好奇心コラム

NO. 1〜 8
NO. 9〜15
NO.16〜26
NO.27〜45
NO.46〜56
NO.57〜65
NO.66〜76
NO.77〜84
NO.88〜92
NO.93〜98
NO.99〜106
NO.107〜


 MIZ.VOL.3 日本再生のシナリオ PART1(NO.85からNO.87まで)
 [執筆者]
 水町祐之

 [紹 介]
 第三インテリジェンス代表。
 1952年、福岡県生まれ。日本大学大学院博士前期課程(管理工学専攻)修了後、一貫して経営コンサルタント業務に従事。執筆活動では[転換が迫られる日本型人事・教育システム(人材教育‥日本能率協会マネジメントセンター発行月刊誌、1998年11月号より)]。


●サブテーマ
新大東亜共栄圏 / 失なわれた10年と競争力回復 / 日本の格は下がる一方


 NO.85 新大東亜共栄圏--2001.10.9

 とんでもない狂気の沙汰が起こりました。ニューヨークのテロ事件です。世界の秩序が大きく変わりそうな気がします。

 筆者は、軍事的な制裁や国際貢献論議についてはどうするのが最善かは正直分かりませんが、アラブ諸国やアメリカを始めとした各国の反応を見て、これからの国際的な最重要課題が「南北問題」だということを改めて確信しました。

 また、アメリカ、イギリス、フランス、ロシアなどのいわゆる軍事大国の発言は目立つものの、それ以外のアジア諸国(特に東アジア諸国)の発言がほとんど聞こえてこないのが気になりました。

 そこで本稿では、軍事面や自衛隊云々の問題は横に置いとくとして、日本がこれからの時代に力を入れるべき国際貢献について考えてみたいと思います。


 昔、日本は軍事力を拠り所にアジア諸国をとりまとめようとしたらしい。筆者に歴史の知識が乏しいのでその経緯や詳細は知らないのですが、「大東亜共栄圏」という発想自体には大きな夢を感じます。

 どうして失敗したか、それは軍事力を拠り所にしたからだと思います。軍事力では支配することはできても、おそらく共存共栄はできません。いつもビクビクしながらより以上の軍事力保持を意識することになります。有り金を軍事力増強に使っても気安めに過ぎません。今回のテロの手口も、一例としてそれを物語っています。

 そして、軍事力を増強しても結果として生活は豊かにはなりません。生活が豊かにならなければ影響力が増しても何の意味もない。もっと、緩やかな統合が大切です。

 生活が充実している(贅沢という意味とは違う)人々が好んで世の中を騒がすとは考えられません。親の仇ならまだしも見ず知らずの者に鉄砲を撃つのが楽しいはずがないし、本当は家族とのんびり暮らすのがいいに決まっています。だから、世の中の人々の生活を充実させれば大半の紛争は解決すると思います。

 最近、折に触れ、イギリスと日本の違いはどんなところにあるのだろうと考えます。どちらも島国なのに人の気質はだいぶ違うように感じていましたが、今回のテロ事件への対応で何となく分かった気がしました。

 イギリスには、アメリカはもちろんカナダもオーストラリアも兄弟国がいくつもあり、一朝ことが起きれば一つの国のように行動する。日本にはそんな仲間国がない。また、イギリス人は、思い立って一旗揚げる気になればニュージーランドで牧場をとかアメリカでハイテクベンチャーをとか割と気軽にできますが、日本人にはそんな気安い国はない。

 日本人も、このグローバル時代、もうそろそろそんなことが気軽にできるようにならないものか、アジア諸国にはその可能性があると思います。

 例えば、土建業従事者や農林業従事者さらには自衛隊員OBなどから志願者を募って「国際産業振興支援隊(仮称)」を創設したらどうか。夢のような話ですが、やりようによってはうまくいきそうな気がします。

 当面は、失業対策事業を兼ねて失業保険程度の給与を出せば良い。役所主導のとってつけたような急場しのぎの職業訓練に精を出すよりも、既に身につけた専門能力で新興国の国家建設に汗を流してもらうというのは一石二鳥だと思います。

