仕事人コラム



 INO.VOL.5 仕事のメンタルヘルス
NO.11から後を見る
NO.21から後を見る
 [執筆者]
 井上 透
 [紹 介]
 ブリヂストン健康管理センター勤務の産業医。大学講師。医学博士。
 企業の健康管理センタ−に所属して、社員の肉体的および精神的な方面まで含めた総合的な健康管理の仕事をされています。



 NO.1 仕事と思いやり・エリート 98.3.2

(仕事と思いやり)

 仕事を円滑に進める上で人と人との間でいかに相手を思いやっていけるかどうかが大切です。この思いやりも仕事のいろんな局面でそれぞれ多面的な性質として現われます。

 第1が優しさです。多くの人に優しく接する事が職場の雰囲気に潤いを与え、業務の流れの潤滑油・推進力となるでしょう。優しい雰囲気は多くの社員に喜びを与え、精神的安定感・余裕を生み出します。

 第2は厳しさです。技術や能力の未熟な社員の教育のために、将来は一人前になってくれることを願って、上司が部下に厳しく接することもあるでしょう。そんな上司の思いやりがわからず、冷たい上司だと悪口を言っている部下もいます。

 第3は責任感です。部下にさせた仕事の内容・実績に対して上司は責任を負っています。社長の場合は従業員の生活を守り、会社の発展を限りなく求めていく熱意となって現われるでしょう。雛鳥を包みこんで育んでいく親鳥のような思いやりです。

 第4は正確性です。ミスの多い人は他人のチェックを必要し、数多くの人の貴重な時間を奪ってしまいます。正確に業務をこなす人は周囲の人からも信頼され、職場全体に安心感が広がります。通達書類もミスが多ければ、後の人に多大な迷惑をかけることがあります。

 第5は迅速性です。仕事を速くこなすことで次に引き継ぐ人の待ち時間を減らせます。特に問題点のないにもかかわらず、上司がサインや印鑑を押すのが遅いがために、部下は動けず仕事が停滞することもあります。

 自分の納得のいく仕事を自分のペースでこなせば気がすむという段階は、仕事が高度になるほどそれだけでは許されなくなります。自分の満足いくスタイルにとらわれて、全体とのバランスや他人との強調性が失われていくと、いくら学究肌で頭が良いと言われても職場の中からは浮いてしまいます。自分を取り巻く人達がどのような性格なのかをまず認識しましょう。そしてその方達が自分に要求しているのは、優しさか、厳しさか、責任感か、正確性か、迅速性かをまず認知していくことです。

 他人の要請に応えて満足していただきたいという心がサービス精神です。
 それを具体的に行動としていかに発揮するかを考える時、この5つの基準にあてはめてください。会社内の人間だけに止まらず、取り引き会社や顧客の方達にまでお役に立てる仕事を追及していく姿勢が社内に広がっていき、真心をこめて業務に取り組む人々が、群れとなって輩出していけた時、会社の発展・繁栄は末永く続いていくでしょう。

(エリート)

 10年以上前のエリートとは一流大学を出て一流企業に就職し、将来は重役・社長を目指す人達の事を言っていました。バブル崩壊前は経済環境に恵まれたこともあり、ただの思いつきで手がけた仕事が何でも当たりうまくいっていました。その業績を認められ出世街道をばく進してきた人にとってはバブル崩壊は大きなショックだった事でしょう。
 不況という逆境にさらされた今、その方達が本物のエリートだったかどうかが検証されていると言って良いでしょう。偽者のエリートは自己保身のために取り乱した行動をとります。自分の権益を奪おうとする人に対して強い弾圧で反抗します。
 ところが真のエリートは逆境の中でも淡々としており、将来再度自己発揮できる時期に備えて私心なく自己研鑽を怠りません。劣悪な条件・不利な状況・時流に乗っていない分野であえて努力を重ねていって、次の時代に輝かしく花開く人が真のエリートだと言えるでしょう。

 官僚組織が崩壊し、有名銀行・証券会社が倒産する時代です。「◯大学出身で◇会社勤務で△の資格を持っているからエリートだ」と言われることに自己同一性(アイデンテイテイー)を覚えて得意になっていた人にとってはこれからは厳しい時代となるでしょう。昔は役人になるのがエリートの道だったのが、現在は斜陽産業に就職するのと同じことへと変わってきています。かつては不安定業種と言われていた情報産業・通信業界・ファッション業界が今は脚光を浴びてきています。花形業種は時代と共に変わっていくものです。
 社会の流れを敏感にとらえて未来のトレンド(傾向)を把握して、その芽となる業種について発展していく起業家こそ本当のエリートといえるでしょう。例えば食料危機に対応したハイテク農作物工場、斬新な技術力を駆使したサービス外注産業、地球環境問題に取り組んだ植林産業などの21世紀の潮流となりそうな芽が日本の至る所で徐々に成長を始めています。

 流動化の激しい時代では、大学や専門学校で習った教育内容や資格をとって身につけた技能も、その後勉強を怠ればすぐに役立たなくなります。現実社会に身を置いて今までの慣習にとらわれすぎない新しいシステムを構築していくことが大切です。その時に社会のニーズに合った実績を積む方向で頑張る視点を忘れないことです。
 我々の現在の文化は物質的に豊かになりすぎた反動もあったのではないかという反省も大切だと思います。物・心の両面のバランスのとれた繁栄がこれからの時代のトレンドだと思います。人間の心の内面を研究し、人間関係の調整の仕方や心の問題を解決するための業種が今までは手薄だったのではないでしょうか。21世紀は心の問題を中心にして多くの人々に幸せをもたらす業種も脚光をあびていくでしょう。現行の会社でも、心の問題に付加価値を認めて取り組んでいったところは発展していくでしょう。

