好奇心コラム

NO. 1〜 8
NO. 9〜15
NO.16〜26
NO.27〜45
NO.57〜65
NO.66〜76
NO.77〜84
NO.85〜87
NO.88〜92
NO.93〜98
NO.99〜106
NO.107〜


 MIZ.VOL.3 日本再生のシナリオ PART1(NO.46からNO.56まで)
 [執筆者]
 水町祐之

 [紹 介]
 第三インテリジェンス代表。
 1952年、福岡県生まれ。日本大学大学院博士前期課程(管理工学専攻)修了後、一貫して経営コンサルタント業務に従事。執筆活動では[転換が迫られる日本型人事・教育システム(人材教育‥日本能率協会マネジメントセンター発行月刊誌、1998年11月号より)]。


●サブテーマ
日銀の出る幕はない / これからが与党内戦争 / 国全体が諫早湾 / 株式投資優遇税制 / 雇用と株式市場活性化 / 緊急経済対策 / 日本の癌になった政治家達 / 惰性を断ち切れ / 外国人投資家は見ている / 発展途上国からの脱皮 / お金は血液、株式市場は農園


 NO.46 日銀の出る幕はない--2001.3.1

 今日、日銀が追加利下げしました。しかし、株式市場はそんなことにお構いなしで下げています。

 考えてみれば当然です。3-4パーセントあるものを0.5-1パーセント下げるというのなら伝家の宝刀としての価値もありますが、もともとないに等しい公定歩合を形ばかり下げたところで如何ともし難いのです。

 今、世界中の投資家たちが日本に対して期待しているのは、当面の予算成立でも金融緩和(緩和されきっているのに緩和云々を議論すること自体が筆者には不思議です)でもありません。経済のしくみそのものを本気で構築し直す覚悟を持ってくれということだと思います。

 そして、文字通り一刻の猶予もなさそうです。もはや、政策転換を大々的にアピールするしか方法はありません。旧態企業が落ちていくのは仕方がないことだと諦めて、死にもの狂いで構造改革に突き進むとキャンペーンする時です。

 そしてその際には、旧態企業を食いつながせる政策(いわゆる公共事業などのバラマキ)ではなく、企業やさらにはそこで働く人々が変身するためのチャンスづくりに国を挙げた最大限の取り組み(企業の業態転換支援、中高年能力開発および転職支援、起業支援、さらには株式投資への優遇税制など)を打ち出し、構造改革の過程で表面化する企業の大リストラの波に備えることが求められます。

 これをすれば、国内の株式持合解消の売りを吸収するだけの海外投資家の日本買いを呼び込むことが出来ます。独自の判断で投資する見識のない国内機関投資家はこれに追随します、それしか方法はありません。日本の尖端製造業はまたまだ世界をリードしていく実力があるのですから。

 そのために必要であれば、首相をはじめ、現政権を総入替えすることに手段を選んでいるゆとりはありません。



 NO.47 これからが与党内戦争--2001.3.5

 本日、野党連合が出した今政権3度目の内閣不信任案は否決されました。短期間の間のこの不信任案の提出回数をみても政治の閉塞状況は明確ですが、今回の不信任案に限れば、連立与党に「錦の御旗」であり「人質」でもある「予算および関連法案」があり、経済情勢が情勢だけに野党も予算をズルズル引伸ばすのを避けての中途半端なタイミングでの提出でしたから仕方のない結果と思います。

 野党にとっては、この結果は、自民党議員の造反が期待できない以上、参議院選挙を見据えた一つのデモンストレーション的な意味合いの雰囲気なのでたぶん予定通りの結果で別段どうと言うこともないでしょう。

 ただし、自民党は、これで予算関連法案がスンナリ通り、今日本が直面している戦後最大の経済危機を乗り越えたと考えたら大間違いです。自民党を始めとした連立与党はいよいよ責任重大になりました。野党は不信任案提出で一応は有権者への責任を果たした恰好になりましたので、全ての結果責任が自民党に覆い被さる結果になったと理解すべきです。