 日本では土建業従事者や農林業従事者はおそらくこれからはそれほど必要ではありません。森林の手入れをする熟練作業者は足りないくらいですが日本の林業実態では賃金を払えません。でも、これら現場専門家が活躍できる国々はたくさんあります。

 アメリカやその他の軍事大国達が数万人規模で兵隊を送り込むように、日本は、産業育成のための技術作業者や監督者を数万人規模で送り込む。きっとやりがいがあるに違いない。もちろん、支援隊には持参金(援助資金)をつけます。派遣先の国が気に入った隊員は住み着くのもまた良し。

 まずはアジア周辺国に派遣する。いきなりややこしい地域に派遣して身代金誘拐に巻き込まれたら元も子もないから、治安が比較的安定した地域で実績を積んで支援隊の能力をアピールすれば、紛争国もその効果を認識するかも知れません。

 ことが起きてしまった後の事後対策としては避難民の食料その他の緊急支援も必要ですが、日本が本来力を入れるべきことは事前対策としての農林業基盤やその作業技術的あるいは政策技術的な支援だと思います。支援先の国全体の生活基盤確立の手助けになる技術を伴った経済支援が大切です。

 恵んでやるという発想では物資が着服されたりしがちだし、ありがたいことではあっても、いつまでたっても当地の人々が自立できません。真に必要なのは、怖がられたり恵んでやることではなく自立を促す行為です。

 アメリカやその他の軍事大国達も軍事面や当面の経済的な価値に乏しいことに関心が薄いし、一方では自分にはその能力がないことも自覚しているから、ここ数日はパウエル国務長官や副長官はそれを日本に期待する発言が目立ちます。

 日本はその方面の人材は豊富です。過疎対策などで中山間地の農林業振興や生活向上に今まで莫大な補助金(補助事業や制度事業)を投入しているから、現場技術の蓄積や専門家も豊富です。

 中国や韓国などからその習得をめざした留学や視察が多いのを見ると、日本はその面で欧米を凌駕しているはずです。このノウハウや人材を幅広くアジア諸国に提供して、新大東亜共栄圏をめざすのが結果として世界平和にもつながります。

 日本は大都市より地方の方が実質的生活は豊かです。交通は多少不便で雇用の場が少なく絶対的収入は劣りますが、山奥の小学校にもプールはあるし生活が豊かなのは間違いありません。アジア諸国は都市と地方との格差は極端に大きく、地方は貧弱な生活です。

 アジアの新興国も都市周辺ではほっといても日本の民間企業が工業品の生産基地として開発しますが、地方は相手にしない。アジア諸国の地方の自立を国として支援するのが実は日本の国益です。例えばインドネシアなどは人口2億人、アメリカと同じ巨大市場です。

 農林業振興で全体の生活水準の底上げをめざした支援が紛争のタネを減らし、将来の日本のお客様を増やします。みんなに、ホンダのオートバイやシャープの冷蔵庫を買ってもらえるように手助けする。新大東亜共栄圏のできあがりです。


 一方で日本経済そのものに目を移すと、ニューヨークのテロ事件はバブルからの立ち直りに手間取っていた日本企業の業績にも追い打ち的な打撃を与え、製造業を中心に追加対策が相次ぎ、空洞化は止まることを知らないかのようにも見えます。リストラには拍車がかかり設備投資もアジア向け以外は絞り込むらしい。

 企業が海外に出ていくことを止めることはできません。企業は慈善事業ではないから利益をあげて資金を提供してくれた株主に報いることが大切な努めですから、海外で製造することでそれが可能ならそれもまた良し。

 ひょんなことからアジアの時代に拍車がかかることになりそうです。自動車はタイ、家電はマレーシアという具合、それに経済新興国の中国が割り込んでくる。当面はアメリカ依存度の強いアジアの企業は大変でしょうが、一方では沸き立っているに違いないと思います。

 ただでさえ日本の賃金水準は高すぎましたが、当分ドルが弱くなる状況で日本の賃金競争力は一段と低下することもほぼ間違いないでしょう。「ソニー」は中国やアジア諸国からの部品調達を大幅に増やす決断をしたらしい。「京セラ」の携帯電話の中国戦略なども良い例です。