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 NO.2 仕事の喜び・仕事の効率化 98.4.1

(仕事の喜び)

 現在の職場環境への不満の声は毎日至る所で耳にします。
 その中で仕事がある事に感謝している人は果たしてどのくらいいるのでしょうか?良く考えてみると失業して途方にくれている人や定年退職して人生の目標を見失った人達に比べればまだ幸せなのかもしれません。
 仕事がつまらなく感じる理由の1つとして、長年同じ業務を続けてマンネリ化している場合があります。

 製造業で働く人にとって大切なのは、現在の自分が担当して作り上げた製品の長所・短所を分析し、流動化する消費者のニーズに合った物に改良していこうと絶えずアイデアを出し続けることです。流通業界で働いている人ならば、物の流れのシステムをいったん白紙に戻して再構築してみる妙もあります。営業で働いている人は、数多く接している人々のタイプに合わせて新鮮な交渉方法を発見していくことです。

 以上に共通して言えるのは、1つのパターンだけに満足せず新しい商品やシステムを創造していく喜びだと思います。
 この新たな創造が周囲から有用だと正当に認められる事が各人の評価得点の増加となり、その結果が報酬としての昇給をもたらし、それをありがたく受け取ることで喜びは倍加します。さらには仕事の中に天命を発見できたならそれに勝る喜びはないでしょう。
 もしも天命が見い出せず仕事がうまくいかないで壁にぶちあったって途方に暮れる日々を送っているのならば、もう一度フレッシュマン時代を思い出して原点回帰してください。当時お世話になった多くの人達への感謝の気持ちを再確認して、その御恩返しと思って熱意を持って仕事に再挑戦するうちにいずれ道は開けていきます。

(仕事の効率化)

 効率良く仕事をこなすための姿勢として次の3点が大切です。

 第1に、仕事の中心概念をつかむことです。
 自分のいる会社の目的とする事業はなにか?現在自分の置かれている部署は何の仕事をしていてどんな位置付けなのか?自分の与えられている業務内容は何で、責任範囲はどこまでなのか?これらの問いに明確に答えられる基本コンセプトを確立することです。

 第2は、仕事の内容のランクづけです。
 自分の仕事内容を分類して重要度順に整理してみましょう。仕事の遅い人の中には重要でない付随的な事に夢中になりすぎて何が重要なのかがわからなくなっている人もいます。例えばコンピューターへの入力作業に携わっている人の中には、その数字表を何のために作っているのかがわかっていない人もいます。「この表は本当に必要なのか?」「他に代替えできないか?」「そもそもこの作業は不要なのではないか?」「補足的な業務なので部下に任せたほうが良いのではないか?」などの発想の転換をしてみてもよいでしょう。
 今のその業務の内容は今までの慣習から惰性でしていただけで、現在は時代適合性を失い無駄になっている事もあります。管理職としての仕事が要請されているのなら自分がすべき仕事と部下に任せたほうが良い仕事の分別をきちんとすべきです。

 第3は時間の使い方です。
 時間あたりの生産性・効率性を最大限に上げていく方法を案出していきましょう。まず、1日の枠の中で仕事の時間的優先度を考えてみましょう。「即実行必要なのか?」「1時間後で良いのか?」「夕方までで良いのか?」「明日以降で良いのか?」を時間の流れにあわせて瞬時に選別していくことです。突発的業務が発生すれば、流動的に優先順位を入れ替える頭の柔軟さも必要です。
 いつも自分は残業していて仕事熱心だと思い込んでいる人もいますが、実は単に仕事が遅いだけの事もあります。「仕事が忙しい。」がいつも口癖になっている人は仕事能力の低い事を皆に主張しているだけだと受け取られる場合もあり、慎んだ方が良いでしょう。
 毎日修業終了時刻までに業務が終わる事を目標にして朝一番に計画を立てましょう。アフターファイブの充実が明日の仕事能率を高めるための活力になります。

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 NO.3 仕事と管理能力・有益人間 98.5.1

(仕事と管理能力)

 会社の中で仕事が発展的に展開する場合、スタート時点では個人の力量に依存することが多いのですが、やがて自分一人では手に負えない事もあります。チームを作って仕事を分担しなくてはいけないこともあるでしょう。役職が上がって立場が変われば他の人を通して仕事をこなさなくてはいけない必要性が生じてきます。

 まず自分一人だけの実力と他人を使って発揮される実力の違いを見分けておくことです。
 個人としては優秀でも結果的に成功を収める実績がでない人は、この他人を通じて仕事をするのが下手なだけの事もあります。一人でできる仕事とはその人の器用さの証明かもしれませんが、手先の器用さは人使いの器用さには通じません。この違いのわからない人は管理職でなく専門職に止まって、職人かたぎの人生を送るほうがかえって幸せかもしれません。専門職に従事していた時の実績だけで昇格した場合、こういった不幸がおこるケースは結構多いと思います。
 役職がその人の器を作るというのは、以上の事を了解した上で自己変革できた人の事を言います。

 人心の掌握力が高まり、多くの人の長所・短所を見抜き、いかに適材適所の人員配置ができるかどうか?これが管理能力です。管理能力を身につけるためには人間学の研究が不可欠です。

