自由領域には何も手をつけずに放ったらかしている人が意外と多いのに驚かされます。

 特に自分の自由にならないものの一つに、他人の気持ち・感情があります。
 他人へのアドバイスはできても、それで相手を変えることができるとは限りません。しかし自分の感情は自分で統御できます。例えば友人と喧嘩をした場合に自分の感情をコントロールするのは自由領域です。相手に対してどんな考え方をするかは100%自分の自由です。
 相手に対して「自分は相手に言うべき事は伝えた。これでわかってもらえないのならいつか自分の一言がなんらかのヒントとなって気付いて良くなることもあるだろう。」と信じてあげるしかありません。結果的に変わるかどうかを気にしすぎない事です。10年間以上もその人の事を恨み悪口を言い続けるか、1日で忘れてその人を許してしまうかは自分自身の自由領域です。

 他人の話を正しく聴く時に大事な心がけがあります。

 第1は「相手から学びたい気持ちがあるか?」という事が出発点です。
 人から学ぶ姿勢のない人は正しく聴く事はできません。他人の発言にすぐに反発心が起きて言葉が耳に入らない人とは、たいていは自我・プライドの強い人で、根本的に他人から学ぶ姿勢がありません。

 第2はアドバイスしてくれる相手の方の欠点を探して考えようとするのではなく、その人の良い資質を汲み取って受け止めようとすることです。人から学ぶ時に、相手の地位・職業・性別・年齢は関係ありません。相手がどんな人でも自分と立場が異なるので、なんらかの学びの材料はあるはずです。
 ところが相手に対して「自分よりも貧乏だ」「自分よりも若い」「自分よりも地位が低い」「学歴がない」などの先入観を持てば、相手の本意といえる内容が純粋に伝わって来なくなり、その結果、学びの質は下がり人生を狭めていくことになります。どんな人からも学ぼう、その人の良い所から学び何か糧を得ていこうという態度が望まれます。

 第3は人の意見をただ聞き流すのではなく、何らかの形で自分の実生活に役立てる話題はないかとアンテナをいつもはっておくことです。自分がいま行き詰まっている壁・脱皮できずいま一歩発展できない障害を突破するヒントがないかどうか探ろうという姿勢です。
 以上の注意を払って聴いて学んだ事を実践に移してみて役に立った時、その知恵を同じ問題で悩んでいる他人へも教えてあげてください。それを教えていく過程でまたいろんな事を学んでいけます。自分では気がつかなかった事がある人の一声でその後の人生が全く変わってしまうこともあります。正しく聴く事は人生の一大転機をもたらす事があります。

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 NO.31 厳しさと優しさ 2000.9.1

 会社の中ではいろんな人がそれぞれ幸福を求めています。
 ほとんどの人が「偉くなりたい」「給料を上げて欲しい」と思っています。ところがどんなに会社の業績が良かったとしても出世もボーナス増額もすべての人が満足いくようにはなりません。会社組織が序列・職制で成り立っているので、皆が満足いくように業務内容を調節するのは困難です。
 しかし多くの社員をとりまとめる上司の立場では、部下よりも一段高い認識力を持って判断し、適材適所の人事決断を下さなくてはいけません。重要なポストもその適性を持たない人が就任すれば、その人自身も苦しみますし、周囲も迷惑をこうむります。適任人事配置を断行する厳しさが必要です。

 ある人が社長になれば、それ以外の人は現実にはなれないのですが「自分は社長の器ではない。」と達観することも必要です。自分の器を知ることで自己反省が進みます。仕事の能力・やり方で皆から認められない至らない点に気づき、自分を変えていけるきっかけになる事もあります。
 しかし人間にはどんなに努力しても変えられない資質もあり、その時は足る事を知って現状の立場で満足するしかないでしょう。そして、それ以外の分野で自己実現をめざして自分にあった才能を磨いていくことです。
 結局、大勢の人々の要求を全部かなえてあげるのが優しさではありません。各人の要求の交通整理をして多くの人が生きやすい社会秩序づくりをめざすことです。

 勤勉に働いて十分な実績を上げた者にはそれに見合った高収入が得られる、潤いのある社会にしていきたいものです。経済力のある豊かな人が多く輩出されるからこそ、貧乏な人達が保護されるのです。全員が貧乏になれば誰も救えません。これはロシア・北朝鮮のような共産主義・社会主義の国家が行き詰まっている事からも証明されています。
 ですから、起業家精神を持って活躍する人々がどんどん昇進・昇給していく社会システムが望まれます。人間は勤勉に働いて認められて実績を上げていくのが正当な人間の生きる道であり、何もせず他人の同情をあてにして福祉ばかりを求める社会では多くの人達から労働意欲が失われ、結果的に経済の停滞を招きます。立派な仕事をしていない人はその原因と結果は自分自身にあるのだと、潔く受け止めてがんばらなくてはいけないのです。

 自分はあまり働かないのに他人の昇進については「あいつが認められて自分が認められないのはおかしい。」という社員がいたとします。その意見を聞き入れるのは、ただの甘やかしであって思いやりではありません。
 甘やかしと思いやりを混同してはいけません。仕事の上での思いやりには厳しい面もあります。その厳しさは人を裁く厳しさではなくて、人を育てるための厳しさです。
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