 アジア諸国と日本が協力し合って新大東亜共栄圏を構築できれば、これまでの世界に例のない「軍事力に頼らないで世界に影響力を行使できる」巨大な勢力づくりも夢とばかりは言えないと思います。アジア諸国の国民はものづくりに長けた人々揃いですから。



 NO.86 失なわれた10年と競争力回復--2002.3.20

 ここへ来て、アメリカは、ITバブルとビンラディンショックからようやく抜け出せそうな気配です。

 アメリカの立ち直りとわが国ハイテク優良企業のリストラの進展と相俟って、何とか株式市場にも明るい兆しを感じます。ここで、構造改革により一段の拍車をかけ、このまま日本も立ち直れるように願うばかりです。


 しばしば、日本が停滞する様を、失われた10年とか20年とか言います。日本が失ったのは「競争力」。この期間に日本の競争力は見る見る低下し、現在は、世界の中で30番目程度にまで落ちぶれたわけです。

 仮に、全てを10-20年前の水準に戻せるなら、日本の競争力はほぼ回復することができます。ただし、その間、高齢化がさらに進んでいるので、人的な面の競争力を完全に回復させることはできないでしょう。

 結局、土地や株はバブルで実力以上に異常なレベルに高騰しましたが、それらは元の水準に戻りました。ところが、ほとんどの人が忘れたフリをしますが、実は、賃金だけはまだ元の水準に戻っていません。本当は、日本では賃金もバブルだったのです。

 日本の競争力を取り戻すには、世界の水準から見て適正な賃金水準に戻すことが大切だと思います。日本人の賃金が世界一高いのは、日本人の全てが世界一優秀な労働者だからではなく、これも単なるバブルに他なりません。

 折しも、春闘関連の話題が多くなってきました。大手の優良企業でも、三洋電機はワークシェアリングで社員賃金を実質的大幅カットし絶対水準よりは雇用維持を選択し、日立は5パーセントカット、その他ベースアップを中止する企業ばかりです。

 世界一の尖端分野で世界一高度なことをしている人々の賃金が高いのは妥当なことですが、そうでない人々はそれなりの賃金でガマンするしかありません。国民の大多数を占めながらも相対的に立場が弱い中小零細企業従事者は、実際、そうなっています。

 世界の目から見て、日本の金融機関や公務員などが世界一優秀だなどと考える人々は、たぶん皆無でしょう。それらセクターの賃金をその評価と見合う水準に引き下げなければなりません。

 グローバルな観点から賃金水準を下げる手段としては、金額自体を直接的に下げることの他に為替で調整する方法もありましょうが、為替というのは一方的な都合でどうこうできるほど単純ではありません。

 円安に期待している人々も多く、円安は賃金の側面でも効果的ながら、各国の貿易収支とかその他のさまざまな都合や利害や思惑で決まるのが為替だから、為替に過大な期待をしても一時的ならともかく長期的には不可能なこと。


 リストラの過程でどうしても避けられない失業率問題についても、いわゆる「雇用のミスマッチ」の本質を日本の政策担当者は正しく理解していないように感じます。

 日本の政策担当者は、ミスマッチ解消のため職業人の技能や能力開発に大きな予算をつけるらしい。しないよりはマシですが、今更その程度の発想ではミスマッチは解消できません。そんな次元のことが本質的問題ではなく、ミスマッチの本質は賃金の絶対額につきます。日本人の賃金が高すぎるから、雇用したくてもできないのが日本企業の実情です。

 企業がリストラする時は同じ能力なら賃金の高い人を優先してリストラします。日本企業のリストラで中高年が多いのは、これまでの人事慣行としていわゆる「年功序列」だったので、賃金の高い人には年齢の高い人が多いだけのことです。

 もう一つ大切な点は、一般の普通の企業に専門的な職業能力が要求される仕事はそう多くはないということです。真面目な人なら7-8年も習熟すれば遂行可能な仕事がほとんどでしょう。

 つまり、外国企業との競争が避けられない日本企業は、もはや均一に高い賃金は払えなくなったのです。要するに、日本人の賃金が高すぎる、雇用したくても日本人を雇用できない、だから、仕方なくリスクを犯しても海外を拠点とせざるを得ない