 そのための第1は多くのいろんなタイプの人の中で働き、鍛えられ練られて見識を高めるという経験的な方法です。

 第2は自分にとって人生の師だと言える人を人生の比較的早い時期に見つけて、その人の洞察力・観察力・直観力、さらには世の中におこるさまざまな出来事や多くの人に対する見方を学ぶことです。

 第3は偉人たちの生涯を描いた伝記書・歴史書から学ぶことです。過去の歴史の中で起こった同じ様な事件に対して偉人がいかに対処してその結果どうなったかを学ぶことは、自分の周囲におこるトラブルを予見する能力につながります。

 第4は神仏の心を説く優れた宗教書を読むことです。心の底にどんな逆境に置かれても揺れない不動心を培うことができます。どんな困難な事が起きてもそれを乗り越えていく原動力になります。

(有益人間)

 皆さんの中には独自の才能があるのを密かな自信としている人もいるでしょう。あるいは高学歴の人ならば自分は一般教養は一通り学んだという自信があるかもしれません。たくさんの資格を持っている人ならば自分はその分野では一般の人には負けないという自負もあるでしょう。あるいは長年特別な専門職一筋できた人は、熟練された技能は素人の批判を許さないほどの完成された物だというプライドもあるでしょう。
 いずれもその人が過去努力した結果身につけた才能であり、その有能さは誰も否定できない素晴しい物だと言えるでしょう。

 ところが会社という大きな組織の一員として組み込まれた場合、会社の要求している業務は必ずしもその有能さと一致しているわけではありません。どんなに才能があってもストレートに発揮すればかえって会社にとっては害悪になることもあります。他人との関わりでその有能さがどのように発揮されるかが大切です。
 例えば新入社員が人事にいくら精通してもその能力は生かされません。上役の人事を論評している新入社員がいたとして、仮にその評価が当たっていたとしても、その新入社員は「仕事そっちのけでつまらないことをしている。」と悪い評価がなされるのが落ちです。20年後にもしも人事本部長になった時に発揮されれば良い能力も、現在の平社員の時点では必要ありません。

 このように、人生の数十年において要求される能力は一通りではありません。会社の中で現在の自分の立場で要求されている能力は何かを一度考え直してみましょう。能力の使い分けができて始めて有能な社員が有益な社員に変っていくのです。他の多くの人の利益や便益を生み出してこそ、会社の中での存在価値があります。
 上司の評価に不満を持つ人は「自分は有能人間だと思っていたが、実は有益人間ではなかったのではないか?」と自問自答してみてください。特に能力の高い人ほど、この視点に立っての自己変革を怠らないことです。

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 NO.4 人間関係調整法・時間の達人 98.6.1

(人間関係調整法)

 会社の中で皆さんが各自こなしている仕事も必ず他の人との関わりがあり、独立したものではないはずです。仕事には必ず上下や横の人間関係を調整して遂行していかなくてはいけない業務が多々あります。その時のつきあい方が上手か下手かが仕事能力の差となります。

 まず会社で自分を取り巻く人達を次の4つに分類してみてください。

 第1のタイプはあなたより役職が上で能力的にも優秀な人達です。
 彼等から認められ良い評価を受けることは、会社上層部の評価に通じるので、今後のあなたの出世の鍵を握っている人達だと思って良いでしょう。彼等の業務遂行の目的・方向性に関心を持ち、その意図を汲み取り、優れた資質をお手本・目標にして、あなたが実績を積めば、いづれあなたは引き立てを受けて出世街道を歩むことになるでしょう。

 第2のタイプは役職はあなたより上だが、能力的にはあなたが同年齢になれば追い抜けそうに思える人達です。
 彼等はあなたの能力に対して警戒心を持っています。あなたが能力を発揮しすぎると彼等は心理的プレッシャーを感じます。刺激を与えすぎるとあなたへのやっかみや中傷が生じ、時には左遷・降格という形でしっぺ返しを受けることもあり要注意です。上司という立場を認めて、顔をつぶさないように心の中では距離を置いて慎重なつきあい方が望まれます。あなたのあげた実績を上司の手柄のように見せかけてあげる配慮も必要です。

 第3のタイプは役職は自分より下の後輩で、能力も自分よりは低いと思われる人達です。
 彼等の関心事は、あなたにいかに気に入ってもらい良い評価を受けられるかです。これから競争して能力的にあなたを追い越す人達ではなくて、もう力関係ははっきりしています。あなたの目から見れば、能力的に至らないところがはっきり判るので、ついついその欠点を責めたててしまいがちです。すると彼等も腐ってしまい、ついにはあなたへの信頼感がなくなってしまいます。そうならないように彼等の長所となる才能を見抜いて適材適所の配置をして末永く機嫌良く働いてもらえるように愛情をかけて真心をもって面倒を見てあげる必要があります。

 第4のタイプは役職はあなたより下の後輩で、能力はあなたよりも上の人です。
 有能な部下をいかに使いこなせるかが上司の器です。ここでの注意点は彼等の才能に決して嫉妬しない事です。有能な人はその才能を認めてくれる人のために働くものです。その才能を誉めて伸ばしてあげれるように働きやすい環境造りに思いを馳せたいものです。将来あなたより偉くならないようにその才能を潰すことに思いが至るようでは、あなた自身にとっても発展的な実績は伴ってはきません。

 以上の4タイプに分類して人間関係調整の仕方を使い分ける配慮が大切だと思います。

(時間の達人)