 自民党の良識ある議員にとってはこれからが戦争の本番となります。党大会前までに、名実ともに構造改革を基本的スタンスにできる内閣の実現に向けて死にもの狂いで党内多数派工作をしてもらいたいものです。日本経済は、参議院選挙など関係なく沈没する危機が迫っています。

 もう、日本は、惰性の政策を捨てなければなりません。

 この大切なときに、内閣および自民党執行部はもはや政権としての機能がありません。党大会前までに旧態派議員を党執行部から一掃し、新しい政策発想の内閣を一日も早く樹立しなければなりません。自民党が自己の都合で自滅するだけなら勝手にして良いのですが、そのお陰で日本が三流国になるのはまっぴらご免というのが国民の総意だと思います。

 自民党の良識ある議員、特に、若手と言われてるような正義感の強い議員諸氏は党本部か何かに全員で押しかけて、座り込みでもして必死になって旧態議員の利権と惰性の政治から国を守らなければ存在価値などない。



 NO.48 国全体が諫早湾--2001.3.6

 今、日本経済全体が「諫早湾」になっています。

 有明海は(筆者の家の近くなのですが)海産物の宝庫でした。それが今は、計画当初こそ良かれと思い込んで諫早湾に堰を造ったばかりに壊滅のありさまです。堰をどのようにして開けるかは、今となっては、開けることによる悪影響もありましょうから技術的検討も必要になりましょうが、大切なのは過ちを正す姿勢で、過ちを認めより良い方向へ舵を切り直すことだと思います。

 非常事態では、過去の経緯やシガラミや使った費用への執着を断ち切ることが重要で、惰性は最悪です。そしてそれは政治家にしかできません。政治家は、選挙という国民審判を(一応は)受けているからです。

 官僚には無理なことです、もっと言えば、官僚にはやらせることはできないのです。官僚は決まったことを粛々とやることしかできません、決めるのは国民審判を受けた政治家の仕事です。

 諫早湾の問題は、当面深刻なのは一部の漁業関係の人々だけですから、仮に所得補償などをするにしても何がしかの金額があれば一定の時間的猶予もありますが、日本経済全体(株式市場)が諫早湾の様相になったら収拾はつきません。そして今、日本経済が、ちょうど諌早湾と同じような状況になりつつあります。

 間違いがはっきりしていることに意固地にならず、一日も早く経済政策の舵を切り直すことが必要です。株式市場が一時の猶予をくれている間に舵を切り直せれば良いのですが・・・。

 現時点の日本で明日の生活に困るほどの人はいないし、政治家や国民の多くがグローバルな資本主義システムの真っ只中に置かれた株式市場の重要性を正しく評価できないので、株式市場が大きなダメージを受ければ日本経済が沈没しかねないとの危機意識が少ないのが心配です。



 NO.49 株式投資優遇税制--2001.3.7

 本日、与党から、株式投資に対する優遇税制の概要が発表されました。株式市場が文字通り危機的状況になった今、本稿で何年も前から折に触れ指摘していたことを、やっと頭の硬い政治家諸氏にも理解してもらえたようです。ともかく、喜ばしいことです。

 これで、日本も「投資」という行為に対する先進成熟国並の環境が整うかもしれません。この法案は、何としても早急に成立させてもらいたいものです。それと同時に、株式投資にはリスクがつきまといますから、そのリスクに見合うような「企業の情報開示」に関する方面の制度も忘れてはいけません。現状では、お寒い状況とも言えますから・・・。

 今の銀行や郵便局にお金を預けても泥棒避けの機能しかありません。

 銀行や郵便局に集まったお金は、後ろ向きの「債権放棄」や、利権の温床である「財政投融資」に使われたり、国の赤字を埋める国債を買うくらいしか使い途がなかったのが現実です。銀行が企業に融資すると言っても、今の銀行に事業の将来性を評価する能力はありませんから、厳密な「担保」がなければ融資などしてくれません。

 これで、銀行や郵便局に死んでいたお金が将来性の有る事業(成長企業やベンチャー企業など)に少しでも回るようになれば、まだまだこれからも国が発展することが期待できそうです。