 企業は、やむを得ない選択としてリストラや賃金カットさらには海外進出で生き残ろうと必死ですが、一方で、「親方日の丸」意識下にある公的セクターは、まだそれほどの危機意識がない。実は「親方日の丸号」は企業以上に危ないというのに。

 「親方日の丸号」は目がくらむ巨額な借金がある。それでも借金を続けて「年功序列」の公務員賃金を払う、全く理屈に合わない。日本人の賃金が高すぎることを国民に示すためにも、公的セクターの賃金カットこそ最優先で実現すべきでしょう。日本の公務員賃金水準は、以前に数値で示したように、世界の水準から見たらベラボウです。

 日本の誇るハイテク企業は国際競争にさらされ、否応なくこれまで「禁断の領域」としていた本格的リストラや賃金カットを実施して競争力維持に躍起になっているのに、日本に不要となった斜陽産業や公務員がのほほんとしている現状は、全くおかしなことです。

 潰れてもいい斜陽産業の流通、ゼネコン、金融機関、特殊法人さらには一般公務員の賃金を早急に適正水準に引き下げることが急がれます。全国民の中に占める割合は微々たるものだから、消費にもたいした影響などありません。

 学者や政治家諸氏は、GDPに大きな比重を占めるのは消費だから所得が減ったら消費意欲が減退すると心配しているのかも知れませんが、そんな心配は無用。「規制緩和の遅れで、的を射たモノやサービスがない」から無意味なお金を使わないだけのこと。

 日本の多くの国民はお金がないわけではありません。いろいろな面で将来への不安があるために、必要以上に用心して使わないだけなのです。そこを間違えてはいけません。

 既に、国民の大部分を占める中小零細企業従事者のフリンジベネフィット(賃金外の準賃金的報酬部分)も含めた事実上の可処分所得は数年も前から大幅減です。今更に公務員の賃金を下げても、全体の消費動向にそれほど大きな変化はありません。

 それよりも、ここで公務員賃金を下げ、大企業の賃金などももっと下げ安い環境づくりをしてやることが大切だと感じます。そうすれば、日本の産業全体の競争力が増し企業業績も本格的に改善するし、その時期を今か今かと待っている外国人も日本への投資を増やすから必ず社会全体に活気が出てきます。

 社会全体に活気が出て将来の見通しさえ立てられれば、気晴らしにパーッとやるかとなるのが庶民感覚です。根っからの底辺庶民の筆者が言うのだから間違いない。

 ともかく、競争力の強いところにしか世界の資金は集まらない、それが資本主義の最も基本的な原則だと思います。そして、競争力の強い国にしか新しい発展はありません。


 先日は、ラジオで国会の予算質疑を聞いていましたが、質問者の突っ込みが足りないこともあり、総理の答弁からは就任当初の熱意が全く伝わってこなくなりました。棒読みのようすがラジオでも分かります。小泉構造改革が尻すぼみの雰囲気が感じられます。

 経済振興に関する質問も多いのですが、答弁は、日銀と協力して、切れ目ない予算執行、科学技術振興、大学等の起業支援云々に終始しています。

 科学技術振興にしても起業支援にしても、そのための予算をつけるとか補助金的な融資制度を設ければ良いとの発想でしょう。筆者に言わせれば、そんなことをしても全くのムダ金、今更お題目を唱えている場合ではありません。

 スクラップアンドビルドを急ぐだけ。不要企業はできるだけ早くスクラップし、新しい日本を担ってくれる新型企業を1日も早くできるだけ数多くビルドすることに邁進すれば、必ず日本は復活します。

 半導体製造装置や自動車基幹部品(オートマチックなど)などに代表される高度技術が要求される製造業は心配無用でしょうが、それら以外の一般的製造業の空洞化は防止できません。海外進出できればそれも良し、できなければスクラップするしかない。

 そして、守りの内需拡大を脱し攻めの内需拡大へ。ゼネコンの食い扶持を確保する類の内需拡大から、真に国民生活を豊かにしてくれるサービス関係新企業を育成した方が得策です。それらは個々にはそれほど規模が大きくならないかもしれないので、できるだけ数多く育成しなければなりません。