 どんなに偉い人でも平凡な人でも、1日に与えられている時間は24時間です。
 どんな人であろうともこの時間を伸ばしたり縮めたりすることはできません。
 ところが同じ1日24時間の中で生きていながら、同年齢であるにもかかわらず、ある人は輝かしい実績をあげて成功し、ある人は成果も上がらず怠惰に生きています。どうしてこのような違いがでてくるのでしょうか?もちろん本人の才能や努力の違いもあるでしょう。
 別の視点から見ると自分に与えられた時間をどれだけ密度の濃いものとすることができたかどうかとも言えます。

 それでは私たちはどのような状況で時間を無駄にしているのでしょうか?
 食事・睡眠・入浴・休憩時間などが思い浮かぶ人もいるでしょう。しかし働く人にとってこれらは生活必要時間です。一見無駄の様に見えて意外とそうではありません。生理的欲求時間とも言えます。この時間を軽視・無視して切り詰め続ければ、いずれ病気という形でのしっぺがえしを受けるでしょう。
 実は私たちが一番無駄にしている時間は、値うちがあると思っている仕事や勉強の時間の中にあります。

 「パレートの法則」別名「8割2割の法則」があります。
 この法則の意味は、仕事の成果を決定的にしている時間は2割を占め、残りの8割は大きな役割を果たしていないということです。この2割の時間をつかみ出し、その時に大きな集中力を注いで仕事をこなせば、大きな手柄を得られるでしょう。
 たいていの人は勤務時間のすべてを完璧にこなそうと精力をつぎこみ、肝心な2割の大切な時間での体力が一歩足りなくて大きな成果を逃している場合もあります。

 この2割の時間にいかに全力をつくせて有意義な仕事ができるかです。
 そのための準備期間・体調調整時間・雑用整理時間として8割の時間を有効に活用しましょう。最高に集中できる2割の時間を生かすために、8割の時間はリラックスして平均的な業務をこなすという姿勢も良いでしょう。
 毎日の仕事をふりかえって、自分にとって大切な2割の時間はいつかを分析し、その時に全力投球ができるように、この2種類の時間へのアクセントのかけ方の調整が大事です。

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 NO.5 精神力の鍛練・予習型人生 98.7.1

(精神力の鍛練)

 人間の心の中には意志の力というものがあります。ある方向・目標に照準を合わせて努力しながら人生を切り開いていこうという意気込みとも言えるでしょう。もちろん生まれつきの性格で、頑固だったり、気の強い子供もいるのは確かです。しかしこの意志の力は運動して筋肉を鍛えていくのと同様に、訓練を重ねていくことで次第に鍛えていくことが可能です。
 精神力が強くなれば少々の苦難・困難と見える障害物も、はね飛ばして進んで行けるようになります。それではいかにして意志の力を強くする事が可能となるでしょうか?

 まず第1は、悔しさをバネにして向上をめざそうと決意することです。
 我々は仕事を通じてライバルと切磋琢磨の競争し、勝ったり負けたりを繰り返します。この負けた時の敗北感・悔しさを、さらに高度な積極的なものへと転化・昇華していくことです。悔しさのエネルギーを、この次のチャンスの時に備えて、発奮材料として蓄えておきましょう。

 第2は物事を理想化していく能力を鍛えることです。
 すぐに仕事に行き詰まったり、仕事のスタイルを変えたくない現状維持肯定派の人の中には、理想をイメージする能力が低下してきている場合があります。若い頃に描いていた理想像が何を契機に失われてしまったのかを考えてみましょう。時代の流れと共に刻々と変わる自分の周りの環境に合わせて、新たな理想を絶えず創りだすことがなぜできなかったのでしょうか?現状のぬるま湯で良いという怠慢な所はなかったでしょうか?

 第3は自分の才能を自分の幸せのためだけでなく、もっと公的な幸せのために捧げてみようと考えて行動することです。このような考え方を抱き続ければ、理想のイメージがより拡大し、限りなく伸びていける原動力となります。

 第4は新たな多面的なものの見方を探究する姿勢です。
 自分の周りに発展の芽がないかを発見し、感動の題材を求め続けることです。

 これらの志を持って生きていくうちに、精神力は鍛えられ、どんな状況におかれても動じない心境に近づいていくこととなります。

(予習型人生)

 私たちは1ケ月〜半年先に来るべき悩み事があった場合どうするでしょうか?
 あれこれ考えずに、その時になって考えれば良いと放りだす人もいます。その前に楽しい出来事があると、ついつい開放的な気分になり、怠惰な日々を過ごし、いざ直前になって慌てて準備しようと思っても、余裕が無くてバタバタしている人がいます。本人は仕事が多くて自分は大変だと思っているのですが、傍から見るともっと前から準備しておけば余裕十分にこなせたのにというケースもあります。

 自分の人生の速度を速めて、先取りして実績を得られるように工夫したいものです。そのためには見通しが立つとはっきりした事は思いついた時に早めに済ましておくことです。これを予習型人生と言います。
 例えば1週間の予定を立てた時に、必ずしておかなくてはいけないと予見できる事務があります。それを今こなす事で将来への余裕が生まれます。将来の空いた時間を利用して、その時にさらに先の仕事をこなすこともできるでしょう。もしも偶発的・突発的な問題が起きて、本来の業務に取り組めないトラブルが生じても、この時間的余裕があれば心は波立ちません。予習型人生は悩みを減らすための一手段です。