 そして、次の課題は、本格的な構造改革の過程で旧態企業(銀行、ノンバンク、ゼネコン、流通等)から否応無しに流出される余剰雇用への対策が重要です。成長企業が新規雇用の受け皿にもなりましょうが、いわゆる「雇用のミスマッチ」を解消するための労働者の能力開発事業に関して大きな政策の柱が求められます

 矢継ぎ早にどんどん新しい発想の政策を出してもらいたいと思います。そうすることが、日本が世界から見直されることになり、世界中の投資家のお金を日本に呼び込むことにつながります。



 NO.50 雇用と株式市場活性化--2001.3.9

 今までは何となく閉塞感はあったものの現実の暮らしに困るほどの人々はいないので私達の意識にも他人事のような甘えがあり、後手の政策(公共事業などで旧態企業を食いつながせる類の政策)でも何とか来れました。

 先般より不良債権の直接償却が現実的課題になり、昨日などは、輸出企業ための円安を意図してかどうかわかりませんが、宮沢財務大臣がついに「日本の財政はやや破局に近い状況だ、根本的な財政再建をしなければならない」とホンネを口にしました。

 日本経済が本格的構造調整に入った雰囲気を感じます。多くの企業で本格的リストラ(構造調整の動き)が始まりそうです。筆者は、これから一段と失業率が高まり、その現実に恐怖を感じる国民はますます消費を絞ると予想しています。当面は、消費は細る一方だから、目先の景気は期待できません。

 先手の政策が大切です。ことが起こって混乱する前に、いわゆる「セーフティネット」を用意しておくことが肝要だと思います。構造改革のショックを少しでも緩和する準備が緊急に求められます。

 それは雇用関連政策です。自分ががんばれば、例えリストラでもやり直せると中高年に自信を持たせる政策です。若年層はいくらでもやり直せますが、やり直しがきかないと考えがちな中高年層が失望したら社会が大混乱します。

 現実社会は人口構造その他の面でも中高年層がその中核です。構造調整で競争力のない企業が淘汰されるのは良いことですが、国としては、そこで雇用されている「人」は大切にしなければなりません。

 現実社会の中核「人」である中高年層がこれからも何とか身が立てられるという展望を持てることが重要です。

 新興企業は何か景気がいいようだな(実際にそれら企業の多くが株も上がっています)、何とかして自分もそっちへ鞍替えしたいなと感じ、積極的に新しい分野に従事してもらうためのインセンティブが必要です。構造調整が少しでもスムーズに進む環境を前もって整えなければなりません。

 そのためには、新興企業が成長するために自由に資金調達できる株式市場が活況にならなければいけないし、労働者が職の鞍替えをする手助けとしての職業能力再教育へ思いきった予算を投入することが必要です。



 NO.51 緊急経済対策--2001.3.10

 今日、新聞紙上で発表になった「緊急経済対策」を見ました。

 いかに緊急とは言え、お粗末な内容でした。今更この程度の提言しかできないとは、与党には全く危機感が足りないし、人材もいないらしい。これでは日本経済が本当に沈没してしまいそうで心配になりました。もっと思いきった、経済非常事態を乗り切って「新しい時代を迎える覚悟のメッセージ」でないと意味がありません。

 例えば、証券市場活性化で言えば、株取引に関する税金はほとんどタダにするくらいの覚悟を見せなければなりません。税務当局は税収が減ると心配する気持ちも理解できますが、そんなことはこの際どうでも良いことです。株取引関係税収が多少減っても、株式市場が活性化して新興企業が順調に成長できれば雇用機会も増えるし、消費も増え、減った税収の何倍もの規模で別の税収が増加すると発想することが大切です。

 今日の日本経済の閉塞状況は、お金がダブついているのに、そのお金が預貯金として死んだ状態で経済活性化に何ら役立っていないという点です。何とかしてこの死んだお金が株式市場に還流されなければ事態は好転しません。充分すぎるほどの国全体の資金が、債権放棄や利権の公共事業や赤字国債購入という後ろ向きのことにしか役立てられていないという点が、問題の本質です。