 例えば、高齢社会を担う介護や介助ビジネス、環境ビジネス、まだまだわが国の場合はケータイ電話以外は遅れが目立つITビジネスなど、事業のネタは沢山あるはずです。

 それらを1日も早く数多く立ち上げて育成するには、「公共投資」や「官や銀行主導のベンチャーキャピタル」では間尺に合いません。責任逃れしか頭にない官僚や銀行主導では、リスク真っ只中のベンチャーキャピタルが成功するはずがない。

 「税制改革」しかありません。生活者である国民にその立ち上げ促進や育成をまかせるのです。1400兆円の原資がある。「儲かる可能性があるから自己責任で、何とか頼む。仮に失敗しても税金面では大優遇します」とのメッセージを出せば良い。


 経団連は、先に、税制の抜本改革に対する提言を発表しました。当面の措置は、個人消費を喚起するための贈与税の基礎控除額引き上げ、住宅減税の拡充、都市再生のための優遇税などがキーワードになっているらしい。

 中期的な措置では個人所得税の課税最低限の引き下げ、法人税率をアジア諸国並みに引き下げること、金融市場の活性化のため勤労所得と資産運用による所得を切り離し資産運用による所得の税率低減も求めている、という。

 経団連も業界団体の一種だからだろう、筆者から見れば、将来の国づくりという観点からの提言としてはもうひとつ強烈なインパクトに欠ける。本来は日本に不要になった企業(土建業)を何とか延命しようとする姑息な手段に映ります。

 気の利いた人は、子どもが家を建てるとき資金援助するならややこしいことをせずに現金で渡す。厳密に言えばもちろん贈与ですが、事実上把握できないから、仮に基礎控除額を引き上げても実は今までとほとんど同じ、新しい消費喚起は期待薄。

 都市再生といえば今風でもっともらしく聞こえますが、これとて、何とかして不要なゼネコン等を助けたいという意図が見え隠れします。おそらく、都市の砂漠化に拍車をかけるぐらいのことが「オチ」でしょう。

 その程度のことでは将来の国づくりに向けた税制改革にはならない。少なくとも、それによって全く新しい消費は喚起できない。

 そんなことよりも、国に投資的判断をやめさせて、生活者一人一人に自分の将来の生活にとってどんな企業ができたら便利かを真剣に考えてもらい、そのための資金を積極的に提供してもらえるようにしなければ、新しい消費の喚起にはなりません

 それにふさわしい税制は、と必死で考えることが大切だと思います。「税制」は国づくりのメッセージなのです。


 日本経済が何故これほどまでに停滞するのでしょうか。

 筆者の持論は、生活環境や社会的ニーズが時代と共に変わっているのに今では不要となった企業を保護する政策(不良債権を処理しない)に固執する側面が一方にあり、他方では、新しい企業が誕生しないという側面があります。

 先進成熟国では、「開業率(誕生企業)」が「廃業率(閉鎖企業)」を常に上回っていますが、日本は反対です。また、その数値自体も日本の数倍です。

 つまり、先進成熟国では、時代に適応するために常に企業がスクラップアンドビルドされており、時代に合わなくなった企業がなくなる代わりに、それ以上の数の時代を反映した新企業が続々と誕生しています。不況下でもこの構図は変わりません。

 最初から大企業として誕生する「ドコモ」のようなケースは希だから、経済を活性化させるには、まず開業率を高めなければなりません。新規に誕生する企業がすべて成功することなどあり得ないから、何とかして、その数を増やす工夫が必要です。

 難しいことではない。国民に税金として提供してもらっている国づくり資金を、直接的に新企業育成に回してもらえるようにしむけるのです。投資関係優遇税制を繰り返し強調するのはその発想が根底にあります。「税制改革」はそのメッセージです。


 先日、鈴木その子氏(色の白さで人気のあった人)の遺産相続のことをある番組でやっていました。

 何でも80億円を越す遺産があり、相続した家族には50億円を越す相続税がかかるらしい。この相続税が高いのか安いのかはいろいろな見方がありましょう。

 筆者は、この相続税が、国の収入になり、またどうでも良いダム建設費の一部などに消えてしまうかと考えると残念です。もし、相続した人が、この税金分のお金を新進起業家(例え事業に不確実性があっても)に投資すれば、どれだけ世の中の豊かさや活性化に貢献できるだろう。少なくとも、国が緊急とも思えない施設建設に使うよりは絶対にマシなはず。