 これは仕事に限らず、病気・健康生活にも同じ様な事が言えます。快調な時から肉体の健康に気を使うのも予習型人生観です。
 病気にならないようにあらかじめ体を鍛えておくとか、疲労困廃する前に休むということです。周りを見渡してみると、倒れるまで働くのを止めない人や、倒れてから始めて休息をとる人が多いと思います。疲れるギリギリまで無理をしないで早めに体を休めておくことです。

 いろんな工夫をして自分の未来の人生の中での余裕の時間を創出していきましょう。悩みも疲れも少なくなっていくはずです。将来必ずおこる事態を読み取れる確かな先見性が充実した余裕を生み出します。

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 NO.6 判断・言葉 98.8.1

(判断)

 昔、2人の商社マンがアフリカへ靴を販売するための市場調査に出かけました。裸足で歩いている現地の人を見て1人の商社マンは「彼らは裸足で歩いているので売り込む余地がない。」と日本へ報告しました。ところがもう1人の商社マンは「彼らに靴をはかせる習慣を身につけさせれば、莫大な市場が産まれる。」と報告しました。
 これはビジネスマンが働く姿勢を考える上でとてもためになる逸話です。
 目に見える現象は同じであるにもかかわらず、今後の自分達の働きかけをどう変えていこうと思うかによって、将来のビジョンは全く異なってきます。自分の努力が加わる事で、未来がどのように展開するかと信じられるかで、以後の仕事実績は大きく左右されるということです。

 私たちは毎日接するいろんな出来事を無意識のうちに独自の色メガネ(先入観)を通して見ている事が多々あります。その色メガネとは自分自身の心の色合いだと思います。ですから仕事の上で自分なりの判断や結論を出す前に考えて欲しいことがあります。
 「今日の自分の心境は気分の良い方だろうか、悪い方だろうか?」を自問自答してみてください。

 例えば今日の自分はマイナスの見方をしやすい傾向にあると感じた時は「他人から聞いた悲観的情報も、今日の自分なら深刻に受けとめてしまうので、飲み込まないで鼓膜の外でとめておこう。今日思わず発する感情的な言葉はマイナスの内容で他人を傷つけてしまうかもしれないので注意しよう。もっと明るくなる話題・情報の収集に努めよう。」と自分を励ます事です。
 逆に気分や調子が良くて何をしてもうまくいきそうで高揚感を覚える時は「仕事を発展させる絶好の機会だが、調子に乗りすぎると物事の判断が甘くなって問題点を見失うかもしれない。できるだけ周囲の人達への気配りも考えなくてはいけない。」と自分を抑える心がけも必要です。

 その日の自分の気分を客観的に分析しながら、それに合わせて心がけを変えていけるなら、判断ミスも減っていくでしょう。

(言葉)

 今までの自分の人生が若い頃に思い描いていた通りになっていないと悩む時、皆さんはその理由・原因をどこに求めていくのでしょうか?
 その根本には過去数十年間に自分の発してきた言葉にあると言えるかもしれません。数多くの言葉の集積の結果が、現在のあなたの境遇になっている所もあると思います。言葉には力があります。言葉の効能を知らずに不用意に発して生かさなかった責任は自分自身にあります。

 否定的で消極的な言葉を数多く使う人は、いつかは打ちのめされた人生を送るようになります。厳しい逆境・困難におかれた時、「自分にはできない。」という決めつけや自己限定の言葉を出すことで、今までどれほど皆さんの発展の可能性の芽をつみ取ってきたことでしょうか?
 無気力な言葉からは素晴しい実績は産まれてきません。何か新しい仕事を始めようとした時に一見自分の道を塞ぐように思える事物・環境・人が現われてきたとしても、実は自らの弱気を映し出している心の映像かもしれません。違った業務の遂行が怖くて勇気がないために、潜在意識の中で誰かに否定して妨害して欲しいと願っているのかもしれません。

 目標・夢を前向きに強く打ち出すためにも、積極的で肯定的な言葉を出し続けれる姿勢を普段から心がけましょう。
 否定的な言葉が思わず出そうになったなら、口をつぐんで黙っておくべきです。肯定的な言葉とは、自分だけでなく他人の人生も肯定する事も含まれます。どんな人にも長所と短所はあるので、その時に相手の特性を認識した上で、接し方を工夫してみましょう。人間関係を円滑にするためには、分析の結果判明した短所を忠告して指導することも時には必要です。しかしその後は、自分の発する言葉の中にはできるだけその方の長所・良い所を陰日向なく誉める機会を増やしていきたいところです。

 たとえ他人が自分へ悪意の言葉を浴びせたからといって、単純に反射的に自分も相手に悪意の言葉を発するのは賢明ではありません。職場の雰囲気を改善するためにも、各自が善意の言葉の供給者となっていただきたいものです。仕事を縁で知り合った人達を、どうすれば喜ばせて幸せにできるかを考えて、毎日の言葉を選びたいものです。

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 NO.7 感情・仕事の成果 98.9.1

(感情)

 人間には誰もが喜怒哀楽の感情がありますが、一般的にはそのままの感情をストレートに表に出せば周囲の人の迷惑をかけるという配慮があり、自分の感情を制御しようと試みます。
 この制御しなくてはいけないと思い立つ所が普通の動物にはない人間の特性です。しかし中には自分の許容範囲を越えたストレスがかかった時に、感情の制御が困難となり思わず爆発して職場の雰囲気を一気に悪化させる事もあります。感情の制御ができていない時は、周囲の人がどんなに心の持ち方を変えるように説明しても本人は心が波立っているので理解できません。その人にとっては心の持ち方とは感情の起伏の事であり自己管理はできないという思い込みがあります。ところがこの思い込み(先入観)こそが感情制御できない根本原因となっています。まずこの思い込みを捨て去ることです。