 それを打破するために税制面の優遇措置でアピールして株式市場に資金を誘導することが必要ですし、一方では、個人が安心して取り組めるだけの「情報開示や不正な取引」への監視システムという環境の整備が必要なのです。「情報開示や不正な取引」への監視システムに関連する内容は全く見当たりませんでした。

 政治家は官僚とは違うのだから、国の経済のあり方に対する哲学を示し、その移行のシナリオを描き、それを国民に説得することが役目だと思います。半端なシミュレーションなど必要ありません。



 NO.52 日本の癌になった政治家達--2001.3.15

 稀に見る政治のもたつきぶりに、先日などは、さすがに遠慮していた諸外国の新聞からもあからさまに日本の政治家達を嘲笑する記事が出ました。政治家達は恥ずかしくはないのでしょうか。

 日本経済は必死の瀬戸際に瀕しています。こんな状況でも政治家達はつまらない面子しか頭にないし、財務大臣たるや脳軟化症のごとき開き直りをするし、内閣は完全に機能を失いました。政治家達は、いったい、お国を何だと思っているのだろう。

 与党議員はテレビ討論ではまともに野党議員と討論する気概もないし、逃げ隠れするばかりでまるで腰抜けのありさま。打つ手もないままに、それでいて内閣総辞職する様子もない、国民はこんなことを許していていいのだろうか。

 日本の戦後復興を支えてきた自民党も、終戦後の復興という時代背景ではそれなりの役割を果たしましたが、最近の10年ほどの様子を振り返ってみると、日本再生を妨げる「癌」になった観がします。

 今までは、国民は一生懸命働き、国民が働いて貯めた余分なお金を預貯金として吸い上げ、そのお金をお上が「財政投融資」として、銀行が基幹産業育成のために融資することで国の経済をうまく運営することができた戦後復興期そのままの発想だけで経済運営に当たってきました。

 そしてその結果、財政投融資は利権集団の族議員や関連業界の暴走に歯止めをかけることができません。銀行は個々の事業の将来性を評価して適切に融資する能力を持てなくて今では「担保を評価する能力」しかないから「質屋」と大差ありません

 株式市場だけがかろうじて機能していますが、株式投資に嫌悪感を持つ人さえいるありさまだから未だにその重要性を正しく認識できない国民(政治家も含めて)が多いわが国では、株価がこのままズルズルと下がったら経済が崩壊しかねないという危機感は希薄です。

 国の経済が政治家の覇権争いのあおりで沈没しては外国新聞の嘲笑ではありませんが、国民としては笑い話にもなりません。全国民が、それぞれの手段で声を上げる時だと感じます。



 NO.53 惰性を断ち切れ--2001.3.21

 日産自動車が早くも過去最高の連結利益となったようです。グローバルな感性に磨かれた外国人経営者の手腕は見るべきものがあります。

 本コラムでは、1998年8月に「環境のうねりと戦略的視点」と題して露骨に日産自動車の経営風土をけなしたことがありますが、その日産自動車が、新しい発想の経営者を招き入れただけで、わずか2-3年の間に蘇りました。

 筆者は、ゴーン氏が世界の常識から見て特に際立ったことをしたとは思いません、たぶん、以前から会社内部では似たような再生計画があったに違いありません。旧来の経営風土にどっぷり浸かり、発想が硬直化した日本人サラリーマン経営者ではそれを決断する勇気がなかっただけだと考えます。

 今のわが国の状況(特に政治)が、ちょうど、日産自動車が傾いたときと同じだと思います。

 今決断すれば、構造改革も考えるほど困難なものではなく意外と簡単にできると思います。

 まだまだ日本の多くの尖端的製造業は底力が残っています。リストラ等で一部の人々に奮起が必要ですが、それはそれで、別途、職業訓練その他の雇用対策や起業支援などで対策は立てられるはずです。本体が潰れてしまっては全員が路頭に迷う、この視点が大切だと思います。