 ところが、そうはなりません。税制の基本的な思想が時代に合わないからです。まず税金を払って、残りは好きにして良いというのが現在の税制のメッセージです。だから、あまりにもバカバカしくて(リスクが大きくて)誰もそんなことはしません。

 国の投資判断が絶対に間違わない時代であれば現在の税制でも良いと思います。ですが、現実はそうではありません。国が直接計画したり自治体への補助事業として造った施設は、最近では閑古鳥の巣になるものばかりです。

 終戦後の発展途上国(例えばアフガニスタン)なら、道路や水道や食料その他、国民生活や産業基盤に不可欠なものをまず造らなければ始まりません。つまり、国が投資すべき対象がほぼ決まりきっています。

 しかし、ある程度の生活レベルの国では人々の価値が多様化し、何に投資すべきか誰にも分からない。だから、国はできるだけ投資的活動から手を引くことこそが大切です。後進国や共産国よろしく、国がいつまでもそれに執着するからそれを狙った政官業のジャパニーズマフィアだけが蔓延ることになる。



 NO.87 日本の格は下がる一方--2002.5.10

 企業決算発表を見ていると、ソニーやシャープその他の世界のどこに出しても引けをとらない競争力の強いハイテク優良企業群は、やっと最悪な状態を抜け出す気配です。もっとも、これら企業も現状ではアメリカ頼みの格好だから、アメリカ経済の行方次第ではどうなるか分からないと言うのが衆目の一致するところのようですが。

 筆者も、日本経済全体を見るとまだ最悪状態を抜け出していないし、失業率は横ばいですが底を打ってはいないと思います。このまま失業率が改善に向かうと安心するわけにはいきません。

 ハイテク優良企業群は、一昨年くらいから国内工場閉鎖や海外移転などによる大規模人員削減でやっとここまでに体質強化してきた企業群です。ハイテク優良企業群よりもさらに深刻なはずの金融機関やゼネコンや流通業の多くは、未だリストラの端緒についたという程度と考えて良いと思います。

 それら構造不況企業群のリストラが本格化したら失業率がこの程度で収まるとは考えられません。一時的には失業率7-8%程度までは見ておかなければならないし、このクライマックスが来て次に本当の景気回復になることくらい皆が知っています。いわゆる、ジョブレスリカバリー。


 食事前の方には不適切な例で披露するのもはばかられますが、4-5年前に「尻にとてつもなくデカイおでき」ができた時のことを思い出します。尻半分がパンパンに腫れあがり身動きするにも油汗が出て熱まで出るような時に、抗生物質で症状を抑えようとしても何の意味もありません。

 そのうち直ると放っていたのが悪かった、バイキンが入ったのです。こうなったら切開しかない。メスでチョコッと切開してもらえば「悪い膿」がドクドクと出ます。びっくりするくらいに出ます。でも、「悪い膿」を出すだけで、たちまち気分はスッキリし痛みも治まり次の日には死ぬ思いだったことがウソのように直ります

 日本経済の状況を冷静に見れば、有事立法や郵便民営化などにうつつをぬかしているときではなかろうに。それらも大事なことに違いありませんが、とにもかくにも不良債権処理を急がなければなりません。「不良債権」は「悪い膿」なのです。「大場より急場」と肝に銘じておかないと日本経済はとんでもないことになってしまいそうです。


 そんなことを思い出していたら、日曜日のサンデープロジェクトというニュースショー番組で不良債権問題を特集していました。何でも、不良債権の大部分が中小企業で、その中にはそこそこに技術力もあり忙しく仕事をこなしている企業も多いという指摘でした。たぶん、その通りだろうと思います。

 そんな企業を不良債権として潰すのはおかしいとして、地域の銀行が支援策を練っている云々という取材内容で、ある中小企業では、社長さんを始め従業員の給料を6割に減らす再建策でガンバルことになったとか。この事例は、日本の現状を実に端的に物語っていると思います。

 日本の中小製造企業は、まだ、絶対的な技術力ではアジア新興国より上でしょう。しかし、いくら技術力が勝ると言っても、10倍も20倍もの賃金の差ほどに技術力が優れているわけではありません。如何せん、日本人の賃金が高すぎるのです。