 心の持ち方というのは喜怒哀楽の感情を言うのではなくて、いろんな物事の見方・考え方を変えていく習慣をつけることを言います。
 私たちは産まれ落ちてから体験した様々な失敗・挫折を繰り返している過程で、知らないうちにある種の似たようなストレスが加わると必ず同じ様な考え方をしてしまう独特な癖が身についてしまいます。性格には先天的な生まれつきの部分がありますが、後天的には考え方の癖の蓄積の結果として身についてしまったものもあります。
 例えば誰かがあなたを誉めた場合、反射的に素直に喜ぶ人もいれば、すぐにこれは何か下心があるのではないかといぶかる人もいます。後者のタイプは自分は思慮深いと自認しているのかもしれませんが、相手を色眼鏡で見ている時点で、すでに正しいものの見方をしているとは言えません。前者のタイプのようにまず素直に喜んで、後から他に何か言ってきた時点で余裕を持って考えても良いと思います。あせったり、思わぬ忠告を受けた時に反射的に出てきやすい似たような考え方をする自分に気づいた時、これが自分の陥りやすいパターンなのだと見抜いた上で「よし、これからはこのパターンを変えよう。」と強く心に誓わなくては何事も始まりません。

 この単純な事に気づかずにいつもマイナスの考え方で固まっている人は、怒りや悲しみの感情の制御ができず、他人のちょっとした言動ですぐに傷つき苦しみます。周囲の人に自分の不幸な境遇を語り、他人の助けを求めています。
 ところが自分の感情のブレに気がついて管理できる人は自分以外にはありません。日々一瞬、一瞬に考え方・見方を変えていこうと自分で心がけ維持・継続するうちに、いつのまにか今までとは違った自分に成長していることに気がつくでしょう。

(仕事の成果)

 私たちが毎日こなしている業務が周囲の人達からどのような客観的評価を得ているかを認識するために、次の3つの視点で自己チェックしてみてください。

 第1には現在のあなたが周囲の人から「同じ時代の、同じ場所に一緒に生きていただいてて良かった。」と思われるかどうかです。逆に「いなければ良かった。」と思われるようなら値うちのない半生だったと言えるでしょう。

 第2には過去の自分の仕事の実績・努力の足跡として、自分はこれだけの事をこなしてきたと目に見える形で客観的なものとして残してこれたかどうかです。

 そして第3には自分の半生で培ってきた種々の経験から得られた教訓を明確に他人に語れるかどうかです。
 この教訓を自分だけのものにするのはもったいないと思います。他人に披露する事で、数多くの人々の学びの材料となっていきます。

 各人の独自の体験が、様々な個性を通して珠玉の思想として生まれ変わります。
 思想とは私達が学習して考えて実践していく中でつかみとっていく教訓であり、それを心に刻んで体系化したものが思想となります。優れた思想とは、他の多くの人のためになり、共感を呼び、役に立つものであり、そのように感じられた教訓は貪欲に求めていくべきものだと思います。
 どれだけ価値ある豊富な思想を蓄えておれるかどうかが、仕事の上での助言・指導力の違いとなって現われます。

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 NO.8 病気・集中力 98.10.1

(病気)

 野性の動物に比べて人間はどうしてこんなに病気を患いやすいのでしょうか?
 現代人の身体はまるで病気の百貨店のようです。人間は幼少期より自然の猛威から保護されて温室育ちになったため、免疫機能が低下したこともあるかもしれません。動物園にいるライオン・キリンなどや飼犬・飼猫は時々病気をします。調教された猿回しの猿などは早死にします。ところがガンや胃潰瘍にかかった動物を大自然に返し放してやれば、病気が治るそうです。

 現代文明が生み出した管理社会は数多くのストレス・悩みをもたらし、病気が増加する一因になっているのは間違いないでしょう。生活習慣病の発生原因として食生活・環境汚染などの外的要因もありますが、内的要因として心の問題があります。毎日通勤してスケジュールに合わせて働いていて、それを当然として受け入れているようですが、時々無性に大自然の中に身を投じて伸び伸びと自由な時間を過ごしたいという願望を抱いている人も多いと思います。しかし現実にはそれもかなわず時間に追われた毎日を過ごし、その気持ちが自己処罰の思いとなって病気を作り出しているケースも多いでしょう。このような病気は身体が起こした一種のストライキだと言えるでしょう。
 病気で休む時に大切だと思える考え方が2つあります。

 第1は病気は自分の人生を阻害・妨害するだけの嫌悪すべきものだとは考えないことです。
 この時間を利用して、自分の今までの生き方・生活習慣についてじっくり振り返られる反省の機会が与えられたと考えることです。この時に見つけた反省点が、将来復職した後に業務を今まで以上に発展させられるためのヒントとなるでしょう。

 第2は病気は医者の処置や投薬をただ受けていれば治るのではなくて、自分の身体の中にある自然治癒力をどれだけ引き出せるかにかかっているのだと信じることです。
 同じ病気でも、この自然治癒力にはかなり個人差があることを私は臨床医の立場で経験してきました。この自然治癒力を十分に呼び起こす鍵は、自分に対する信頼がどれほどあるかに関わっています。自分を責めたり処罰しようとする考え方を捨て去り、心の葛藤をコントロールすることです。さらには、現在享受している医療関係者・看護者・介助者の方達への信頼と感謝の気持ちを抱き続けることで自然治癒力は倍加します。
 世の中には医学常識からは考えられないほどの奇蹟的な病気回復を示す人がいます。そんな生命力が強いといわれる人の心の内面にはこのような信頼感と感謝の気持ちで満たされています。