 従来の慣習や利権に染まりきった旧態政治家では絶対に日本再生はできません。いくらそれらしく景気浮揚云々と理屈を並べ立てたところで、旧態政治家はまわりからがんじがらめの「金縛り」になっているから改革は不可能です。せいぜいちょっとした手直しの目くらまし程度で、それでは間に合いません。

 旧態議員諸氏には、少なくとも、第一線からは引退してもらうことが必要です。どうしても議員でいたければ「ご隠居さん」のように発想豊かな議員の良き相談相手の役割に身を引いてもらいたいものです。与党連合の旧態議員諸氏は、今や「日本の癌」です。旧態議員が地元に帰ってきたらみんなで押し掛けて引退を説得してあげましょう。



 NO.54 外国人投資家は見ている--2001.3.23

 日銀の最後の政策転換と相俟って、森総理のアメリカ土産(森総理がいやいや約束させられた不良債権処理や構造改革の断行)がほぼ確実に実施されそうだとの期待から、本稿で何度も指摘している「外国人投資家の日本買い」の兆しが見えてきました。しかし油断は禁物です、わが国の政治家は喉元を過ぎればとたんに忘れるから質が悪い。

 それにしてもアメリカのお節介には脱帽せざるをえません、アメリカ様々です。アメリカも流石に頭ごなしには他国の経済に口出ししたくはなかったのでしょうが、自国経済が予想以上の急ブレーキ様相なので背に腹は代えられなかったのでしょう。

 ここ2年ほどのアメリカ経済は端から見ていても確かにIT株バブル状態でしたからアメリカ株式市場の調整はやむを得ないことでしょうが、臨機応変なアメリカ経済はどうにでも打つ手があり、少しは長引くことがあったとしてもそのうちに回復することと思います。

 問題は日本です。ここで、一気に構造改革を進めなければなりません。少しでも躊躇して、また旧態議員がでかい顔でシャシャリ出てせっかくの構造改革の芽を台無しにしたら、いよいよ日本経済は立ち直るきっかけを失います。良識ある議員諸氏には、手段を選ばずに、旧態議員を押さえ込んでほしいと思います。

 もう日銀は見守るだけです。財政も、やはり為すすべがありません。

 何とか、「わが国の弱みの部分(規制緩和や不良債権処理や構造改革などの遅れ)」を捨て去って、先進国型の産業構造を構築すると諸外国に見せつけるしか残された途はありません。単に規模が大きいだけの発展途上国型の経済から、先進国型の強い経済への脱皮です。

 わが国が先進国型の産業構造に脱皮できれば、これからしばらくの間を「日本の時代」にすることができます。ゆとりをもって高齢化社会への準備もできます。

 わが国ではIT産業(特にインターネット関係)などは端緒についたばかりです。欧米をはじめアジアの新興国にさえ大きく差をつけられたこれら産業は、日本ではまだまだ大きく成長する裾野の大きな産業分野です。そしてそれは、高齢化社会を便利にする方策でもあります。そのことを外国人投資家は良く知っているのだと思います。



 NO.55 発展途上国からの脱皮--2001.3.26

 高度成長期にある発展途上国では、道も橋も鉄道もビルも学校も電気も電話も自動車も生活用品も娯楽も足りないから、少しでも多くの人や資金をそれらに投入して最低限の基盤を整えることを急ぐのは、真っ当な発想です。

 そしてこの時代背景の中、わが国のほとんどの企業では、幹部候補社員に各部署を経験させ社内人脈を築かせることでゼネラリストを養成することに力を入れてきました。これも、その時代としては一理ある人事管理のあり方でした。ゼネラリストと言えば聞こえは良いのですが、実は「寝技や腹芸」が得意な人が会社で出世した時代と言い換えることもできます。

 「パイ全体が大きくなる社会」では個別分野の専門能力はさほど重要視されません。会社全体を何となく一つにまとめるリーダーシップが重宝されます。際立ったことをして失敗するリスクを負うよりも、他社と同じことをしながら後についていくだけでも規模の拡大で会社が成長できた時代だからです。