 筆者は、世界の中で日本人が競争力を維持できる賃金水準は1ドル160-180円位と思っています。でも、これまでも自動車産業や家電産業などに従事している自国民の利益を最優先してきたアメリカが、タテマエでは言葉を濁してもホンネで1ドル160-180円の水準をガマンするはずはありません。

 これを打開するには、トヨタやホンダや松下など世界的競争力のある製品開発能力をもつ企業がよりこれまで以上に積極的に生産を現地化するのが良いと思います。言い換えれば空洞化に他ならないわけですが、これらの企業に国内雇用云々を言うのは日本にとって自滅行為になりましょう。

 これらの企業には国内雇用の受け皿としてではなく、海外で利益を稼ぐことに専念してもらうしかない。そうすれば、貿易摩擦を心配することもなく円安にできます。円建賃金の絶対水準を下げないで八方丸く収めるにはそれしか方策がありません。

 それがダメなら、前述した再建企業のように賃金カットで立ち直るしかない。今にも潰れるかも知れない中小企業は、放っておいても自分達が生き残るためにそうします。誰も守ってくれないから選択の余地もないのです。

 問題は、政治家や監督官庁の利権の都合で庇護される金融機関やゼネコンや流通業や農業等や、さらには公務員です。真に日本を担っている大多数の中小企業のためにも、これら庇護されている業界の賃金を何とかして下げてやらねばなりません。


 折りしも、日立と東芝の家電大手は、自分のクビを締めることになりかねないとこれまでは躊躇していた白物家電やAVの中核技術を中国企業へ直接供与していく決断をしたそうです。空洞化で雇用にはマイナスですが、世界的レベルで競争力を維持して尖端企業が生き延びるにはそれしかないでしょう。

 もっとも、PDP(プラズマ・ディスプレー・パネル)テレビなど最尖端製品については国内で生産展開して海外への技術供与は当面はないようです。このようなやり方が、これからの尖端製造企業の戦略の主流になりましょう。

 最尖端製品は生産技術面の試行錯誤が必要な分野だから、いきなり海外展開しても生産ラインがスムーズに稼働しない。日本で生産技術に磨きをかけて技術を安定させ、世界中で普及し始めた後で海外展開するというやり方は的を射ています。このように、尖端技術分野は日本企業の得意分野だから国が支援しなくても自由にさせることで育ちます。

 日本の生命線の尖端企業はそれで大丈夫ですが、それだけでは国民は困ることになります。尖端分野の研究や開発の仕事は国内に残りますが、それに従事できるのは高度な専門力のある少数の技術労働者だけ。つまり、雇用全体ではますます厳しくなることが避けられません。

 それを補完するために日本が国として育成に力を入れるべきは、雇用の受け皿としても一段と重要度が増す諸々のサービス業だと思います。既に日本は世界一の高齢社会になっているのだから、そんな社会に必要なサービスは沢山あります。

 高齢者介護や介助や快適生活のための生活関連サービス。10年もすれば今度は若年労働力不足で健康者は全員就労時代になり、そうなれば質の高い子育て補助サービスも必要となりましょう。それらに対し、国民が安心して消費支出してくれるように国が舵取りすることが重要です。

 日本人は「ものや施設」は既に必要以上に所有しています。これ以上ハード面の消費を煽ってもバカげたムダ使いにすぎません。潜在需要があって先進諸国並に満たされていないのは諸々のサービス分野です。規制緩和策を促進するなどして、これらサービス業を活性化して生活大国をめざすことが大切です。


 先日、スイスの著名ビジネススクールのIMD(経営開発国際研究所)が、国・地域別の2002年世界競争力ランキングを発表しました。日本は49カ国中、昨年の26位から後退し初めて30位まで転落。後ろから数えた方が早くなりました。

 日本の民間ビジネス環境は「起業家精神」「株主の権利や責任」など個別の分析項目で最下位。政府部門でも「大学教育と経済ニーズ」「外国人労働者の雇用に関する法律」などで評価が低いらしい。「産業用電力コスト(48位)」や「中央政府の財政赤字(同)」も「際立つ弱点」と指摘。