(集中力)

 仕事の上で私達が集中力を発揮するための出発点は、まず現在置かれている職場環境を静かに受け入れて積極的な意味を見い出すように努めることです。気の進まない業務内容をイヤイヤすれば、どんなにがんばっても効率は落ちます。自分に足りない能力を磨くチャンスが来たと捉えるプラス発想で乗り切りたいものです。そしていろんなものに興味を持って好奇心旺盛になることです。
 仕事の目標が散逸してはっきりせず、そのためやる気が起きず集中できない場合もあります。これからなすべき事を具体的に紙に書き出してみて、期限を区切って短期的目標を設定する事でやる気が湧いてきます。

 その次に試してみると良いのはスポーツ界でも広く取り入られているイメージ・トレーニング法です。
 会議や交渉事の前に話す内容と情景を明確に頭の中でイメージしてメンタル・リハーサルをしておくことです。さらには体調を整えるのも大切です。運動・栄養・睡眠のバランスを整え、酒・タバコはほどほどにして、疲れたら無理をせず休息をとるなどのあたりまえの事を普段から心がけておくことです。
 私的な問題・悩み事があって集中できない場合もあります。悩み事に関連した知識をできるだけかき集め、一番よかれと思える方針を決めたら『人事を尽くして天命を待つ』という一種の開き直る心境で動き出すことも一つの方法です。なにか動き出す事で硬直した頭脳がほぐれて良いアイデアが浮かんだり、我を忘れていつのまにか恐怖心が薄らいだりする事もあります。
 本番前の緊張感が強すぎるのも問題です。体の力を抜いて腹式呼吸で深呼吸することにより、無駄なエネルギーの消耗を抑えて集中力を高めることができます。

 最後に大事なのが心の中を感謝の思いで満たすことです。自分を支えてくれた数多くの人へのありがたいという気持ちが、恩返しの思いを純粋にして雑念を抱かず業務を効率的にこなしていける原動力となります。

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 NO.9 富者の条件・見方と考え方 98.11.2

(富者の条件)

 事業を起こしてそれがうまくいき富を蓄積していく人もいますが、本当に豊かになったという実感は次の2つの条件でチェックする事も可能です。
 第1は「自分の自由にできる物事の範囲が幅広くなってくる。」第2は「蓄えた財力でもってより多くの人々のお役にたてられる。」ということです。つまり、自分の自由になることが多くなれば自分で創造・選択する喜びが拡がり、豊富な財物でもって他の多くの人を喜ばせる事ができるようになるということです。しかし世の中で富豪だと呼ばれる人の中でこの条件を満たす人はいったいどのくらいいるでしょうか?

 収益が上がって繁盛したとしても毎日がハードスケジュールの業務に振り回され自由時間もほとんどなく心の余裕がない人もいます。せっかく得た富を溜めることだけに専念し、活用する機会を逸している人もいます。創業当初は高昧な理想を抱いて世のため人のためと決意して出発した事業も、それによって得られた収益も人生の目的を達成するための手段だったのに、いつのまにか金儲けが目的となり『守銭奴・けちんぼ』の悪評のレッテルを貼られてしまう人もいます。どんな金持ちだとしても、この2条件を満たさない富豪と呼ばれている人は物質的な富は手に入れられたかもしれないけれど、心の富は失っているとも言えます。

 私達は経済活動で手に入れた収益を単に金額だけで計算しますが、たとえ額が同じでも正当な手段で得たお金と不当な手段で得たお金の違いはあると思います。
 ですから時には収益を上げた時に、自分はどんな動機・行為・考えを持っていたかを振り返ってみても良いでしょう。あるいはどのように使うために貯金しているのかをもう一度明確にするために自問自答してみてください。金が人から人へ移動していく過程でどれだけ多くの人が喜ぶのか?あるいは悲しむのか?でその価値が問われます。多くの人の幸せを生む経済活動こそ本当の富者と言えるでしょう。

 現在の日本の不況の原因の1つに銀行の貸渋りの実態があります。多くの金が動きやすくなるように流通システムの改革・規制緩和ができる方向で知恵を絞ってみましょう。
 例えば高速道路は外国では無料なのになぜ日本だけ有料なのでしょうか?高速道路の建設費用は我々国民の税金で賄われていますが、通行利用税との『税の二重取り』で国民は苦しめられています。高速道路の料金所は現在の関所であり、その通行税が流通の円滑化・高速化の阻害要因となっています。料金所がなくなれば道路の混雑は解消され、マイカー通勤の可能範囲も拡がり、レジャーの幅も拡がり観光産業も活性化されるでしょう。インターチェンジ周囲の経済は活性化され地価も上昇に転じて、景気浮揚の一策になると思います。

(見方と考え方)

 私達が日々悩む原因はものごとの見方を中心に起きていると言えます。
 もしも盲(目が見えない)なら罪を犯す機会は確実に減るでしょう。美しい異性や大金や豪華な食事を見て欲望はどんどん膨らんでいきます。ここで大切なのは、眼を通じて入ってきた情報をいかにさばけた見方ができるかどうかが、感情の波立ちを抑えられるかどうかの鍵を握っているということです。つまり、見たことをどのように認識するかということです。ある人の言動に対して周囲の人の見方は様々です。