 多くの企業は、このことの間違いに十年ほど前から気がついて準備してきました。徐々にではあっても能力主義の人事システムに移行し、得意分野へ経営資源を集中させてきました。身を切りながら、自分で競争力の強化に精進してきたわけです。

 そんな時代背景の変化を無視して野放図な経営を続けてきたのが、いわゆる旧態御三家企業(ゼネコン、流通、金融機関)です。これらの企業はいわば自業自得なのだから、無関係な国民に負担を強いてまで公的資金などで助ける必要はありません。

 政治や行政も、国全体が旧態御三家になる前に発展途上国型の考え方に別れを告げるときです。まずは、発展途上国型政治家に日本の政界から退出してもらわなければなりません。国政に対する展望すらなく、仲間内での「寝技や腹芸」しか取り柄のない国会議員を駆逐することが重要だと思います。

 私たちも「政治が難しい」と考えるのは間違いです。本来、政治は難しいはずはありません。難しいと考えるのは「寝技や腹芸」の部分を政治とする日本人の悪い癖があるからです。成熟社会に向けた政策本位の政治を実現しなければなりません。



 NO.56 お金は血、株式市場は農園--2001.3.28

 しばしば国の経済を人の体に見立てて、金融機関が「心臓や血管」に例えられます。お金は、さしずめ血液です。
 このたとえ話が暗示するのは金融機関の大切さです。心臓が悪くて血液が体に回らなくなったら体そのものが死んでしまうから、何としてでも心臓(金融機関)を補強しなければと主張する時によく言われます。

 この時に、無視されがちなのが、人間の体に像の心臓は入らないという視点です。

 今の日本経済という体は、体に入りきれないほど肥大症になった心臓を無理矢理に押し込んでいる状態です。郵便貯金も含めて金融機関が多すぎます。まずは、肥大した心臓を適度な大きさに落とさなければなりません。

 もう一点(特に旧態政治家達が)無視しがちなのが、栄養豊富な食物(企業)をバランス良く食べることでいい血液(お金)が造れるという視点です。

 健康的生活を維持するためには、やみくもに食べるだけではダメで栄養のバランスが重要です。肉ばかり食べていたら血液中のコレステロール(不良債権など)が多くなり、そのうちに確実に成人病(バブル経済)になることは誰もが知っています。

 年齢に応じたバランスの良い食生活が大切なのです。体が育ち盛り(発展途上国)の時は肉類を多めに採り基礎体力をつけることも必要ですが、もう日本は、肉類をほどほどに押さえた食生活に改める年齢です。

 肉類とは、まさに筆者がいつも指摘する旧態企業(ゼネコン、流通、銀行など)のことで、これからの日本に多くは不要です。たまには少し食べたくもなりますから、質の良い肉類が、味付けや盛り付けを損なわない程度にあれば充分だと思います。

 牛を育てる牧場や野菜を育てる農園にあたるのが、実は、株式市場です。

 欧米成熟国は、農園(株式市場)に大勢の人々が来て牛の世話をしたり作物を育ててくれないと食料供給が追いつかないことを知っているから、人々が来やすいようにさまざまな工夫をしています。

 入園料(株取引に関わる税金)は大幅に安くし、ドイツでは奨励金まで出ますし、農園荒らしの見張番(公正な取引の監視機関)を増強し、至れり尽くせりです。だから国民も、安心して、暇な時間(金融資産)の半分以上を農作業(株式投資)に充てています。

 日本も、国民がすすんで利用したくなる「魅力的な農園(株式市場)づくり」を急がなければなりません。そしてそこで、自分がこれから食べたいと思う作物を国民各自に自分で育ててもらうのが(つまりこれが直接金融)、成熟社会に一番相応しいやり方だと思います。

NO. 1〜 8
NO. 9〜15
NO.16〜26
NO.27〜45
NO.57〜65
NO.66〜76
NO.77〜84
NO.85〜87
NO.88〜92
NO.93〜98
NO.99〜106
NO.107〜

バックNOもくじへ//最前線クラブへ戻る//トップページへ戻る