 総合順位でアジアではマレーシアと韓国に初めて抜かれ、中国も31位に迫りました。日本は文字通り発展途上国以下、過去の蓄えで食べているだけの国に成り下がってしまいました。

 IMDは「日本は従来のように世界経済の回復に貢献できない」と悲観的に予測。ドルに代わる通貨の座についても円はユーロに敗退するとの見解を表明しました。 今更言われるまでもなく、筆者もほぼ同じ感触です。

 過去の遺産が大きすぎたのが逆にマイナスに作用したのでしょう。なまじ遺産が巨大だからそれにあぐらをかいたままで、韓国やその他の国々のように思い切った改革もできないでいます。

 小泉首相の行動がそれを如実に示しています。総裁選では何が何でも改革とアピールしていたのに、いざとなったら単に自民党の守護神になり旧態勢力との妥協しか頭にないようすに見えます。口先で体裁を繕うだけの改革に見え、なぜ改革を躊躇するのか不思議で仕方がありません。

 日本は今はまだお金持ちだからアメリカ国債などの上得意先ですが、欧米先進国もこれからは本気では日本を相手にせずに、財産が残っているうちだけは「金づる」として適当にヨイショしながら日本を「飼い殺し」にすることにもなりましょう。

 金持ち日本ですが、そのお金は、国民が間違っても勝手に起業投資や育成に使わない税制にし、利息なしでも黙って日本国債や郵便貯金に寝かせておくように仕向けて、それを「お上」が自由に使えるように仕組まれています


 また日経新聞(9日)によると、日本国債格下げに抗議していた日本政府に格付会社の一つから回答があったようです。門前払いの雰囲気らしい。世界の投資家の基本スタンスが「将来性」ということを知らない政府には今更ながら恐れ入ります。

 政府がいくらリキんで抗議したところで、世界の投資家から見れば「今のままの政治経済構造では日本という国に将来性がない」のは明白です。世界の投資家は冷静です。個々の日本企業には将来有望な魅力的企業も多いので実は多額の投資もしています。

 日本は個人金融資産も膨大で貿易黒字だから大丈夫と政府が強がりたい気持ちも理解はできるし、すぐに日本の財政が破綻することもないでしょう。しかし、今のままでは将来の見通しは立たないから、日本という国(日本国債)への投資はやめておけと言うのが格付会社の主張で、そう見られるのも無理もない。

 難しく考える必要もなく、個人に置き換えると良くわかります。語弊を恐れずに言えば、バブルで破産する人々は貧乏人(堅実生活者)ではなくむしろお金持ち(浪費生活者)が多い。破産する人々の多くが、何不自由ない生活でポケットにはいつでも使える十分な札束も持っています。

 お金持ちでも、その原資を「借金」するようになったら危ない。そんな人々は、それなりに仕事の稼ぎも大きく資産も持っており、つまり信用力があるから多額の借金もしようと思えば可能です。借金しない範囲なら贅沢も良いが、そんな人々でも借金したら浪費だけは禁物なのです。借金したら利息を付けて返さなければなりません。

 なまじいくらでも借金できるからと有頂天になり、我を忘れてそのままの生活態度を続けていると、ある日突然「目論見がはずれた時」に今度は雪だるま式に運命が大逆回転し始めます。瞬く間に破産です。

 そんな人々は「回しているお金の額が大きい」だけで、必ずしも「将来へ向けたお金の使い方」をしているわけではありません。「毎日が綱渡り」の自転車操業で、その日その日の生活を豪華に見せかけているだけにすぎません。

 日本が「どんな目論見でお金を回そうとしているか」の見極めが大切。世界の投資家も、日本が将来の国づくりへの投資として一時的には借金してでもとがんばっているのなら、少しばかり借金が多くても安心するでしょう。が、現実はそうは見えない。

 あれこれもっともらしく屁理屈をこね回し、相変わらず、本来は不要な土建屋や貸金屋などの旧態分野を死守しようと湯水のごとくお金を流し込むだけ。そんな国に将来は見いだせません。何とかしたいものですね。

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NO.77〜84
NO.88〜92
NO.93〜98
NO.99〜106
NO.107〜

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