 例えば会社の中で若手の社員が「従来の慣習でのやり方を変更して別の方針でやってみませんか?」と新提案を訴えたとします。
 その様子を見た上司が肯定的にとらえるなら「彼は大変やる気があって積極的だし非常に将来性がある。」という見方もあるでしょう。しかし否定的にとらえる上司であれば、「彼は入社したばかりなのに、自分の立場もわきまえずズーズーしい奴だ。毎日の仕事をきちんとこなしてこそ理想は提示できるものであり、うぬぼれすぎている。もっと謙虚になるべきだ。」と冷たい評価をしてしまうでしょう。

 このように、同じ言動であるにもかかわらず上司の考え方で見方は分かれてしまいます。
 この2つの見方のうちどちらが真実に近い見方なのか考えてみる必要があります。そしてプラスの評価の方が正しいのなら、マイナスの評価をした自分の不愉快な思いはどこから来ているのか?その根本原因をたぐっていく必要があります。すると、自分が若手社員時代に同じように積極的に発言した時に多くの人から批判された経験が反動になっていたり、あるいは自分は積極的に思ったことを発言できないタイプだったので自己嫌悪とその新入社員に対する嫉妬心が芽生えていたからという理由があったのかもしれません。その根本原因が突き詰められれば、次はそれを解消していく努力が大切です。

 結局、ものの見方とは日々私達が心の中に描かれる考え方につながっていきます。
 毎日外界から五感を通じて入ってくる刺激に対して、深く考えず短絡的に単純に反応している人が多いのではないでしょうか?そんな人は自分の目指す方向性も定まらずとりとめもないワンパターンの考え方で固まっていて、他の考え方をしてみようという余裕もなく、外的ストレスが大きければ大きいほど感情の起伏は激しいものとなるでしょう。
 人が心の中で考えている事は他人にはわかりません。しかしその考え方の中味は千差万別であり、レベルにも非常に違いがあります。もしも我々の心の中で考えている内容がテレビ画面に写るように他人から丸見えになったとしたらどうしますか?そんな状態を想定して恥ずかしい気持ちが強くなれば、それは本当の自分が望んでいない姿ですから、改めていく必要があります。いろんな外的ストレスに曝されても心のスクリーンが美しい思いで描けるなら、悩みを減らしていく事は可能でしょう。

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 NO.10 運命 98.12.5

 私達は人生の流れの至る所で壁にぶち当たり、それを乗り越えようと努力したにもかかわらず道が開けず挫折した時にこれも運命なのでしょうがないと諦める人がいます。運命論を強く信じる人の中には、自分の運命はもう決まっているのだから変にあがいてもしょうがないという人もいます。あるいは易や占に凝っている人の中には自分の将来を見越して限定してとらえているため、自らの才能を100%以上開花させるチャンスを逸してこじんまりと生きている人もいます。しかし運命をこのようにとらえてよいのでしょうか?
 運命を『人生の道筋』と考えた場合、運命を構成している因子がいくつかあると思います。それを車の運転に例えて述べてみましょう。

 まず第1因子は人間個人の資質・嗜好性です。
 これは人生の道筋を通っていく際の車の性能や特徴だと言えるでしょう。
 自動車でも速度の出るもの出ないもの、燃費の良いもの悪いもの、小回りの利くもの利かないものなど性能上の違いがあります。坂道に弱い車、荷物をあまり積めない車、大勢の人を乗せられる車などいろいろあります。これは生産時点で決まった性能であり努力でも変え難い部分です。

 第2因子は両親や兄弟などの家庭環境です。
 第3因子は現時代の生活環境・自然環境です。
 この2つの因子は、車であれば、舗装道路であるか?曲がりくねった道であるか?他にもたくさん車がいて渋滞しているか?案内表示がしっかりしてなくて道に迷うことはないか?という状況です。
 時には速度違反の暴走運転車からもらい事故を受けたり、左側通行を守らない車に遭遇してひやっとさせられることもあります。これについては社会に向けて安全運転キャンペーンを繰り広げることで少しずつ改善していく事もできますが、時間がかかってすぐには変え難い所です。

 第4因子は本人の努力です。
 運転手が練習してハンドルさばきを磨くとか、交通ルールを勉強し安全運転を心がけるとか、アクセルとブレーキの踏み具合のタイミングを修得してスムーズで快適な運転をするということです。

 第5因子は他人の協力です。
 交差点で運転者どうしが道を譲り合ったり、対向車が自分の車が右折しやすいように待ってくれていたり、知らない道も前に誘導車がいるおかげで迷うこともなく目的地にまっすぐ着くこともあるでしょう。これは交通法規ではなくて他人の思いやりです。

 1〜3因子についてはすでに決定されているので変え難いものがあります。しかし4・5因子については未確定部分として残されており、この部分をいかに自分の人生にアレンジして活用していけるかが勝負の分かれ目です。
 特に影響の大きい部分が本人の自由意志です。
 どんなに頑張ってみても身動きがとれない時は『じっとして待つ。』という自由意志もあるでしょう。あるいはなにか他の方法を工夫して前に進める事もありえます。例えば大通りの渋滞道路を避けて、わき道を通って近道を見つけて早く目的地に着く方法もあるでしょう。しかしこの冒険も失敗するとかえって遠回りになる危険を伴っているかもしれません。

 目的地までスムーズに行くためにもあらかじめ道路地図を見て予習してプランをたてて旅行に出発したいものです。今回の例え話しを人生の旅路に置き換えて考えてみてください。
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